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28-1 9月の環境の変化
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9月1日、日曜日。午前11時。
絵本サイトでの連載作品の原稿を整えた。出版社の編集部へ送信した後、ほっと溜息をついた。まずはひと段落がついた。今月から連載が始まる。
今までに書き溜めていた作品の中から編集者さんに選んでもらった。その結果、ピックアップされたのが、悪戯好きな魔法使いと、楽器を弾くのが好きな少年の話だ。家の門の辺りを掃除をしていたら、友達が苛められているのを発見した。掃除道具を持ったまま助けに行くと、実は反対だったという話だ。悠人をモデルにしている。
「タイトルを付けていないもんなあ~」
ほのぼのとした題名がいいのに思いつかない。こういう時には、黒崎の発想を聞こう。そう思って立ち上がり、テラスの方へ行った。
クッションを庭へ干しに行ってもらっている。アンがお伴をしたから、遊ばせているだろう。たまには青空の下に出てもらいたい。
「俺が青空が似合わないって言ったからさ~。出なくなったんだよ。うっうっ」
黒崎が家と会社との往復の日々を過ごしているからだ。来年の新体制に向けて、さらに準備が加速した。引き延ばすことなく、短期間でやると決めたそうだ。10月にはひとまず落ち着き、年明けから始めると聞いた。みんなからの賛成意見だ。
黒崎は先に進んでいるが、俺の方は答えが出せていない。歌手としての活動は続けられる。高宮プロデューサーから推薦されて、番組の挿入歌を歌うことが正式に決定した。昨日契約を結んだ。ソロ活動としての”黒崎夏樹”名義にする。DDとして活動する前提だ。体調のことで出来ることをやり、メンバーとして受け入れて貰いたい。
「悠人は反対だもんなあ。身体の方が大事だって。佐久弥は俺の意思だよって。歌は続けていけるから……」
新しいバンドの話もある。期間限定バンドで、短期間でもOKだと話があった。ソロで悠人の楽曲を歌い、ライブはしないという話もある。それでもいいよと、IKUから話をされた。時間をかけて育てたいからだという。有難いことだ。
庭に出た。辺りを眺めても、黒崎の姿がない。俺のことを一人にしないから、お義父さんの家には行かないはずだ。
「あれ?居ないなあ。黒崎さーん!」
「ここだ。アンが足を洗わせてくれない」
「甘やかすからだよ~」
灯台下暗しだった。近くの水場でアンの足を洗っていた。毛深くて、土が入り込むからだ。抱き上げて水場へ連れて来ても、嫌がって向こうへ行った。洗われるのが苦手ではなく、まだ外に居たいからだ。キリがないから戻らせる。
逃げたアンを連れてきた結果、今度は水で遊び始めた。ちっとも進まない。それでも黒崎は根気よく相手をして、ミッションをクリアしようとしている。
「これを見るのは何度目かな?」
「大人しくしてもらえない。……まだ遊ぶのか?」
アンが濡れた毛のままで走って行き、花壇の上で転がった。白茶の毛がこげ茶に変わった。黒崎がやれやれと腰を上げて、迎えに行った。
これを職場の人が見たら驚くだろうか?意外性はないとは思う。早瀬さんが言うには、迫力は変化なくても、優しい人だと思われているそうだ。
おいでと声をかけて、家の中に入る素振りをすると、こっちへ来た。そして、大人しく身体を洗わせた。
「置いて行かれると思ったからだよ。……あ、電話だ。伊吹お兄ちゃんからだよ」
「久しぶりだな。アンは任せておけ」
伊吹からの電話だ。母の心臓の検査入院が決まった事と、翌日には退院できる見込みだと聞いた。”お見舞いは、カンテールのアップルパイがいい”と、伝言を受けたそうだ。心配をかけないようにと、リクエストした可能性があるが、俺としては安心した。それを言える元気がある証だからだ。うちの近所の店だから、用意して送ると答えた。
「お母さんに電話をかけるよ。俺に内緒にするなって文句を言いたいから」
「それが目当てだ。素直じゃない母だ。……お前の方はどうだ?今度の収録は羽音さんと一緒だろう。兄貴がファンだから会いたいと伝えてくれ」
「やだよ。コネは使わせないからね。いくら親しくなっても……。先輩だよ」
「言ってみただけだ。元気で良かった。ベッドの営みは控えめにしろ。アモーレでルンバな夜は禁止だ。いったー!ソータ、叩くな」
向こうでは聡太郎の声がして、叩かれたようだ。この隙に電話を切った。さっそく黒崎が出かける支度を始めている。カンテールの言葉で分かったそうだ。近所を散歩がてら、歩いて店へ行くことにした。
絵本サイトでの連載作品の原稿を整えた。出版社の編集部へ送信した後、ほっと溜息をついた。まずはひと段落がついた。今月から連載が始まる。
今までに書き溜めていた作品の中から編集者さんに選んでもらった。その結果、ピックアップされたのが、悪戯好きな魔法使いと、楽器を弾くのが好きな少年の話だ。家の門の辺りを掃除をしていたら、友達が苛められているのを発見した。掃除道具を持ったまま助けに行くと、実は反対だったという話だ。悠人をモデルにしている。
「タイトルを付けていないもんなあ~」
ほのぼのとした題名がいいのに思いつかない。こういう時には、黒崎の発想を聞こう。そう思って立ち上がり、テラスの方へ行った。
クッションを庭へ干しに行ってもらっている。アンがお伴をしたから、遊ばせているだろう。たまには青空の下に出てもらいたい。
「俺が青空が似合わないって言ったからさ~。出なくなったんだよ。うっうっ」
黒崎が家と会社との往復の日々を過ごしているからだ。来年の新体制に向けて、さらに準備が加速した。引き延ばすことなく、短期間でやると決めたそうだ。10月にはひとまず落ち着き、年明けから始めると聞いた。みんなからの賛成意見だ。
黒崎は先に進んでいるが、俺の方は答えが出せていない。歌手としての活動は続けられる。高宮プロデューサーから推薦されて、番組の挿入歌を歌うことが正式に決定した。昨日契約を結んだ。ソロ活動としての”黒崎夏樹”名義にする。DDとして活動する前提だ。体調のことで出来ることをやり、メンバーとして受け入れて貰いたい。
「悠人は反対だもんなあ。身体の方が大事だって。佐久弥は俺の意思だよって。歌は続けていけるから……」
新しいバンドの話もある。期間限定バンドで、短期間でもOKだと話があった。ソロで悠人の楽曲を歌い、ライブはしないという話もある。それでもいいよと、IKUから話をされた。時間をかけて育てたいからだという。有難いことだ。
庭に出た。辺りを眺めても、黒崎の姿がない。俺のことを一人にしないから、お義父さんの家には行かないはずだ。
「あれ?居ないなあ。黒崎さーん!」
「ここだ。アンが足を洗わせてくれない」
「甘やかすからだよ~」
灯台下暗しだった。近くの水場でアンの足を洗っていた。毛深くて、土が入り込むからだ。抱き上げて水場へ連れて来ても、嫌がって向こうへ行った。洗われるのが苦手ではなく、まだ外に居たいからだ。キリがないから戻らせる。
逃げたアンを連れてきた結果、今度は水で遊び始めた。ちっとも進まない。それでも黒崎は根気よく相手をして、ミッションをクリアしようとしている。
「これを見るのは何度目かな?」
「大人しくしてもらえない。……まだ遊ぶのか?」
アンが濡れた毛のままで走って行き、花壇の上で転がった。白茶の毛がこげ茶に変わった。黒崎がやれやれと腰を上げて、迎えに行った。
これを職場の人が見たら驚くだろうか?意外性はないとは思う。早瀬さんが言うには、迫力は変化なくても、優しい人だと思われているそうだ。
おいでと声をかけて、家の中に入る素振りをすると、こっちへ来た。そして、大人しく身体を洗わせた。
「置いて行かれると思ったからだよ。……あ、電話だ。伊吹お兄ちゃんからだよ」
「久しぶりだな。アンは任せておけ」
伊吹からの電話だ。母の心臓の検査入院が決まった事と、翌日には退院できる見込みだと聞いた。”お見舞いは、カンテールのアップルパイがいい”と、伝言を受けたそうだ。心配をかけないようにと、リクエストした可能性があるが、俺としては安心した。それを言える元気がある証だからだ。うちの近所の店だから、用意して送ると答えた。
「お母さんに電話をかけるよ。俺に内緒にするなって文句を言いたいから」
「それが目当てだ。素直じゃない母だ。……お前の方はどうだ?今度の収録は羽音さんと一緒だろう。兄貴がファンだから会いたいと伝えてくれ」
「やだよ。コネは使わせないからね。いくら親しくなっても……。先輩だよ」
「言ってみただけだ。元気で良かった。ベッドの営みは控えめにしろ。アモーレでルンバな夜は禁止だ。いったー!ソータ、叩くな」
向こうでは聡太郎の声がして、叩かれたようだ。この隙に電話を切った。さっそく黒崎が出かける支度を始めている。カンテールの言葉で分かったそうだ。近所を散歩がてら、歩いて店へ行くことにした。
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