57 / 126
6-3
しおりを挟む
キッチンに行くと、早瀬がスープを温めていた。カウンターには出来上がった料理が並んでいる。午前中から仕込んだというローストビーフが美味しそうだ。
「わああー。ローストビーフだー。美味しそう!」
「自家製だよ」
「すごいなあ……」
「オーブンで、すぐに出来るよ」
「料理が出来る人の発言だよ。お腹すいた~」
ローストビーフには、3種類のソースが用意されている。全てが手作りだ。香味ソース、出汁レモン、ワサビ醤油だ。アボカドと玉ねぎのサラダ、コーンスープ、パン。ジャガイモが入ったオムレツもある。今夜は洋食だ。
「いただきまーす」
「召し上がれ」
「はふ~っ、美味しいよ。寮には戻りたくないぐらい」
「ここに住めばいい。歓迎するよ」
「それはちょっと……」
「恋人同士なのに?」
「ここでは違うってば」
「俺はそう思っていない」
話題を変えようと、以前から思っていたことを口にした。早瀬の食事の仕方が綺麗なことについてだ。子供の頃から身に着いたものだと分かるのは、ふいな仕草からだ。
「裕理さんは食べ方が綺麗だね」
「外食が多いからだよ。前の会社はレストラン経営をしていた。その関係もある。悠人君も綺麗に食べているよ。しっかり教えられたんだね」
「うん。友達が言うには、厳しい家ってやつみたいだよ」
俺は祖母に育ててもらったようなものだ。食事の時の箸の上げ下ろしでは叱られていた。しかし、厳しいとは思わなかった。愛情を注がれていたからだ。その反対に、厳しいと感じていたのは両親に対してだ。学校の成績のことでは口うるさく干渉された。俺のことを何も知らないくせに。
「そうなんだね。落ち着きがないわりには行儀がいいから、不思議だったよ」
「お父さんから、その事で叱られていたよ。おばあちゃんが庇ってくれたんだ。俺の落ち着きがないのは、生まれた時に悪い魔法使いに掛けられた呪いのせいだってさ。愛する人からのキスで呪いが解けるって教わったよ。あの……、呪いは解けていないからね!」
「知っているよ。俺が解きたい」
早瀬の手が伸びてきて、頬に触れられた。そして、指先で撫でられた後、唇をふにふにと押された。なんだか指の感触が心地よくて、身を任せてしまった。さらに、注がれている優しい眼差しと甘い空気に流されたくなった。早瀬は恋愛経験が豊富なのだろう。自分みたいな未経験者は対抗できない。
(もしかして遊ばれているのかな?本気を疑ったら噛みつかれるけど、冗談でやっていることだと思うもん。いい話を聞かせてもらえたけど。それとこれとは別かも……)
本気だろうが冗談だろうが、気持ちには応えられない。そう思っているのに、早瀬のことを深くまで知りたいと思っている。
(裕理さんのこと、好きになったのかな?マジで!?げえええっ)
そこへ考えが行き着いて、顔や背中が熱くなった。心臓までバクバクと打ち始めた。口の中のローストビーフが渇いてきて、飲み込みづらい。水を飲んで流し込もうと、グラスに触れた。そして、グラスを倒してしまった。
「ごめんっ」
「いいよ。大丈夫だった?」
「うん。すぐに拭くからね」
テーブルの上に転がったから割れていない。料理も水がかからずに無事だ。拭く物を取るために立ち上ろうとすると、早瀬から肩を押し留められた。
「俺が拭くよ。座っていろ。焦っている時には動かない方がいい」
「でも……」
「これでまた失敗をしたら落ち込むだろう?俺がいるから大丈夫だ」
「ああ……」
「自惚れてもいい?」
「何を?」
「俺のことを意識してくれた?」
「別に……」
早瀬の顔が近づいて来たのに、逃げようとは思わなかった。真面目な顔をしているし、近づきたい気持ちには正直でありたい。どうしていいのか分からない。
気持ちに応えれば楽になるだろうか。そういう発想が出る時点で、早瀬のことが好きになっているのかも知れない。しかし、寂しさからの可能性もある。それに気づいた時は正直でありたい。そして、それを話す時には、早瀬の気持ちを踏みにじったことになるだろう。
「キスをしてもいい?」
「ダメだよ」
「どうして?」
「困るよ」
「俺は困らない」
「ダメだってば」
「悠人。好きだ」
トクン。呼び捨てにされて、胸の鼓動が高鳴った。友達にも呼び捨てにされているのに、どうして胸が痛くなるのだろう。もっと呼ばれたいし、キスをしたい。でも、俺は早瀬に対して恋愛感情を持てないと言ってある。キスをしたいと思うのは不誠実なことだ。すると、早瀬が少しだけ顔を傾けた。そして、伏せられた目が近づいてくる。
「わああー。ローストビーフだー。美味しそう!」
「自家製だよ」
「すごいなあ……」
「オーブンで、すぐに出来るよ」
「料理が出来る人の発言だよ。お腹すいた~」
ローストビーフには、3種類のソースが用意されている。全てが手作りだ。香味ソース、出汁レモン、ワサビ醤油だ。アボカドと玉ねぎのサラダ、コーンスープ、パン。ジャガイモが入ったオムレツもある。今夜は洋食だ。
「いただきまーす」
「召し上がれ」
「はふ~っ、美味しいよ。寮には戻りたくないぐらい」
「ここに住めばいい。歓迎するよ」
「それはちょっと……」
「恋人同士なのに?」
「ここでは違うってば」
「俺はそう思っていない」
話題を変えようと、以前から思っていたことを口にした。早瀬の食事の仕方が綺麗なことについてだ。子供の頃から身に着いたものだと分かるのは、ふいな仕草からだ。
「裕理さんは食べ方が綺麗だね」
「外食が多いからだよ。前の会社はレストラン経営をしていた。その関係もある。悠人君も綺麗に食べているよ。しっかり教えられたんだね」
「うん。友達が言うには、厳しい家ってやつみたいだよ」
俺は祖母に育ててもらったようなものだ。食事の時の箸の上げ下ろしでは叱られていた。しかし、厳しいとは思わなかった。愛情を注がれていたからだ。その反対に、厳しいと感じていたのは両親に対してだ。学校の成績のことでは口うるさく干渉された。俺のことを何も知らないくせに。
「そうなんだね。落ち着きがないわりには行儀がいいから、不思議だったよ」
「お父さんから、その事で叱られていたよ。おばあちゃんが庇ってくれたんだ。俺の落ち着きがないのは、生まれた時に悪い魔法使いに掛けられた呪いのせいだってさ。愛する人からのキスで呪いが解けるって教わったよ。あの……、呪いは解けていないからね!」
「知っているよ。俺が解きたい」
早瀬の手が伸びてきて、頬に触れられた。そして、指先で撫でられた後、唇をふにふにと押された。なんだか指の感触が心地よくて、身を任せてしまった。さらに、注がれている優しい眼差しと甘い空気に流されたくなった。早瀬は恋愛経験が豊富なのだろう。自分みたいな未経験者は対抗できない。
(もしかして遊ばれているのかな?本気を疑ったら噛みつかれるけど、冗談でやっていることだと思うもん。いい話を聞かせてもらえたけど。それとこれとは別かも……)
本気だろうが冗談だろうが、気持ちには応えられない。そう思っているのに、早瀬のことを深くまで知りたいと思っている。
(裕理さんのこと、好きになったのかな?マジで!?げえええっ)
そこへ考えが行き着いて、顔や背中が熱くなった。心臓までバクバクと打ち始めた。口の中のローストビーフが渇いてきて、飲み込みづらい。水を飲んで流し込もうと、グラスに触れた。そして、グラスを倒してしまった。
「ごめんっ」
「いいよ。大丈夫だった?」
「うん。すぐに拭くからね」
テーブルの上に転がったから割れていない。料理も水がかからずに無事だ。拭く物を取るために立ち上ろうとすると、早瀬から肩を押し留められた。
「俺が拭くよ。座っていろ。焦っている時には動かない方がいい」
「でも……」
「これでまた失敗をしたら落ち込むだろう?俺がいるから大丈夫だ」
「ああ……」
「自惚れてもいい?」
「何を?」
「俺のことを意識してくれた?」
「別に……」
早瀬の顔が近づいて来たのに、逃げようとは思わなかった。真面目な顔をしているし、近づきたい気持ちには正直でありたい。どうしていいのか分からない。
気持ちに応えれば楽になるだろうか。そういう発想が出る時点で、早瀬のことが好きになっているのかも知れない。しかし、寂しさからの可能性もある。それに気づいた時は正直でありたい。そして、それを話す時には、早瀬の気持ちを踏みにじったことになるだろう。
「キスをしてもいい?」
「ダメだよ」
「どうして?」
「困るよ」
「俺は困らない」
「ダメだってば」
「悠人。好きだ」
トクン。呼び捨てにされて、胸の鼓動が高鳴った。友達にも呼び捨てにされているのに、どうして胸が痛くなるのだろう。もっと呼ばれたいし、キスをしたい。でも、俺は早瀬に対して恋愛感情を持てないと言ってある。キスをしたいと思うのは不誠実なことだ。すると、早瀬が少しだけ顔を傾けた。そして、伏せられた目が近づいてくる。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】初恋は檸檬の味 ―後輩と臆病な僕の、恋の記録―
夢鴉
BL
写真部の三年・春(はる)は、入学式の帰りに目を瞠るほどのイケメンに呼び止められた。
「好きです、先輩。俺と付き合ってください」
春の目の前に立ちはだかったのは、新入生――甘利檸檬。
一年生にして陸上部エースと騒がれている彼は、見た目良し、運動神経良し。誰もが降り向くモテ男。
「は? ……嫌だけど」
春の言葉に、甘利は茫然とする。
しかし、甘利は諦めた様子はなく、雨の日も、夏休みも、文化祭も、春を追いかけた。
「先輩、可愛いですね」
「俺を置いて修学旅行に行くんですか!?」
「俺、春先輩が好きです」
甘利の真っすぐな想いに、やがて春も惹かれて――。
ドタバタ×青春ラブコメ!
勉強以外はハイスペックな執着系後輩×ツンデレで恋に臆病な先輩の初恋記録。
※ハートやお気に入り登録、ありがとうございます!本当に!すごく!励みになっています!!
感想等頂けましたら飛び上がって喜びます…!今後ともよろしくお願いいたします!
※すみません…!三十四話の順番がおかしくなっているのに今更気づきまして、9/30付けで修正を行いました…!読んでくださった方々、本当にすみません…!!
以前序話の下にいた三十四話と内容は同じですので、既に読んだよって方はそのままで大丈夫です! 飛んで読んでたよという方、本当に申し訳ございません…!
※お気に入り20超えありがとうございます……!
※お気に入り25超えありがとうございます!嬉しいです!
※完結まで応援、ありがとうございました!
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~
兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。
そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。
そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。
あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。
自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。
エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。
お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!?
無自覚両片思いのほっこりBL。
前半~当て馬女の出現
後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話
予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。
サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。
アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。
完結保証!
このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。
※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。
雪解けを待つ森で ―スヴェル森の鎮魂歌(レクイエム)―
なの
BL
百年に一度、森の魔物へ生贄を捧げる村。
その年の供物に選ばれたのは、誰にも必要とされなかった孤児のアシェルだった。
死を覚悟して踏み入れた森の奥で、彼は古の守護者である獣人・ヴァルと出会う。
かつて人に裏切られ、心を閉ざしたヴァル。
そして、孤独だったアシェル。
凍てつく森での暮らしは、二人の運命を少しずつ溶かしていく。
だが、古い呪いは再び動き出し、燃え盛る炎が森と二人を飲み込もうとしていた。
生贄の少年と孤独な獣が紡ぐ、絶望の果てにある再生と愛のファンタジー
人気作家は売り専男子を抱き枕として独占したい
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
BL
八架 深都は好奇心から売り専のバイトをしている大学生。
ある日、不眠症の小説家・秋木 晴士から指名が入る。
秋木の家で深都はもこもこの部屋着を着せられて、抱きもせず添い寝させられる。
戸惑った深都だったが、秋木は気に入ったと何度も指名してくるようになって……。
●八架 深都(はちか みと)
20歳、大学2年生
好奇心旺盛な性格
●秋木 晴士(あきぎ せいじ)
26歳、小説家
重度の不眠症らしいが……?
※性的描写が含まれます
完結いたしました!
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる