恋人はメリーゴーランド少年だった。

夏目奈緖

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 するとその時だ。藤沢から何度も名前を呼ばれていることに気づいた。黒崎のことを思い出しているうちに、帰り道から遠ざかっていたそうだ。電車は反対の方向だと教えられて立ち止まった。こうして黒崎のことばかり考えていて落ち着かない。そして、黒崎のことを振り回しているのでは無いだろうかと思って心配になった。

「ありがとう。もう少しで行き過ぎるところだったよ」
「黒崎さんの気持ちを聞いた方がいいよ。君に悪いことをしたと思っているなら、もう許したよって言うといいよ」
「ありがとう。藤沢は何か知っているんだよね?黒崎さんのことで引っかかるの?モデルの仕事の時に聞いた話があるとか……」
「悪い噂は聞いていないけどね。黒崎さんは兄貴が8人いるって聞いたんだよね?お兄さんの一人がプラセルの社長さんなんだよ」
「へえーー。藤沢の仕事先だよね。そういえば、親戚の人が勤務しているって言っていたよ。お兄さんのことだったのかーー」
「社長はいい人だよ。弟のことで引っかかるって話していたんだ。悪いことをしたと思ったとき、すごく悩むそうだよ。気にしていると思う。はっきり言った方がいいよ。もう許しているって」
「そうだったんだね。大丈夫だって言ってあるんだけどね。今晩電話して話してみるよ」
「付き合ったら?」
「え?」
「付き合ってみるといいよ。俺は応援する」

 藤沢からの言葉に驚いた。俺が悩んでいるからだと思う。でも、俺にはそのつもりはない。そう言おうと思って首を横に振ると、藤沢が微笑みかけてきた。いつもの夏樹だと言って喜んでいる。

「よかった!いつもの君が帰ってきたみたいだよ。俺達が何を言ってもはっきりNOだって言わないからさ。心配していたんだ」
「そんなに落ち込んでいたっけ?」
「うん。また怪我をしそうだよ。付き合えっていうのは冗談でもあるし、本気で言っているんだよ。君がそうしたいって少しでも思っているなら前に進んだ方がいい。あ、また首を振ったね。それならやめた方がいい。ぼんやりしていると怪我をしそうだって、黒崎さんに言うといい。はっきり断れるからね」
「それって、言い方がきつくない?」
「今よりいいと思うよ」

 藤沢が俺の左手を見つめてきた。昨日は学校で転びそうになり、左手を使ってしまった。一昨日も同じことがあった。さすがに心配かけていると思う。送迎も続けてもらわない方がいいと思ったとき、胸の奥がチクッと痛くなった。黒崎が傷つく顔が浮かんだからだ。これでは友達同士の付き合いすらも続けられなくなる。どうすれば最初の頃のように喧嘩をする自分たちに戻れるだろうか。
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