恋人はメリーゴーランド少年だった。

夏目奈緖

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 トイレに行ってきたところだ。これから黒崎が待っている店に戻る。でも、その足取りは重い。普段から強引な人だと思っていたけれど、さっきまでの黒崎はいつもより強引だった。送迎初日なら遠慮無く言い合いをしたかもしれないけれど、今の俺は喧嘩をしたくない気分だから我慢している。

 ここのモールを歩いている人達はみんな楽しそうにしている。気持ちが塞いでいるのは俺ぐらいしかいないと思う。早く帰りたいと思った。

「もう少し時間をおこうかな。そうだ!ジュースを飲んでいこうっと……」

 良い案が思いついた。近くにあるテイクアウトの店で休んでいこうと思った。さっそく黒崎に電話をかけるとすぐに出てくれた。そして、少し時間をおきたいからジュースを飲んでから店に戻ると伝えた。黒崎はもう少し店でボディークリームを選びたいそうだ。

 ここから少し歩いた場所に、テイクアウトのジュースやジェラードの店が並んでいる。周りに視線を向けると、俺と同じ年ぐらいに見える子達の、いくつかのグループから楽しそうな笑い声が聞こえてきた。みんな友達同士で来ているようだ。通路の椅子に座って、アイスクリームを食べている子達もいた。どのグループも楽しそうだ。

 俺も楽しそうに見えると思う。今の足取りは重くても楽しいと思っている。何度考えても、今日の黒崎はいつもより強引だ。そういう彼に少しぐらいは合わせてもいいと思った。仲良くなりたいからだ。

(楽しそうだなあ……黒崎さんと友達になる前は……、人から嫌われてもよかったんだ。無理してまで誰かと一緒に居るなんて、俺には考えられないし。でも、黒崎さんからは嫌われたくない。ちょっとぐらい無理してでも話を合わせたいって思ったんだ……)

 黒崎と出会った後、相手に合わせることも楽しいと思うようになった。自分は変わってしまった。田中先生からは、それで良かったのだとアドバイスされた。でも、すぐに変わっていった自分のことが怖いと思った。

(あ、そうか。今日は俺が合わせすぎているからなんじゃないかな……)

 そこで気がついた。黒崎の機嫌が悪いように思えたのは、俺が話を合わせていたからかもしれないと思った。でも、黒崎と喧嘩しないようにするには、そうするしかないと思う。

 頭の中で自問自答を続けていると、ジュースを売っている店の前に着いた。ここで飲んだ後、黒崎が待っている店に戻ろうと思った。

 するとその時だ。俺のそばに人がやってきた。同級生だろうか。そう思って振り返ったとき、思わず顔が引きつってしまった。会いたくない相手だったからだ。それは、中学時代に同じクラスだった高田だった。何度も喧嘩をしたことのある相手だった。知らないふりをしておこうと思ったら、高田の方から声をかけてきた。

「中山じゃないかー?」
「高田……」

 彼とは何度か殴り合いの喧嘩をしたことがある。俺が模試で良い成績を取ったことで嫌みを言ってきたからだ。ここで言い合いをするわけにはいかないから、軽く深呼吸して気持ちを落ち着かせた。

「中山。今日は森本と一緒じゃないのか?」
「高田。久しぶりだね。森本は一緒じゃないよ」
「へえ?とうとう友達をやめられたのか。性格がサイアクだもんな~」

 さっそく俺のことをからかってきた。中学生の時と変わっていないと思った。高田のそばには知らない男の子が三人いる。高校の友達だろう。高田と同じようにニヤニヤと笑っていた。

 いちいち相手にするのが面倒くさい。俺が開明高校に合格したことが気に入らないと、卒業式の時に言われたことを思い出した。受験したけれども落ちてしまったと言っていた。さらに高田の方から絡まれてしまった。さっさと話を終わらせようと思った。

 ここで喧嘩をするわけにいかない。中学生の頃の自分なら売られた喧嘩を買ったと思うけれども、今の自分は違う。イライラするのも損だと思った。こういう時は忙しいからと言って、この場所から離れると良いと思う。そうしたいと思って店から離れそうとすると、高田達に囲まれてしまった。もっと話したいことがあると言われた。だから仕方なく話をした。すると今度は、高田の方から、森本は元気にしているかと聞かれた。

「森本は元気にしているよ。俺はジュースを飲みたいからさ。またね」
「なんだよーー。図星で悔しいんだろ?」
「なにが?友達付き合いはしているよ」
「へえーーーー。だいたいさー、開明高校の奴って、自分が頭いいことを鼻にかけてるよな。ああいうのムカつく」
「はあ?知らないのに適当なことを口にするなよ」
「俺の友達が、サッカーの対抗試合で開明とやったんだよ。勝った後でも嬉しそうにしてなかったってさ。ダルそうにしていたって聞いたぞ。ムカつくんだよ。頭も良くて、スポーツでもランクが高いっていうのが……」
「この間の試合って先月だよね?たしか模試があったんだよ。特別授業もあったから忙しかったんだと思うよ。疲れていたんじゃないかな」
「そういうのがムカつく……」
「ふうん……」

 だんだん苛立ってきた。高田のことが嫌だと思った。高校三年生にもなって喧嘩を売ってくる彼を見て呆れてしまった。中学生の頃と何も変わっていないと思う。成績のことで突っかかってきた、あの日のように。

「高田。俺は喧嘩をしたくない。言いたいことは何だよ。結論を先に言えよ」
「覚えているよな?あの日の話だよ。中3の時。あの時の文句が言いたいんだよ!」
「ああ……。あの時かー。高田が悪いんだよ?余計なことを言うからさ」
「なんだって?」

 高田の顔が赤くなってきた。このままだと喧嘩が始まりそうだ。俺が帰ると言えばあっさり引き下がると思う。

 帰ろうとする俺のことを見て、高田が苛立った顔になった。俺と話がしたいのだろう。その表情を見て、当時の光景を思い出した。あの頃とそっくりそのままだからだ。
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