恋人はメリーゴーランド少年だった。

夏目奈緖

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 電話に出ると、普段通りの万理の声が聞こえてきた。家の中も普段通りだそうで、父も母も寝ているそうだ。万理が自分も寝ようかと思ったけれど、どうしても気になることがあるから電話をしてきたそうだ。

「もしもし?どうしたんだよ?」
『黒崎さんの家にいるんだよね?』
「うん……」
『お兄ちゃん。もし違うなら、冗談だって受け取って欲しいんだけど……』 
「なにー?」 
『黒崎さんのことが好きでしょう?友達同士って意味じゃなくて。男同士に偏見はないからね。伊吹お兄ちゃんも、聡太郎君と付き合っているし』 
「万理……、えーっと……」 
『泣いてるじゃん。私のことは気にしないでよ』 
「それは……、だめだよ」
『何がダメなのよ。お兄ちゃんは頑張ったんだよ?私にも好きな人が出来たの。告白はしないの。憧れているだけだから。前に進んだよ?だから、お兄ちゃんも進んでよ』 
「万理……」 
『好きって言いなさいよ。投げ飛ばすからね!』  

 じゃあね。黒崎さんに告白したらいいよと言われて、一方的に電話を切られてしまった。言い返す時間がなかったぐらいだ。スマホを眺めた後、信じられない思いで天井を見上げた。不思議なタイミングで電話がかかってきたからだ。 

「祈りが届いたのかな。万理に好きな人が出来たんだ……。誰だろう?年上の人なら先生かな?良かったなあ……」 

 新しい涙が出てきた。一歩前に踏み出したのか。あの子には笑ってほしい。その後が自分の番だと思う。今夜、自分の方から黒崎に告白しようと思った。

「もうそろそろかな。あ、新しい本だ……」
 
 そろそろ黒崎が風呂から出る頃だと思った。黒崎のことをリビングで待とうと思って立ち上がった後、ふと、本棚へと視線が向いた。そこには何冊かの本が置かれていた。この間この部屋に入ったときにはなかった本だと思った。黒崎が新しく置いてくれたのだと思った。

 よく見ると、それはアルバムだった。表紙をめくると、洋風の家が写っていた。そして、その家の門の前には、保育園児ぐらいの男の子と、大人の男の人が二人で並んで写っていた。これが黒崎の小さい頃のアルバムだと分かった。
 
「”圭一6歳、拓海21歳。3/1自宅前にて”。へえーーー。初めて見たよ。拓海さんって、お兄さんかな?」  

 ページを開いていくと、拓海さんという人が、黒崎のお兄さんのことだと分かった。その後にあった公園の前で写っている写真に、そう書いてあった。何枚も二人で撮った写真がある。でも、他の兄弟や親と撮った写真がない。別のアルバムにあるのだろうと思った。

 さらにページを開くと、ハロウィンイベントで撮った写真があった。そこには赤い着物姿の女性が写っていた。それは拓海さんだったから驚いた。他にも仮装をしている人達が写っていた。 黒崎が13歳の時だそうだ。

「そっか。ハロウィンだから女装したのか。お兄さんと仲が良さそうなのに、実家の話をしたくないって言っているんだよね。黒崎さんの話が聞きたいな……。あ、これは七夕祭りの写真だーー。もうすぐで七夕だな」
 
 この部屋には大きな窓がある。大通りに面しているから、下の方からの灯りが届いている。向かいの方のマンションの外壁に反射している。窓から歩道を覗くと、七夕飾りがされていた。もうすぐで七夕なのだと思った。今日行ってきた丸池公園広場でも祭りが開かれるそうだ。

「今日は三日か。七月七日まで、あと四日か……。もう七夕飾りをしているんだなーー。楽しそうだな。また広場に寄ってみようかな。今夜は星が綺麗に見えるなーー」 

 夜空を見上げると、いくつかの星を見つけた。織姫のこと座のベガと彦星のわし座のアルタイルだ。今夜は星にも願いを込めてみようかと思った。黒崎に告白できるだけで良い。きちんと言い出せることを、今年の七夕の願いにしようと思った。

 叶うといいのに。そう呟いた後、そっとカーテンを閉めた。想いを伝えられない心を隠すかのように。
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