白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 身を任せて話を待った。急ぐことはない。寒くも暑くもない。何も怖くない。これから俺は、力を手に入れるために出発するからだ。

「お前のことを守る。約束した通りだ。歌手でも、黒崎製菓の道でも同じだ。……お前の中学時代の件で、週刊誌が興味を持った。メディアに露出が増えるからだ。うちの方で止めておく。ご両親のことも守る」
「お父さんが担当した傷害事件の無罪判決の関係?息子は喧嘩をしていたのに、無罪を主張できるのか。冤罪にしたのは中山弁護士の力で、本当はそうじゃないだろうって。……俺のことはネタになるのは理解できるよ」
「その通りだ。息子に絡めることが間違いだが。お前のことを名指ししないが、それとなく分かる書き方をするだろう。R&W が押さえておく。だたし、100%何もないわけがない。嫌な思いをする可能性がある。最大限に食い止める。いいな?」
「分かった。俺も頑張る。精神力を鍛えたい」

 黒崎の目を見て答えたのに、軽く首を振られた。すでに誤魔化しようないのか。どうして気づくのか?そんな素振りを見たことがないのに。メニューづくりを楽しんでいるとしか、話していない。いくら顔に出るとはいえ、見抜かれるとは思わなかった。悲しんでいることを。黒崎から顎を持ち上げられて見つめ返された。

「夏樹。こっちを見ろ」
「うん……」
「考えている事があるだろう。ずいぶん前からだ」
「うん……」

 黒崎製菓での勤務は、俺の方から希望していた。別の道とは違う意味でだ。グループ内での地位が欲しい。対外的に影響があるレベルまで。大事な人を守る力が必要だからだ。デビュー以降、それを思い知った。  

 悠人のこともきっかけだ。母親の恋人が麻薬密輸に絡み、悠人まで疑われそうになった。父が代理人弁護士になり、疑うことすらされなかった。さらには千尋製菓が控えていたし、黒崎製菓もいた。

 黒崎は俺が外に出て行くのを嫌がっている。綺麗な水の、流れの緩やかな川で泳がせたがっている。夏休みに家族で遊びに行くような。淀んだ川や、濁流もあるのだと言って。

 はっきりと自分の希望を話す。今まで聞いてこなかったのは、ステージを下りる、下ろす決断を待っていたからだろう。歌手の仕事をしても、表に出ない形を取る。それなら力を必要としない。穏やかな日常を送れるからだ。

「黒崎さん。俺、対外的に通用する地位が欲しい。恨みが理由じゃないんだ。黒崎家でも、実家のお父さんから守られている。今度は俺の番だよ。育ててくれた人だもん。あんたの肩の荷が減らすことも理由だよ。お義父さんは81歳だよ。労わってよ」

 そうかと、ひと言だけ返って来た。動揺も眉一つ動かさない。怒ってもいないし、否定することもない。しばらく見つめ合った後、黒崎が視線を和らげた。頬を撫でながら、微笑みかけられた。子ども扱いをされたみたいだ。

「今は何を言っても聞かない。今後は考えが変わるはずだ。コントロールしていく」
「いいよ!」
「もっと憎まれ口を叩いてこい」
「いいよ~、やってみろよ~」

 唇を尖らせて言い返すと、苦笑しながら引っ張られた。眉を寄せているのに笑っている。どんな心境なのかは分からなかった。

 さあ二次会へ行こうよと、右腕をグイグイ引っ張った。すっかり元通りだ。黒崎が笑っている。

 今夜は新月のはずだ。願いを託しておくいいそうだ。今日に合っている。空には、綺麗な夕焼けが広がっていた。
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