眠れる森の星空少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 午前11時半。

 体が揺れたことで目を覚ました。目的地に到着したようだ。フロントガラス越しに『箱根ウイールポート』の看板が見えた。そして、一時間も寝ていたのかと驚いた。人前で寝るのは滅多にないからだ。早瀬のマンションに泊まった日もぐっすり眠れた。

 大きな荷物を持った人たちが通り過ぎて行く。両手足を伸ばして大きく伸びをすると、タオルケットが掛けられていたことに気づいた。

「ありがとう」 
「どういたしまして。さっきからお腹が鳴っているよ。お昼ご飯を先に食べようか。夕食はビュッフェレストランだ」
「うん。軽めに食べるよ。楽しみだな~」 

 出入口へ向かう間、早瀬が俺の荷物を全部持ってくれた。自分で持つと言ったのに、彼がそのままスタスタと歩いて行ってしまった。そして、俺の方へ振り向いて手を伸ばしてきた。

「忘れ物があった」
「そうなんだ。ええ!?」

 また早瀬から手を握られてしまった。今度はしっかりとした力だった。振りほどこうとすると、力強く引っ張られてヨロけた。そして、声をあげた俺にはお構いなしに歩き進められて、建物の中に入った。

(強引なのか、優しいのか分からない人だな……)

 心の中で文句を言っていると、施設内の案内図を見て心が躍った。コーヒー風呂、洞窟風呂、ウォータースライダーを見つけたからだ。すっかり気分が良くなったところで、また強引に手を引かれて、レストランへ向かった。 

 この館内には6つのレストランと、3つのカフェがある。俺達は3階にあるイタリアンレストランへ入った。大きな窓沿いのこの席からは、巨大プールの長い滑り台が見えている。向こうの方には滝もあった。

「コーヒー風呂は館内だったね。ワイン風呂と日本酒風呂もあるんだね。先に行く?プールの後?温泉はどこに入る?」
「楽しみにしているコーヒー風呂へ行こう」
「うん。わあ、美味しそう!」

 次々に料理が運ばれてきた。牛フィレのロースト、ペスカトーレ、あさりのパスタ、オニオンスープ、魚のカルパッチョだ。ふっくらしたパンもある。他にも食べたい物があったが、ビュッフェに備えて控えめに食べることにした。

「美味しい?イタリアンが気に入ったなら、連れて行きたい店がある。近くだから、よく行っているよ」 
「外食がメインなんだよね?」
「同僚たちとね。平日は外食しかしない」 
「最初に就職するまで、都内に住んでいたんだよね?実家には戻らないの?」
「今年で31歳だ。実家は抵抗あるよ」
「そっか。それはそうだね」 

 今年31歳なのか。改めて年の差を実感した。周りの同年代の奴とは違う。雰囲気も会話の内容も。この店へ入る前に、大学生同士で来ている子を見かけた。いつもなら、自分もあの中にいる。それを見ながら、隣に早瀬がいることを不思議に感じていた。早瀬とは会話が途切れたことがない。タイミングよく話題を振られているからだ。こんなに年の差があるのに、話が合っている。合わせてくれているからだ。
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