恋人はメリーゴーランド少年だった。

夏目奈緖

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1-1 キミと出会う一週前

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 5月3日、日曜日、16時30分。

 俺の名前は中山夏樹なかやまなつきという。高校3年生のゴールデンウイークを迎えたところだ。4月生まれの俺は約2週間前に18歳の誕生日を迎えた。この年になっても、両親や学校の先生に反抗しているから、子供っぽい性格をしている。

 先週は、テストの答案用紙に名前を書き忘れたから一点減点になったことで、担任の田中先生に文句を言ってしまった。しかしながら、先生は俺の理解者だから笑い飛ばされただけで、お説教は受けずに終わった。子供扱いされているのだと思う。

「疲れてきたーーーーーー。もうやめようかな。コルクボードをかたづけようっと……」

 ここは自分の部屋だ。数学の問題集を解いているところだ。今日は日曜日だから勉強をする日だと決めていて、朝からまとめてやっているからさすがに疲れてきている。もうやめておこうと思って教科書を閉じた。ついでにそばにある赤鉛筆も引き出しの中に片づけた。2年生までは授業で解けなかった問題があった時だけ勉強することにしていたが、3年生になるとそうはいかない。毎日のように問題集を解く日々だ。宿題というものはうちの高校にはないけれども、毎日のように行われるテストに合格しないといけないからこそ、家に帰った後も宿題するかのように机に向かっているわけである。

 目指す大学があるからこそ頑張っている。4歳年上で今年22歳になる兄の伊吹いぶきが通っていた大学だ。彼は休学して会社を起業したけれども、大学の話を聞いていくだけでもワクワクするぐらいに自分と気の合う生徒が集まっていると思うから、ぜひとも合格したいと思っている。

 妹の万理まりは高校2年生だ。まだ志望大学が無いそうだ。できれば教師を目指せるといいなと言っていた。俺は将来の夢がないからこそ学部も決めていない。それなのに大学進学はしたいということで、父からあきれ返られていた。母も同じ反応だった。田中先生は苦笑いをしていた気がする。

「はーーーーーー」

 大きなため息をついた。なんとかなるものだよという先生からの励ましを思い出したからだ。まじめに考えているのに将来のことが思いつかないなんて変だと思った。自分が嫌になるようなそうでないような。曖昧さが嫌なのに、そうなっていることが良い方になっている気もする。自分の将来のことを思うと気が落ち着いてくるのに、問題集を解いているとイライラしてくる。勉強するのをやめた方がいいのだろうか。

 ふと窓に映った自分の顔を見て、胸の奥がチクチク痛んだ。無表情だったからだ。これが素の自分だ。こんな表情で学校に行ったら喧嘩が起こりそうだと思った。今の学校ではいつも笑顔を絶やさないようにしている。それを俺は自分自身で『優等生の仮面』と呼んでいる。優等生のふりをすれば喧嘩が起きない。こんなに楽なことはないと思い、入学直後から続けている。でも問題があると思う。本当の自分を隠しているからこその不満がたまると思う。

 とはいっても、問題があるのは自分だけではない。俺が通っている学校の名前は私立開明高校という。周りと馴染めない生徒が集まる学校だ。全国から問題児が集まる学校でもあり、自分も中学生の時には問題児だった。今もある意味そうだと思う。学校では優等生の仮面をつけているくせに、家に帰ってきた後はコルクボードを引掻いて心を静めている状態だからだ。

 中学生の頃は殴り合いの喧嘩で憂さを晴らすしていた。暴力で解決しようとしている俺に対して、父から約束をさせられた。力ではなく『対話』で勝つようにと。兄の伊吹からは『笑顔で勝負しろ』と言われた。高校入学と同時に『優等生のふり』をするようになり、人間関係が楽になった。その代わりに偽物の自分が出来上がった。それでも上手くわけではない。偽物の自分でいる分だけ暴力を振るいたい衝動が抑えられなくなった。それで、コルクボードをカッターで傷つけて、それでも足りないときには指と爪で引掻いている。こういうことをしている間中も衝動を抑えられているとは思えない。それでも誰かを傷つけるよりも、ずっといいと思う。
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