49 / 152
7-3
しおりを挟む
お互いに向かい合っているから照れくさい空気が流れた。このまま戸惑ったまま時間が流れるのだろうかと心配になったけれど、すぐにその空気が消え去った。黒崎からどんどん質問され続けたからだ。料理は美味しいかとか、学校ではどんな授業をしているのかなどを聞かれた。どうしてそんなにたくさん質問してくるのかと聞くと、送迎している間、黒崎は車の運転をしているから話がしづらい時があり、今はこうしてゆっくり時間を取って話せるからだと言われた。それはそうだと思った。こんなに質問されると知り合ったばかりの者同士に思えた。まだ少ししか経っていないと思えなかった。黒崎と喧嘩することが多くて、たくさんの時間を過ごしてきている気になっていたからだ。
よく考えると、俺は黒崎のことをあまり知らない。どんな家に住んでいて、どんな友達がいるのかなどだ。それを話すと、どんどん質問してくれと言われた。そこで、黒崎レストランを作ったきっかけを聞いてみることにした。理由は簡単だった。やってみたかったという理由だった。黒崎の会社の名前は黒崎ホールディングスというそうだ。結婚式の二次会の店のように黒崎レストランという名前かと思っていたら、実は違う事が分かった。グループというもので、全体の指揮と管理をやっているのが黒崎ホールディングスだと教わった。説明を受けても飲み込めず、家に帰った後で勉強しようと思った。東京に住んでいる伊吹に聞くのもいいと思った。
「真面目な子だ。適当に流してもかまわないぞ」
「そう言われると、何でも調べている気がするよ」
「そうやってボールを返して来るから面白い。質問と答えを繰り返しても、飽きる様子がない。答えを返した時に、質問も付けて来る。もっと人と話すといい」
「俺は人と話すのは得意じゃないもん。人付き合いが苦手なんだ。優等生のふりの時は相槌だけ打って、自分のことは話していないんだ。聞き上手だって思われたら楽なんだ。家の中にずかずか入ってこられたくない気分なんだ」
「分かりやすい表現だ。話していて面白い」
「気が合うからじゃないかな?黒崎さんとは15歳の差があるのに、話題に困らないもん。あんたが合わせているんだろうけど」
黒崎からの返事はなかった。新しい料理が運ばれて来たからだ。全部が少量ずつだから不思議に思った。行儀が悪いから近くのテーブルは見られない。それでも品数と量に差があるのが分かった。黒崎に聞くと、俺が小食だと言っていたから量を減らして注文してくれたそうだ。今、食べているのはマイクロリーフのサラダだ。天然鮮魚のカルパッチョもある。さっき食べた鶏肉はクリームで煮込んであって、どれも美味しいと思った。
他にはどんなメニューがあるだろうかと興味が出た。メニューを見せてもらうと、沢山あるから驚いた。全部食べてみたいと黒崎に言うと、喜んでもらえて良かったと言って微笑まれた。また照れくさくなってしまった。
「さっき食べたマイクロリーフにはマスタードのドレッシングが合うね。チーズを入れたことがないから、家でも試してみるよ。この黒いのは何だろう?チーズなんだけど黄色いし……」
「黒トリュフと卵黄が入っている。アレルギーのことを聞くのを忘れていた」
「何でも食べられるよ。ありがとう。トマトスープも美味しかったよ。変わったパスタだね?食感が好きだと思ったよ」
「パスタはラッキオという。ブロッコリーのソースは進まないな。苦手なのか?」
「うん……」
連れて来てもらったのに、苦手だと言うのは気が引ける。言いにくそうにしていると、黒崎から笑われた。遠慮するなと言いながら。
「苦手なものは苦手、それでいい。好き嫌いを知っておくと、店を選びやすい。教えてくれないか?」
「ブロッコリーが苦手なんだ。でも、残さないようにするよ」
「やめておけ。無理をするな」
「ううん。どんな味なのかだけでも。……ん?すごく美味しいよー。クタクタに煮ているから、やわらかくて食べやすいよ」
「食わず嫌いだったのか?」
「ううん。家でも食べたことがあるよ。葉っぱの食感が苦手なんだよ。でも、このソースは美味しいよ。料理を作った人が上手だからだよ。お礼が言いたいぐらい」
「腕のふるいがいがある。伝えておこうか」
黒崎が視線を向けると、店員さんがそばに来た。何かを話しかけている。仕事の話は邪魔をしてはいけない。黙々と食べていると、白い服を着た人がやって来た。お店のシェフだと思った。わざわざ出てきてくれるなんて初めての経験で緊張した。さっそくお礼を言おうと思った。黒崎から促されて顔を上げると、シェフが微笑んでいた。
シェフにブロッコリーの話や、あっさりしたフライのお礼を伝えた。シェフが嬉しそうに笑うから、俺の方も笑みが浮かんできた。この店の雰囲気が好きになり、辺りを見回す心の余裕が生まれた。
「お礼が言えて良かったよ」
「シェフが喜んでいた。夏樹。感情表現が豊かだな。素直なところもある」
「え……」
「だから一緒に居たい。そう思わないのか?」
黒崎の目元が影を作った。まつ毛が長いからだ。それが分かるのは、顔の距離が近いからだ。まるでキスをされるかと思うぐらいで、なるべく後ろへ下がろうとした。心臓の鼓動が高まって、バクバクと打ち始めた。今にも飛び出しそうだ。黒崎のことをかっこいいと思ったからだ。
よく考えると、俺は黒崎のことをあまり知らない。どんな家に住んでいて、どんな友達がいるのかなどだ。それを話すと、どんどん質問してくれと言われた。そこで、黒崎レストランを作ったきっかけを聞いてみることにした。理由は簡単だった。やってみたかったという理由だった。黒崎の会社の名前は黒崎ホールディングスというそうだ。結婚式の二次会の店のように黒崎レストランという名前かと思っていたら、実は違う事が分かった。グループというもので、全体の指揮と管理をやっているのが黒崎ホールディングスだと教わった。説明を受けても飲み込めず、家に帰った後で勉強しようと思った。東京に住んでいる伊吹に聞くのもいいと思った。
「真面目な子だ。適当に流してもかまわないぞ」
「そう言われると、何でも調べている気がするよ」
「そうやってボールを返して来るから面白い。質問と答えを繰り返しても、飽きる様子がない。答えを返した時に、質問も付けて来る。もっと人と話すといい」
「俺は人と話すのは得意じゃないもん。人付き合いが苦手なんだ。優等生のふりの時は相槌だけ打って、自分のことは話していないんだ。聞き上手だって思われたら楽なんだ。家の中にずかずか入ってこられたくない気分なんだ」
「分かりやすい表現だ。話していて面白い」
「気が合うからじゃないかな?黒崎さんとは15歳の差があるのに、話題に困らないもん。あんたが合わせているんだろうけど」
黒崎からの返事はなかった。新しい料理が運ばれて来たからだ。全部が少量ずつだから不思議に思った。行儀が悪いから近くのテーブルは見られない。それでも品数と量に差があるのが分かった。黒崎に聞くと、俺が小食だと言っていたから量を減らして注文してくれたそうだ。今、食べているのはマイクロリーフのサラダだ。天然鮮魚のカルパッチョもある。さっき食べた鶏肉はクリームで煮込んであって、どれも美味しいと思った。
他にはどんなメニューがあるだろうかと興味が出た。メニューを見せてもらうと、沢山あるから驚いた。全部食べてみたいと黒崎に言うと、喜んでもらえて良かったと言って微笑まれた。また照れくさくなってしまった。
「さっき食べたマイクロリーフにはマスタードのドレッシングが合うね。チーズを入れたことがないから、家でも試してみるよ。この黒いのは何だろう?チーズなんだけど黄色いし……」
「黒トリュフと卵黄が入っている。アレルギーのことを聞くのを忘れていた」
「何でも食べられるよ。ありがとう。トマトスープも美味しかったよ。変わったパスタだね?食感が好きだと思ったよ」
「パスタはラッキオという。ブロッコリーのソースは進まないな。苦手なのか?」
「うん……」
連れて来てもらったのに、苦手だと言うのは気が引ける。言いにくそうにしていると、黒崎から笑われた。遠慮するなと言いながら。
「苦手なものは苦手、それでいい。好き嫌いを知っておくと、店を選びやすい。教えてくれないか?」
「ブロッコリーが苦手なんだ。でも、残さないようにするよ」
「やめておけ。無理をするな」
「ううん。どんな味なのかだけでも。……ん?すごく美味しいよー。クタクタに煮ているから、やわらかくて食べやすいよ」
「食わず嫌いだったのか?」
「ううん。家でも食べたことがあるよ。葉っぱの食感が苦手なんだよ。でも、このソースは美味しいよ。料理を作った人が上手だからだよ。お礼が言いたいぐらい」
「腕のふるいがいがある。伝えておこうか」
黒崎が視線を向けると、店員さんがそばに来た。何かを話しかけている。仕事の話は邪魔をしてはいけない。黙々と食べていると、白い服を着た人がやって来た。お店のシェフだと思った。わざわざ出てきてくれるなんて初めての経験で緊張した。さっそくお礼を言おうと思った。黒崎から促されて顔を上げると、シェフが微笑んでいた。
シェフにブロッコリーの話や、あっさりしたフライのお礼を伝えた。シェフが嬉しそうに笑うから、俺の方も笑みが浮かんできた。この店の雰囲気が好きになり、辺りを見回す心の余裕が生まれた。
「お礼が言えて良かったよ」
「シェフが喜んでいた。夏樹。感情表現が豊かだな。素直なところもある」
「え……」
「だから一緒に居たい。そう思わないのか?」
黒崎の目元が影を作った。まつ毛が長いからだ。それが分かるのは、顔の距離が近いからだ。まるでキスをされるかと思うぐらいで、なるべく後ろへ下がろうとした。心臓の鼓動が高まって、バクバクと打ち始めた。今にも飛び出しそうだ。黒崎のことをかっこいいと思ったからだ。
0
あなたにおすすめの小説
俺の推し♂が路頭に迷っていたので
木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです)
どこにでも居る冴えない男
左江内 巨輝(さえない おおき)は
地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。
しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった…
推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???
有能副会長はポンコツを隠したい。
さんから
BL
2.6タイトル変更しました。
この高校の生徒会副会長を務める僕・東山 優真は、普段の仕事ぶりから次期生徒会長の最有力候補と言われている。……んだけど、実際は詰めの甘さやうっかりミスを根性論でカバーしてきたポンコツだ。
こんなに頑張れているのは、密かに思いを寄せている安西生徒会長のため。
ある日、なんの奇跡か会長に告白され晴れて恋人同士となった僕は、大好きな人に幻滅されないためにポンコツを隠し通すと決めたけど……!?(内容は他サイト版と同じですが、こちらの方がちょっと読みやすいはずです)
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
イケメンに惚れられた俺の話
モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。
こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。
そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。
どんなやつかと思い、会ってみると……
極度の怖がりな俺、ド派手な先輩とルームシェアが決まる
雪 いつき
BL
幽霊が怖い極度の怖がりな由井 明良(ゆい あきら)は、上京した翌日に、契約した部屋が事故物件だと知る。
隣人である鴫野 聖凪(しぎの せな)からそれを聞き、震えながら途方に暮れていると、聖凪からルームシェアを提案される。
あれよあれよと引っ越しまで進み、始まった新生活。聖凪との暮らしは、予想外に居心地のいいものだった。
《大学3年生×大学1年生》
《見た目ド派手な世話焼きバンドマン攻×怖がりピュアな受》
バズる間取り
福澤ゆき
BL
元人気子役&アイドルだった伊織は成長すると「劣化した」と叩かれて人気が急落し、世間から忘れられかけていた。ある日、「事故物件に住む」というネットTVの企画の仕事が舞い込んでくる。仕事を選べない伊織は事故物件に住むことになるが、配信中に本当に怪奇現象が起こったことにより、一気にバズり、再び注目を浴びることに。
自称視える隣人イケメン大学生狗飼に「これ以上住まない方がいい」と忠告を受けるが、伊織は芸能界生き残りをかけて、この企画を続行する。やがて怪異はエスカレートしていき……
すでに完結済みの話のため一気に投稿させていただきますmm
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
この冬を超えたら恋でいい
天気
BL
夜の街で、凪は人生の底にいた。
古いアパートに帰る途中、父の残した借金の取り立てに絡まれ、逃げ場を失う。
そこに現れたのは、大手企業の社長・鷹宮だった。
偶然の救い。年齢も立場も違う二人は、その夜を境に交わることになる。
事情を多く語らない凪は、不幸が当たり前のように身にまとい、誰かに頼ることを知らない。
一方の鷹宮は、完璧な成功者として生きてきた男だった。
危険から守るため、鷹宮は凪を一時的に自宅へ迎え入れる。
冬の同居生活の中で、凪は少しずつ日常を取り戻していく。
大学へ通い、温かい食事をし、夜を一人で怯えずに眠る。
しかし、守られることに慣れない凪は、距離が近づくほどに自分から一歩引いてしまう。
それは、失うことを恐れる、健気で不器用な選択だった。
一方、鷹宮は気づいてしまう。
凪が笑うだけで、胸が満たされることに。
そんな自分の感情から凪を守るつもりで引いた距離が、
凪を遠ざけてしまう。
近づきたい。
けれど、踏み込めば壊してしまうかもしれない。
互いを思うほど、すれ違いは深くなる。
2人はこの冬を越えることができるのかーー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる