恋人はメリーゴーランド少年だった。

夏目奈緖

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 俺がチケットを見ていると、達也がバンドのことを教えてくれた。人気があるのは知っているけれど、三年生に上がった後、音楽を聴く時間も探す時間も無くて、まだきちんと聴いたことが無かった。黒崎の車の中で聞いているのは、今まで知っているものだけだった。達也が残念がっている。

「夏樹君。このグループ、君も好きになると思うよ。やっぱり行けないのかーー。ははは。また今度にしようか。もう一度、本山さんを誘ってみるよ。そういえば、ベテルギウスの新曲が出たね。可視光線っていうタイトルの曲。もう聴いた?」
「ううん。まだだよ。かっこいい曲だそうだね。達也君はギターが好きなんだよね?」
「ああ。ファンなんだ。夏樹君、やっぱりコンサートに行こうよ。本山さんの方は断ったから悪いと思うよね?本山さんには俺から話すから一緒に行こうよ。ここのすぐ近くの会場だし」
「でも、だめだよ」
「お願い。一緒に行って欲しい。君と一緒に行きたくて、チケットを取ったんだ」
「え?」
「もっと早く誘うつもりでいたんだけど、言いづらくてさ。君のことが好きなんだ!」
「それって恋愛感情っていうこと?」
「うん。言えてよかった。言うだけで良かったんだ」

 いきなりの告白に驚いた。でも、達也があっさりした雰囲気でいるから、すぐに落ち着けた。俺は今誰とも付き合うつもりはないと言うと、達也が頷いた。前から告白したかったそうだ。

「君が都内の大学に行ったら、こっちの店に来なくなるだろ。遠くなるし。今のうちに言いたかったんだ。友達同士になってもらってもいいかな?」
「もちろんいいよ。コンサートに一緒に行くのはいいの?」
「いいよ。フラれても、気持ちが伝えられて良かった。すっきりしたよ。一緒に行こうよ」
「でも……」

 告白を断った相手と一緒に行かない方がいいだろうかと思った。黒崎とのことがあり、相手に期待をさせるなら行かない方がいいのだと思いがよぎった。今まで開明高校でも同性から告白されることがあった。その時は付き合えないと言って断ってきた。それから後、その相手とは普段通りに接している。あっさりしている。達也もそうなのだと思った。

「俺が告白したから行くのは嫌になった?」
「そんなことはないよ。成績が落ちたからさ。やめておいた方がいいかなって思ったんだ」
「君と行くのは最後かもしれないって思ったんだ。俺、また留学するかもしれない」
「そうなんだね」

 そこまで言われると、断れなくなった。行きたいと思う気持ちが大きくなった。でも、チケットは受け取らなかった。すると今度は達也からチケットを強引に渡されて、行けないよと言いながらチケットを返した。何度もそれを繰り返すうちに達也が笑い出して、諦めたよと言った。

「どうしてもだめかーー」
「大学に合格した後にしたいからさ」
「奢るよ。息抜きにどう?」
「奢ってもらえないよ。ごめんね。誘ってくれてありがとう」
「俺が無理に誘ったんだから謝らなくて良いよ。もう一度、本山さんを誘ってみるよ」
「うん」
「そうだ!ここのドラッグストアを教えてくれたお礼がしたい。ここは居心地が良いんだ。今度何か奢らせてよ。これからバイトだからさ。じゃあね。今夜、ラインをするからね」
「うん」
 
 達也のバイトが始まる時間が来た。彼が店の奥へ行くのを見送り、俺は店内で買い物を始めた。
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