恋人はメリーゴーランド少年だった。

夏目奈緖

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 せっかくの誘いだけれども、自分が持っている小遣いではライブに行けそうにない。そう言って、本山さんにライブチケットを返した。きちんとお礼を言って断ると、本山さんがやっぱりそうかという苦笑いをしていた。そこで俺は達也に声をかけるといいと思いついた。彼も好きなバンドだったはずだ。

「達也君を誘ってみたらどうかな?ベテルギウスが好きだったはずだよ」
「そうだったのか。あの子の好みは広いなあ。せっかくだから君と行ってみたかったんだ。でも、無理はいけないね。そうだ!丸池広場の横にカフェができたのを知っているかな?チーズ入りのソフトクリームが美味しいよ。今度、一緒に行こうよ」 
「行ってみたいと思っていたんだ。俺もソフトクリームが好きなんです」 
「森本君も一緒に誘おうよ。あ……」
「あれ?」 

 するとその時だ。俺の肩に何かが触れた。振り向くと、黒崎が微笑みながら立っていた。おまたせと言っている。そして、俺の肩に腕を回して抱きついてきた。いきなりのことに驚いた。本山さんが引きつった顔をしている。彼も驚いたからだ。まさかナンパされているのだと勘違いしているのだろうか。彼は書店の店員さんだ。黒崎も知っているはずだ。

「黒崎さん。本山さんだよ。ナンパじゃないよ」
「分かっている。仲が良さそうだったから焼きもちを焼いた。本山さん、こんにちは。一緒に待っていてくれたんでしょう。ありがとうございます」
「いいえ。どういたしまして。夏樹君がナンパされていたんだ。ここまで送ったんだ」
「そうだったんですか」

 黒崎が俺の肩から手を離した。誤解が解けて良かったと思ったら、本山さんも安心した顔になっていた。まさかナンパから守ってくれたのに、自分が間違われるなんて思っていなかっただろう。黒崎にコーヒーショップでの話をすると、本山さんに謝ってくれた。本山さんが笑っていた。もう大丈夫そうだねと言いながら。

「じゃあ、俺は帰るよ。チケットのことではごめんね。達也君を誘ってみるよ」
「うん。また今度、お店に行くよ」
「待っているよ。黒崎さん。失礼します」

 本山さんが俺達に手を振った後、店から出て行った。その後ろ姿が見えなくなるまで手を振った。しつこいナンパから助けてくれたのに、そのナンパだと疑われて気を悪くしたと思う。誤解が解けて良かったと思った。黒崎も手を振ってくれていたから良かった。そして、本山さんが帰った後、黒崎から声をかけられた。

「またせてすまない」
「いいよ。急に迎えに来て貰ったんだ。いいの?仕事は?」
「今日は休みだった。こっちまで来る用事があったからだ。気にするな。買いたい物は無いのか?」
「今日はないよ。あ、のど飴を買おうかな。最近喉が痛くなるんだ」
「せっかくだから、他にも何か買っていけ。買ってやる」
「自分で買うよ。なに?黒崎さんも買うの?」

 黒崎が店のかごを手に取り、目の前のあったのど飴のパッケージを眺めながら、次々と商品をかごにいれ始めた。さらに日用品のコーナーに行き、今度はマスクをかごに入れ始めた。たくさん買うようだ。あれもこれもと選んでカゴに入れている。その手早さに驚いて、黒崎のことを見つめた。
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