眠れる森の星空少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 レストランから出た後、駐車場までの道のりを歩いている。ギター教室での面白い話や、大学の友達の話題で笑い合った。店を出てからは、植本さんから聞いた話については何も聞かれないから安心しているものの、心の中はモヤモヤしている。

 早瀬からは可愛いから好きと言われているが、それは万能の言葉だと思う。外見や中身、どこが好きかと具体的に言わずに使えるからだ。こんなことに気づいたのも、早瀬のおかげだ。いい意味でも悪い意味でも。すると、早瀬が近くにある店を見た。 

「そこに、フラワーショップがあるよ。桜木君のバイト先だ」 
「そういえば言っていたなー。常連の社長さんが、店先のベンチも座って、ボーっとしているって。あのベンチかな?」 

 早瀬の視線の先には『Belle personne』という看板が出ている店があった。入口前は広い木の床がある。大きな観葉植物の鉢植えが置かれていた。10個ぐらい並んでいるから、森の中のように見える。

 もうすぐ閉店なのだろう、店員が片づけをしていた。 観葉植物と並んで、木のベンチとテーブルが置かれている。木陰になるから、落ち着きそうだと思った。 

「ここで桜木君に会っていたよ」
「え?」 
「今の会社に移った直後は、いじめっ子上司の秘書をやっていた。その関係で花を手配する機会があったからだよ。随分前から、うちの会社のご用達だ」 

 胸がどきっとして、佐久弥の映像まで頭に浮かんできた。 頭を何度も振って、二人の映像を追い出した。 

「そうだよね!桜木さんは花が好きだもんね。大学の研究室は制約があって、飾れないそうだよ。家の中ではいつも飾っているって言っていたんだ。今日は店に居るかなー?」 
「ギター教室で一緒だったじゃないか」 

 早瀬が小さく吹き出した。そうだった。慌てて取り繕ったのが、バレてしまった。大通りからは、車が通り過ぎて行く音がしている。今いる場所は反対だ。この時間は帰りを急ぐ人ばかりで、話し声が聞こえない。心臓の鼓動が、大げさな程に音を立てている。 どうして、お互いに無言のままなのだろう? 自分から何か切り出そうと、声を振り絞った。

「裕理さん!あ……」
「可愛いよ」
「ええ?」

  軽く抱きしめられて、肌触りのいいシャツの感触が頬をくすぐった。早瀬の胸から強い鼓動が聴こえている。このままこうしていたいと思ったら、ため息が首筋に掛かった。

「桜木君と佐久弥が似ていると思った?」
「なんで知っているんだよ」 
「似ているからだよ。桜木君のことを初めて見掛けた時は懐かしくなった。話してみると別人だよ。同じ人間はいない」
「桜木さんのことが好きになったんだよね?そうだよね、落ち着いているし。俺とは正反対で……っ」

 どうしてこんな時に涙が出てくるのだろう? カッコ悪すぎる。桜木さんなら受け答えができるだろう。嗚咽が漏れ始めた顔を見せたくない。

 俯いたままでいると、早瀬から両肩を掴まれた。強引に見上げさせられると、心配そうな顔があった。もうすぐでキスをしそうな近さだ。このまま触れ合ったら、ハッピーエンドなのかな?しかし、例えば、続きを読みたくて本を開くと、違う展開が待っていたということが待っているのかもしれない。それが怖い。

「悠人君。誤解をするな。君だから……」
「帰る!」
「え?」
「今日は帰るよ!喧嘩をしたんじゃないからね。混乱しているんだ。頭を冷やしたい!」 
「こら、待て」
 
 早瀬から抱き寄せられた腕を、必死で振り払った。そして、何か言われる前に、この場から走り去った。
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