恋人はメリーゴーランド少年だった。

夏目奈緖

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 黒崎に想いを伝えたい。客間から出た後、黒崎のことを探してリビングに行ったけれど、姿がなかった。また書斎に入ったのかと思った。そうなると声をかけづらい。その部屋をノックした後、どう切り出せばいいのか分からない。

 もしフラれたら?と想像した。泣きたくなるだろうか。それでもいいから想いを伝えたいと思った。どうしようもないほどに黒崎のことが好きだという感情が湧き上がり、思い知った。

 今の状態は片想いだ。この間、告白をOKすればよかったという後悔をした。でも、あのときは前に進む勇気がなかったから仕方が無いと思う。俺が告白すると黒崎はどんな反応をするだろうかと想像した。もうとっくに諦めたと言って戸惑われるだろうか。今更いい返事をもらえないかもしれないと思った。

 いつの間にか喉がカラカラに乾いていた。また水を飲もうと思ってキッチンへ入った。すると、黒崎が冷蔵庫の前で座っていた。冷蔵庫の扉にもたれかかるようにして、ぼんやりと天井を見つめていた。今日は変だと思った。こういう彼を見るのは珍しい。 

「どうしたんだよ?」
「ああ……」 

 本当に様子がおかしい。ふと、沙耶さんのことが頭に浮かんだ。この間、企業同士のトラブルが起きていると黒崎が言っていた。その事だろうか?それともあの仕事の資料だろうか?両方かもしれない。今の俺は相談相手になれないから寂しいと思った。でも、聞くだけなら出来ると思った。相槌を打つ相手がいるだけでも良いと思うだろうか。そう思って黒崎に声をかけた。 

「黒崎さん。何かあったんだよね?仕事のこと?俺でよかったら聞き役になるよ。分からないかもしれないけど、相槌だけでも打つからさ」
「いや、仕事の話じゃない。なぁ……」
「なに?」 

 黒崎が視線を向けてきたから、目の前まで行った。そして、彼が右手を伸ばして来たから、俺の方も手を伸ばした。その次の瞬間、強く握られて引っ張られた。その反動で前のめりになり、バランスを崩してしまった。 

「わっ!」

 小さく悲鳴をあげて倒れこみ、黒崎の身体へ覆いかぶさった。受け止められて安心しながら起き上がろうとすると、そのまま抱きしめられた。 久しぶりに抱きしめられて、胸の鼓動が高鳴った。腕の強さと匂いが懐かしいぐらいだ。このまま抱きしめられていたいと思った。

「今日はいつもと違うよ。よかったら話を聞くよ?仕事のことなら、力にはなれないだろうけど。聞くだけならできるから……っ」
「聞いてくれるのか?」
「うん……」

 黒崎のことを見つめた。悲しそうな顔をしている。彼の口元が耳へ寄せられた。そして、息遣いを感じて身体が震えた。さらに髪の毛をかきあげて、低い声で囁かれた。 

「分かるだろう?」 

 いつもと違う声だ。悲しくて、切なくて泣き出しそうな声だ。どうしたのだろう。こんな声を出すことなんてと思った。顔を覗き込もうとすると、もう一度囁かれた。 

「お前が好きだ」
「え?」 
「どうしたらいい?お前は本気で惚れた相手だ。お前から拒絶されたくない。友達でいるのはつらい。そばに居てもらいたい。友達の距離を保つことは難しい。告白を断られても離れたくない」 
「えっと……。優衣さんには謝った?」
「ああ。謝ってきた。今は話したくない。お前の返事はどうだ?」
「えっと……」

 もう告白を断ることはしたくないと思った。早く好きだと言いたいのに、緊張して言葉が出てこない。黒崎が泣きそうな声を出していた。だから自分の想いを伝えたいのに、胸がドキドキして苦しくて、唇が震えているから声が出せなくなった。
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