恋人はメリーゴーランド少年だった。

夏目奈緖

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 10分後。

 そろそろ黒崎の迎えが来る頃だ。黒崎が来るまで本山さんが一緒に待ってくれると言ってくれた。また何かあるといけないと思ったからだそうだ。本山さんと黒崎は顔見知りになっている。彼が子供時代に読んでいた絵本を探していたことがきっかけで、俺と知り合う前に話をしたことがあったそうだ。偶然にも俺が好きな作家のマリールイーズが書いた本だった。昔日本で発売していたけれども、今は取扱いがないそうだ。でも、復刻版が日本で発売決定になったそうで、黒崎が楽しみにしている。詳しいことを調べていた本山さんも嬉しそうだった。本が好きな人だとよく分かった。どんな本なのか俺も楽しみだ。

「本山さん、コンサートに行くの?」
「ああ。好きなグループがいる。そろそろ予約開始だったと思う」

 本山さんがスマホでコンサートチケットの一覧を見ていた。俺も横から見せて貰い、どんなライブがあるのか見せてもらった。達也と同じく、音楽も好きな人なのだと分かって嬉しかった。俺も好きだからだ。

 するとその時だ。本山さんが時計を見ながら首をかしげた。黒崎が到着するのが遅いから心配だと言っている。俺もそう思ってきた。

「そろそろじゃないかな」
「うん。もうすぐ着くってラインが入っていたんだ。道路が混んでいるのかもしれないし、仕事の電話が入ったのかも。待っていてもらっていいのかな。遅くなりそうだよ」
「いいよ。ライブチケットを予約したかったから。俺が行きたいのはこのバンドだ。リールグランだ。夏樹君も知っているだろう?達也君が話していたバンドだ」
「知っているよ!黒崎さんにも話したことがあるんだ。かっこいいよね。今年の秋に東京でライブがあるんだね」
「ああ。明日の昼から予約開始だ。達也君を誘ってみようかな。夏樹君は難しいだろう?東京だ。受験を控えているからなあ」
「うん。来年行けると良いなあ」

 俺も行きたいと思っているライブだ。来年はどうしているだろうかと自分の姿を想像した。目指す大学に合格している姿を浮かべた。でも、すぐ消えてしまったから、落ちたのかもしれないと思った。想像だけでもがっかりしてしまった。

「夏樹君、どうしたんだ?」
「受験のことを考えて落ち込んだんだ」
「あ、黒崎さんじゃないかな?」
「え?ほんとだ」

 本山さんから教えられて外を見ると、黒崎の車が駐車場に入ってきたのが分かった。そして、俺は財布から五千円札を取り出した。黒崎から押しつけられるようにして受け取ったものだ。今日返そうと思った。昨日車から降りるときに渡されて返せなかった。話し相手になっているお小遣いだと言われたが、受け取るわけにはいかない。両親に話すと、まずは自分から返すように言われたところだ。黒崎が受け取るのを拒んだら、両親から返すことにする。俺が欲しいCDがあると言ったから気を遣わせたのだと思った。

 黒崎から小遣いを貰うのはこれで三度目だ。毎回断っている。前回も断ると、寂しそうな顔をしていた。ああいう顔をさせたくないけれど、お小遣いは受け取れない。どう言い出そうかと考えていたとき、本山さんから声をかけられた。どうしたのかと心配そうにしている。

「夏樹君。どうしたんだ?」
「黒崎さんからお小遣いをもらったんだ。返さないといけないけど、受け取ろうとしないんだ。どう言うといいかなって思って」
「そうか。受け取れないって正直に言うと良いよ。よかったら僕ともライン交換してもらえないかな。ライブの話をしたいんだ」
「もちろん喜んで。これが俺のラインです」
「可愛い待ち受けを使っているんだね」
「うん。妹から教えて貰ったんだ。あ……」
「よかったら、一緒に行かないか?来週の日曜日だよ。会場はここの近くだよ」
「ベテルギウスだ!」

 本山さんが俺に一枚のチケットを差し出してきた。ベテルギウスというバンドのライブチケットだった。一緒に行く人の都合が悪くなったそうだ。本山さんの奢りだという。でも、貰うわけにはいかないと思った。
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