恋人はメリーゴーランド少年だった。

夏目奈緖

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 俺たちが中学三年生の一学期のことだ。テストで高得点を取った俺に対して、高田が文句を言ってきた。それがきっかけで喧嘩に発展して、教頭先生から叱られたことがある。俺が開明高校を受験するきっかけにもなった。伊吹から勧められたからだ。その時、彼から人間関係を円滑にするコツを教わった。お前は笑顔で勝負しろというものだ。

「笑顔で勝負か……」

 当時のことを思い出しながらつぶやいた。あれから二年経つ。人から嫌われてもかまわない。しかし、黒崎からは嫌われたくない。矛盾している。

「あ……」

 ふと気がつくと、隣に影ができていた。高田が俺のことを睨んでいた。すっかり存在を忘れていた。さすがに悪いと思ったから、素直に謝った。

「ごめん。ぼーっとしていたよ。どこまで話が進んだっけ?」
「馬鹿にするなよ!」

 高田から舌打ちされた。そしてその後、一緒にいる三人が話に割って入ってきた。俺の態度がムカつくと言っている。俺は相手にしないように決めた。

「そんな奴のこと、ほっとけよ~」
「俺らとは違うからさ~。友達がいないんだろ?こんな場所で一人だしさー」
「恥ずかしいよなーー」
「そんなに集団行動をしたいわけ?仲間外れが怖い?そういう気分が嫌?自信がないんだね。信念もないんだね……」
「はあ……?」
「大勢に埋もれていたら目立たなくて、批判されないもんね?臆病者!」
「なんだと?」
「俺は何も怖くないよ!」
「この……っ」

 高田達に囲まれた。ここから離れる方がいいと思った。タイミングを見計らうと、一人の腕が伸びて来たから、後ろに下がって避けた。囲まれたら面倒くさいからだ。これで彼らから離れることができた。

(あ……)

 するとその時だ。もっと離れようとした時、背後に新しい人影ができた。黒崎だと思う。さらに背中が温かくなって驚いた。彼から抱きかかえられたからだ。

「ここに居たのか。探したんだぞ?」
「黒崎さん……」

 黒崎が来たことで、高田達が静まりかえった。黒崎から喧嘩をやめてもらいたいと言われた後、彼らが舌打ちを打ちながら立ち去った。その後姿をポカンとして見送った。こんなにあっさりいなくなるとは思わなかったからだ。

「夏樹。お尻を叩いてやる。さあ、そろそろ帰ろう」
「帰るのは黒崎さんの家だよね?」
「もちろんそうだ。今日は泊まるんだろう?帰ったらスイーツを食え。まずは落ち着け」
「うん……」

 来てくれて安心した。誰かに対してそう思ったのは、小さな頃以来だと思った。さらに黒崎から頭を撫でられた。大丈夫かと聞いてもらえたから、軽く深呼吸しながら頷いた。

 助かったと思った。あのままなら殴り合いの喧嘩に発展していたからかもしれないからだ。もしかすると、高校は退学になったかもしれないとまで思って、背筋が寒くなった。そして、黒崎から連れられて、ショッピングモールを出た。
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