恋人はメリーゴーランド少年だった。

夏目奈緖

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 22時。

 達也とのラインを終えて二時間経った。あれからすぐに眠っていたようだ。ベッドの上で寝返りを打っていると、ラインが入った。藤沢からだった。メッセージの内容は、今ラインできるかな?というものだった。できれば電話がいいそうだ。OKという返信をした後、藤沢から電話がかかってくるのを待った。数分後にかけてくるそうだ。何かあったのだろうかと心配になった。

(黒崎さん、どうしているかな?)

 ふと、黒崎ことが思い浮かんだ。東京へ出張に出かけた時は、今までなら電話がかかってきていたのに、今夜はかかってこなかった。今朝、ラインだけが入っていた。会食で深夜になるから、今夜は電話を控えておくというものだった。寂しいと思った。そして、まるで黒崎のことを待っているようだから、なんだか恥ずかしくなった。そして、さらに黒崎からのラインを読み返したくなり、画面を開いた。

「AM6:30 今夜は電話を控えておく。会食で遅くなるからだ。土産はマカロンにする。予約済みだ」

 画面を見ても、黒崎からは新しく入っていない。そして、達也からのメッセージを読んだ。おやすみと書いてあった。さらに藤沢からのラインを開いたとき、彼から電話が入った。一体どうしたのかと心配しながら電話を出ると、普段通りの藤沢が出た。そして、電話の内容は本山さんからのラインにも書いてあった原画展のことだと分かり、ホッとした。何かトラブルがあったのかと思って心配になっていたからだ。

『もしもし夏樹。夜遅くにごめん。今度の日曜日に、本屋でマリールイーズの原画展が開かれるそうだよ。先着15名様にポストカードセットを配布予定。整理券を配るそうだよ。君は勉強している時間だろう。俺が代わりに並んであげようかと思っているんだ。撮影が延期になったから予定が空いたんだ』
「マジで?いいよ。悪いから。自分で並ぶよ。本山さんからもラインが入っていたんだ」
『一緒に行こうよ。そうだ。黒崎さんが話していた絵本が発売されるそうだよ。子供の頃に読んでいた本を探しているんだろう?もうすぐで予約開始するそうだよ』
「へえーー。喜ぶだろなあ」
『タイトルはね、You met on that dayだよ。日本語訳版も発売されるよ』
「それだよ!黒崎さんが探していた絵本だよ」
『さらに続編も発売されるよ』
「すごい!黒崎さん、続編のことは言っていなかったんだ」
『子供の頃に読んでいたんだよね?黒崎さんが大人になったぐらいの時に続編が出ていたそうだよ。本山さんから聞いているかもしれないね』
「そうかも。でも、俺には何も言っていなかったんだ」
『教えてあげたら?』
「今夜も会食みたいなんだ。ラインを送ってみるよ」
『喜んでくれるといいね。じゃあ、寝るよ。夜遅くにごめんね。スケジュールを空けたくてさ。じゃあ、寝るよ。おやすみ』
「おやすみ」

 お互いにお休みと言って電話を終えた。心臓の鼓動が高鳴ったままだ。黒崎が喜ぶ顔を想像して嬉しくなった。いつも彼には世話になっている。何かお礼ができれば良いと思っていた。絵本をプレゼントしようかとも思った。

 この絵本のストーリーを黒崎から聞いてある。寂しがり屋で一人ぼっちの魔法使いが、森の中で少年に出会う。どうすれば仲良くなれるのか分からずに、意地悪ばかりをしてしまう。少年は優しい子で、素直になれない魔法使いの気持ちが理解できた。ラストでは彼らが仲直りしたそうだ。

 藤沢から聞いた続編のストーリーは、少年と魔法使いの二人が森の中の家で一緒に暮らし始めた後、喧嘩をしてしまうそうだ。でも、ちゃんと仲直りできるそうだ。俺もこの話があるのを知らなかった。前編は、俺も小さい頃に図書館で読んだことがあるような気がしていた。母もそう言っていた。

 ベッドから起き上がってネット検索を始めた。そして、原画展のページを開いた。そうすると、藤沢から教えてもらった通り、本山さんがいる本屋で原画展が開催されることが分かった。さっそく黒崎へラインを送った。You met on that day、あの日に出会ったキミが発売されるよと。

「良かった!キミにできることを見つけたよ」

 そして、続編である、キミにできることを見つけたよというタイトルも発売されることも書いて送った。今忙しかったらいけないと思いながらも、早く伝えたいと思ったからだ。黒崎の喜ぶ顔が見たいと思った。早く会いたいと思ったのは初めてのことだった。

 いつもなら電話をかけるところだけれど、遠慮した。これがちょうどいい距離感なのだと思ったとき、胸の奥が痛くなった。そして、ラインの返事が来るかもしれないと思いながら、ベッドに入って目を閉じた。
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