恋人はメリーゴーランド少年だった。

夏目奈緖

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(あ……、花火だ……)

 このままキスをするのだろうか。ぼんやりとそう思っていたその時だ。大きな音と同時に、辺り一面が光に包まれた。夏の訪れを知らせる打ち上げ花火だった。真っ暗な夜空に光の玉が上った。まるで宝石が散らばったように見えた。

 パン!……パン!……パン! 

「わあ……!きれいだね」 
「ああ。見られて良かった。今夜は中止かと思っていた」 
「すごいね。花の形をしていたよ。今の花火はダリアみたいだったよ。黄色い花火はヒマワリだねー!……どうしたの?俺のことを見ているのかよ。俺は花火じゃないよ?」
「分かっている」

  黒崎が俺のことを見つめていた。そして、目を反らせることなく黒崎から頬に手を添えられた。いつもなら避けようと思うのに、今の自分は反対だった。避けようとはしなかった。そして、このままキスをするのだと思ったけれども、されなかった。

「あ……」
「避けないでくれ」

 思わずホッとした時、そっと唇同士が重なり合った。不意を突かれたようだ。そして、何度も長いキスをされ続けているから息苦しくなり、黒崎の胸元を押しのけた。

「何するんだよ!」
「どうしたんだ?」
「キスするなよ」
「わがままを言うな。避けなかったくせに」

 黒崎が笑った。そして、俺が怒っているのに平気な顔をしていた。それを見て悔しくなり、彼のシャツの襟を両手で掴んで揺さぶった。でも、全く抵抗する素振りがなくてまた悔しくなり、今度は両手で彼の胸を叩いた。

「何笑っているんだよ」
「なんでもない」

 どのぐらいの時間、黒崎の胸を押したり言い返したりを繰り返しただろうか。どんなに揺さぶっても叱られない。ここに居る今、楽しいと思った。そこで、以前、黒崎が俺に言ってくれたことを聞き返してみようと思った。

「黒崎さん。あの言葉……、マジ?」
「お前が好きだという言葉か?」
「どんな子でもいいって……」
「どんな夏樹でも好きだ。そばに居たいし、そうする」

 胸がキュンとした。そして、胸の鼓動が早鐘のように打ち始めた。もっと黒崎と一緒に居たいと思った。でも、先に進む勇気が出ない。そばにいたいのに、そうしたくない。これが恋愛感情なのだろうか。恋愛とはもっと楽しいものだと思っていたのに、想像とは違っていると思った。

(どうしたらいいのかな?これって好きだってことかな?まだ分からないのに告白されても困るよね……。あ……)

 するとその時だ。俺が黙っているから心配して、黒崎が俺の名前を呼んでくれた。そして、具合が悪いのかと聞いてくれた。俺は大丈夫だよと答えて、軽く首を振った。

「黒崎さん。ありがとう。もう大丈夫だよ」
「熱があるんじゃ無いのか?そろそろ帰ろう」
「あのさ!黒崎さんは、どうして俺と一緒にの?こうして俺と居て楽しい?」
「お前の事が好きだから一緒に居る。楽しいに決まっている。夏樹。熱が出ているぞ。沙耶に迎えを頼んである。もうすぐで着くそうだ。上着を直してやる。着直ししておけ」
「ありがとう」

 黒崎から着せてもらっている上着を、もう一度着直した。黒崎と同じ匂いがする。苛立っていた時とは大違いの気分だ。落ち着いていられる。

 でも、胸の痛みが強くなった。それは、黒崎のことが好きだからだ。そして、沙耶さんに迷惑をかけてしまったという後悔をしながら、黒崎の上着に包まった。
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