眠れる森の星空少年~あの日のキミ

夏目奈緖

文字の大きさ
48 / 126

5-6 (早瀬視点)

しおりを挟む
 悠人を連れて、本日の目的であるコーヒー風呂へ入りに来た。 屋内の広いスペースには、いくつもの変わった名前の風呂がある。係員がバケツで何かを湯船に放り込むと、女性や子供から大きな笑い声が聞こえて来た。同じように、隣にいる悠人からも声が上がった。 

「わあ!面白そうだよ。裕理さーん。コーヒー風呂へ行こうよ!」

 すっかり機嫌を直した悠人が、子供のような屈託のない笑顔で手を引いてきた。さっきは子ども扱いされて苛立っていたというのに。俺の方から手を繋ぐと嫌がるくせに、面白そうな物の前では忘れてしまうらしい。
  
(悠人の可愛い一面だな……)
  
 円形になった風呂からは、珈琲の匂いが漂っている。係員がバケツで補充している液体は、ドリップコーヒーだと教えられた。 

「粗挽きネルドリップ式のコーヒーだってさ。本格的だねー」 
「しっかり色がついているね。そっちにはチョコレート風呂があるよ。最後に入ろうか」
「うん。洗い流しが大変そうだねー」
「ああ、本当だ」 

 チョコレート風呂から出た客が、シャワーでチョコレートらしきものを洗い流している。甘い匂いも漂ってきた。それを見ている悠人が楽しそうな笑い声を立てた。そして、隣にいた小学生の男の子と話し始めた。

「へえー。お兄ちゃんと来たんだ?どこにいるの?」 
「向こうの緑茶風呂だよ。お茶が好きなんだ」 
「お兄ちゃんって何歳?」 
「12歳だよ。僕より2歳年上。あの香りが落ち着くんだって……」
「オジサンっぽいね~」 

 そのやり取りを眺めて、心が温かくなった。

 悠人のことを好きになったのは、初めて出会った時かもしれない。楽器店にて初めて会話をしたのは、楽譜を探している時だった。その時の笑顔が印象的で、今でも鮮明に思い出すことが出来る。親しみやすい空気感を持って話しかけてきた。何かお探し物ですか?と。当たり障りのない会話だけでは終わらなかった。失礼がないような距離感を保っていた。凄いなと思い、彼に興味を持った。

 会いたくて頻繁に店に通うようになったが、そっかしい場面を何度も目撃したことで、心配になってしまった。そして、モップを突きつけられた時に、新しい一面を発見した。これまでの丁寧な印象から変わった。感情を露わにして、桜木を守る為に仁王立ちしていた。あの姿に惚れてしまった。

(5年前の俺からは想像がつかないな……)

 今から5年前のことを思い出した。黒崎ホールディングス時代に、黒崎の社長専属秘書になった頃のことだ。黒崎製菓グループの子会社から独立するために、黒崎のことを手助けをしたく、秘書になることを引き受けた。多忙を極めて私生活が崩壊したが、後悔はしていない。

 あの頃の俺は今よりも感情表現が苦手で、恋人との間に出来た溝を埋めることが出来なかった。そして、感情を露わにした大喧嘩の末に、二度と会わないという選択をした。
 
 あれ以来、誰と付き合っても手応えを感じず、このまま終わると思っていた。数ヶ月前に付き合った相手に期待したが、別れる結果になった。

 自己主張をしない相手が付き合いやすい。自分の言うことを何でも聞く、コントロールしやすい相手ばかりを選んできた。今は正反対の子に心を奪われている。

(俺のことを好きになってくれないかな?)

 係員から追加の珈琲を頭からかぶり、笑っている悠人のことを見つめて切なくなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※この物語はフィクションです。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。 ■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。 ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸Twitterもぜひ遊びに来てください🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

溺愛極道と逃げたがりのウサギ

イワキヒロチカ
BL
完全会員制クラブでキャストとして働く湊には、忘れられない人がいた。 想い合いながら、…想っているからこそ逃げ出すしかなかった初恋の相手が。 悲しい別れから五年経ち、少しずつ悲しみも癒えてきていたある日、オーナーが客人としてクラブに連れてきた男はまさかの初恋の相手、松平竜次郎その人で……。 ※本編完結済。アフター&サイドストーリー更新中。 二人のその後の話は【極道とウサギの甘いその後+ナンバリング】、サイドストーリー的なものは【タイトル(メインになるキャラ)】で表記しています。

処理中です...