恋人はメリーゴーランド少年だった。

夏目奈緖

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 黒崎が泣きそうな顔をしている。どうして彼のことを拒んだのかと思って、今更になって後悔した。黒崎と別れたくないと思った。恋人同士になりたいし、俺のことを離さないでほしいと思った。 

「車の中で話しただろう。お前と一緒にいるのは好きだからだ。お前はどうなんだ?」 
「えーっと……」
「この気持ちに困っている」 
「あの……」
「迷惑なのは分かっている。想いだけを伝えたかった。これしか方法が分からない。すまない」

 そんなことはない。泣かないで。俺はここにいるよ。そう言って抱きしめたいのに腕が動かなかった。黒崎の肩が震えている。俺も気持ちが高揚して緊張しているから、声を出すだけで精いっぱいになった。 そして、やっと黒崎に告白できそうになった。

「迷惑じゃないよ」 
「夏樹?」 
「黒崎さんは特別だよ。あんたの側にいる理由が欲しかった。俺も……」

 愛おしさが込み上げてきた。自然と笑みが浮かんできた。嬉しさで泣いているのか、自分の視界がぼやけて黒崎の顔がよく見えない。それでもいいから、今の想いを伝えることにした。

「あんたのことが好きだよ。友達じゃなくて」
「夏樹。よかった」
「うん」

 やっと言えたからホッとした。言い終えた後、黒崎の顔が近づいてきた。キスをするのだろうと思った。このまま目を閉じれば唇が合わさり、欲しかった体温を感じることができる。それなのに、なぜか身を任せたくなかった。まだ俺は怖がっているのだと思う。もっと付き合いを続けていった後に、キスをしたいと思った。これが俺の本当の気持ちだった。嘘はつきたくないと思った。だから正直に伝えようと思った。

「あのね。まだキスをしたくないんだ」 
「夏樹。どうしたんだ?」
「駄目だよ……。先に進むのは、まだ後がいい」

 顔を背けたから黒崎が心配そうな顔をし始めた。俺の方は気持ちが通じ合えた喜びと、まだ大人の男性のことを怖がっている自分がいることに気づいて戸惑い、言葉が出せなくなった。数分間、黒崎に抱きついたままだった。そして、やっと言葉を出せた。

「あんたのそばにいる理由が分かってスッキリしたよ。恋人同士ってことだね」
「ああ。ずいぶんと待たされた気分だ。キスはだめなのか」
「これからどうする?まだ寝ないよね?話でもする?」 
「恋人同士になったんだろう?」
「まだ先に進めないよ。ごめんね。DVDでも観ながら話そうよ」
「そうか」

 気まずい思いをしたくないから気分転換しようと話したのに、黒崎が眉をひそめてしまった。彼はキスをしたいそうだ。しかし、俺の方はまだ先に進みたくない。告白を断ったわけではないと言ったけれども、黒崎の方は戸惑っている。だからきちんと説明した。でも、納得してくれようとしない。

「黒崎さん。分かってよ」
「あのな。さっき、お前、俺のことが好きだって言っただろうが。友達としてじゃなくて。どういう意味だったんだ?恋人同士じゃないという意味じゃないだろうな?」
「ううん、好きだよ。恋人ってやつ。でもさ、実はそのあたりのことは、まだよく分からない。恋人ってどういうものかな?」
「それは……、キスしたり、ベッドの中で……」 
「まだ早いよ。そこまで気持ちが進んでいないっていうか。どうしたらいいのか分からない」 
「俺が教える。知っていたら腹が立つ」
「自分で気づきたいんだ。だから待っていてよ。今は友情のハグをしようか」 
「あのな。ここで友情が出てくるのは、おかしいだろう」
「黒崎さんこそ、俺のことは本気なんだよね?怒るなよ。冗談だってばーー。俺が女の子に見えているだけじゃないの?俺は男だよ」 
「分かっている。俺はお前の外見だけを見ていない」

 先に進めないと何度も説明すると、黒崎が分かってくれた。でも、体を見せれば、黒崎は俺が男だと思って躊躇されるのが怖いと思った。やっぱり女の人の方がいいと思うかもしれないと思った。

 なぜかそういうネガティブな考え方が思い浮かんでしまい、気を取り直そうと、黒崎の後ろにある冷蔵庫を開いた。黒崎が笑っていた。ゆっくりでいいと言いながらも、俺が言い出したことに驚いているようだ。

 キスはまだ先が良いと思う。だからごめんねと謝り、スイーツを持ってリビングに行った。黒崎が珈琲を煎れてくれるそうだ。

 数分後、お互いに隣同士に座り、珈琲を飲み始めた。そして、何もなかったかのような時間が流れ始めた。俺は気まずくなくて良かったけれども、黒崎はどう思っているのかと気になりながら。
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