恋人はメリーゴーランド少年だった。

夏目奈緖

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11-1 変化

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 6月27日。土曜日。15時半。

 温泉旅行から戻ってきて一週間が経った。あれ以来、黒崎とは友達づきあいを続けている。今日は土曜日だけれども、特別授業があり、学校に行っていた。珍しく今日は黒崎の迎えがない。いつもならまっすぐに家に帰るところだけれど、久しぶりに駅の近くのコーヒーショップに行って来た。そこで母から頼まれた焼き菓子を買ってきた。

 その後、ついでに本屋にも行きたかった。でも、明後日の帰りに黒崎に連れて行ってもらうから、今日はやめておこうと思った。それにはわけがある。さっきまで居たコーヒーショップで、サラリーマン風の男性からしつこくナンパをされて疲れてしまったからだ。

 どこかへ遊びに行こうと誘われて断り、店を出ようとした後、しばらく彼がついてきてしまった。大きな鞄を引きずるようにして持ったままで追いかけて来たから心配になり、一度足を止めて断った。それでもしつこく話しかけてくるから、その度に急いでいますと答えて、足早に去るようにした。でも、彼が追いかけて来た。

 俺はすっかり困り果てていた。そこへ、よく行く書店の店員さんが通りかかり、俺のことを助けてくれた。彼の名前を本山一孝もとやまいっこうさんという。彼が話しかけてくれたおかげで、ナンパしてきた男性が諦めてくれた。今、本山さんと駅の方に歩いている。近くのコンビニまで送ってくれるそうだ。俺は何度もお礼を言った。

「さっきの人、ここの地元の人じゃないよ。出張で来ている人だと思う。しつこかったねえ。よくあるのか?ああいうこと」
「たまにあります」
「ため口でいいよ。君の方が緊張するだろう?」
「ありがとうございます。俺がラインを見ていたら、横から見られていたんだ。知り合いかなって思ったんだ。でも、そうじゃなかったよ。」
「ああ、待ち合わせの相手が来なかったパターンだと思われたんだね。話しかけてきたっていうことはそうだよ。お母さんからのライン?」
「ううん。達也君から。ライブのチケットが取れたっていう報告だったよ。行きたがっていた会場だから、よかったねって返事を返した後、しつこく話しかけてきたんだ」
「横から見ていたんだね。嫌だなあ。さっきの店はナンパしてくる人が多いそうだよ」
「達也君もナンパされたことがあるらしいよ」
「そういう話を聞いたことがあったよ。さっきのお店じゃ無かったかな?」
「そうかもしれない。店員さんが助けてくれようとしていたんだ」
「ああーーー。困っていたからだろう」

 本山さんが悲鳴のような声をあげた。しつこい人は嫌だと言っている。俺もそう思った。

 さっき見ていたのは、ドラッグストアでバイトをしている大学生の山岡達也やまおかたつやからのラインだった。元は本山さんと同じ書店で働いていた人で、本山さんも知っている人だ。

 俺がマリールイーズという作家が好きだというところから話が盛り上がり、一緒にいた森本と一緒に達也とラインを交換した。その彼が音楽も好きで、行きたかったライブのチケットが取れたのだと喜びの報告が入っていた。よかったねと思わず声が出てしまったから、あのサラリーマン風の人が話しかけてきたのだと思う。チラチラと見られていた。本山さんにそう話すと、きっかけになったかもしれないねと苦笑していた。本山さんは28歳で、俺と同い年ぐらいの弟がいるそうだ。弟さんもしつこくナンパをされたことがあるらしく、気をつけないといけないねと家族で話し合っていたそうだ。

「達也君は元気そうか?」
「うん。やっぱり本屋の方がよかったなって言っていたよ。ずっといたくなるから本屋をやめたそうだよ」
「うん。そう言っていたね。ああ、コンビニに着いたよ。あ、電話じゃないか?」

 本山さんから教えられてスマホを見ると、着信音が鳴っていた。黒崎からだった。本山さんには黒崎のことを紹介したことがある。一緒に本屋に行ったときのことだった。すごいイケメンだねと驚いていた。言われた黒崎が笑っていた気がする。本山さんがいい人に見えたし、実際にそうだからだと思う。

「僕は先にお店に入っているよ。気にせず電話に出てあげて」
「うん」

 本山さんがお店に入って行った。軽く手を振ってお礼を言い、黒崎からの電話に出た。近くにいるから迎えに行くとのことだった。悪いから良いよと遠慮すると、もう向かっていると言うから、迎えを頼むことにした。
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