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15時。
庭の眺めが楽しめるリビングにて、珈琲とモンブランをご馳走になった。アンが懐いてくれて、一緒に遊ぶうちに気持ちが解れていった。家の中が温かい空気に包まれているから、何時間でも過ごしたい。祖母の家の雰囲気にも似ている。
「なつきー。急に来てごめんね」
「いいよ。気にしなくて」
「裕理さんのことを黙っていて……」
「それも気にしなくていいよ」
「男に恋愛感情を持ったことがないから、分からなかったんだ。襲われかけたこともあるんだよ。理解出来なかった。その、キ、キ……」
「キス?」
「ひいいいっ」
「真っ赤だよ。初めてなんだね」
「うん……。奥村さんには付き合っている相手がいるって思わせたらいいと思って、恋人同士のふりをしたんだ。成功したから安心していたよ。あんなことになったけど……」
「俺達がいるからね。奥村さんが何かやってきても大丈夫だよ」
「ありがとう」
夏樹が優しく肩を叩いてくれた。照れくさくなったから話題を変えた。
「夏樹って強いね!今日のことでも思ったけど、結婚しているんだって実感したよ。義理のお父さんの隣で住んでて、ご飯を食べに行っているんだろ?大変じゃないの?親に会うだけでも面倒くさいっていう奴がいるし」
「ううん。お義父さんは面白い人だから、一緒にいるのが楽しいよ。ただし親戚の人がねえ……。うるさいみたいなんだ。よくある話だよ」
「大人って感じがするよ。同年代の奴らとは空気が違うもん。悪い意味じゃないからね」
「分かっているよ。この生活は自分が選択したことだから、後悔はしていないよ」
「リスペクトするよー。このままだと宙ぶらりんだよ。法学部を選択したのだって、父親から言われたからだし。それを素直に受け入れたんだ」
「俺も宙ぶらりんだよ……」
どうして夏樹が言うのだろう? 真っ直ぐに目標が定まっていると思うのに。やるべき事をこなしているのに。しかし、笑っているから安心して話を聞けた。夏樹が言った。
「宙ぶらりんでも、下には地面があるじゃん。海か水たまりでも底はあるんだよ。底まで落ちたら登るだけだよ。溺れないようにすればいいんだって思ってる。それが分かっていても、10年後は何をしているだろうって、不安になっているよ」
「夏樹でもそう思うんだ?すごく頑張っているのに。誰かのレポートを参考しないで、自分でイチから作り上げているだろ?三宮教授が『優』の成績をつけたのは珍しいことだって、周りは言っているけど、努力した結果だもん。家事も勉強も真面目じゃん。夏樹がそういうなら、俺なんかどうしたらいいんだよ……」
「子供の頃からの性格なんだよ。黒崎さんからは、手を抜けって叱られているぐらいだし。長いゴムを引っ張っているところを想像してみてよ。100%まで伸ばすと、新しい力が加わると切れるよね?いつも80%にして余力を残しておくんだ。そうすれば追加が来ても、残りの20%で受け止められるっていう理屈だよ。分かっていても出来ないから、こういうところも宙ぶらりんだよ」
「それに似た話を裕理さんから教えてもらった。新しい事を知るから面白いよ。12歳も離れているせいかな。いいように扱われている気がしてる……」
早瀬は大人だ。俺は18歳という年齢の大学生だ。大人になっているはずなのに、まだ子供だと感じている。大人扱いもされずに子供でもない。何をやってもフォローされている。結局は都合のいいようにされているという被害妄想もある。
「悠人。俺から見た早瀬さんのことを話すよ。聞いてもらえる?」
「もちろんだよ」
「誠実な人なんだ。新しい会社へ移った後も、黒崎さんのサポートをしてくれている。自分だって新しい仕事と部下がいるのに。忘れ物を届けに黒崎製菓へ行って、よく分かったよ。口だけなら何とでも言える。早瀬さんは行動に出している。そういう人だよ」
「そっか……。夏樹も年齢差があるよね?付き合い始める時は、どうだった?」
「ははは……。けっこう恥ずかしい話だよ。参考になるなら……」
夏樹が照れくさそうに笑って話してくれた。黒崎さんと今の安定した関係になるまでは、散々、ぶつかり合ったという。何度も泣いて喧嘩をしたそうだ。お互いの社会的立場の違い、経験の違い、価値観の違い。友達関係でいれば知ることがなかったものが、恋人同士になってから見えるようになり、そのズレのせいで言い合いが絶えなかったそうだ。
俺と早瀬はどうだろう?正面からぶつかっていない気がする。早瀬と話すことを拒んでいるから、前に進まない。同じところを留まっているのだと知った。
庭の眺めが楽しめるリビングにて、珈琲とモンブランをご馳走になった。アンが懐いてくれて、一緒に遊ぶうちに気持ちが解れていった。家の中が温かい空気に包まれているから、何時間でも過ごしたい。祖母の家の雰囲気にも似ている。
「なつきー。急に来てごめんね」
「いいよ。気にしなくて」
「裕理さんのことを黙っていて……」
「それも気にしなくていいよ」
「男に恋愛感情を持ったことがないから、分からなかったんだ。襲われかけたこともあるんだよ。理解出来なかった。その、キ、キ……」
「キス?」
「ひいいいっ」
「真っ赤だよ。初めてなんだね」
「うん……。奥村さんには付き合っている相手がいるって思わせたらいいと思って、恋人同士のふりをしたんだ。成功したから安心していたよ。あんなことになったけど……」
「俺達がいるからね。奥村さんが何かやってきても大丈夫だよ」
「ありがとう」
夏樹が優しく肩を叩いてくれた。照れくさくなったから話題を変えた。
「夏樹って強いね!今日のことでも思ったけど、結婚しているんだって実感したよ。義理のお父さんの隣で住んでて、ご飯を食べに行っているんだろ?大変じゃないの?親に会うだけでも面倒くさいっていう奴がいるし」
「ううん。お義父さんは面白い人だから、一緒にいるのが楽しいよ。ただし親戚の人がねえ……。うるさいみたいなんだ。よくある話だよ」
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「分かっているよ。この生活は自分が選択したことだから、後悔はしていないよ」
「リスペクトするよー。このままだと宙ぶらりんだよ。法学部を選択したのだって、父親から言われたからだし。それを素直に受け入れたんだ」
「俺も宙ぶらりんだよ……」
どうして夏樹が言うのだろう? 真っ直ぐに目標が定まっていると思うのに。やるべき事をこなしているのに。しかし、笑っているから安心して話を聞けた。夏樹が言った。
「宙ぶらりんでも、下には地面があるじゃん。海か水たまりでも底はあるんだよ。底まで落ちたら登るだけだよ。溺れないようにすればいいんだって思ってる。それが分かっていても、10年後は何をしているだろうって、不安になっているよ」
「夏樹でもそう思うんだ?すごく頑張っているのに。誰かのレポートを参考しないで、自分でイチから作り上げているだろ?三宮教授が『優』の成績をつけたのは珍しいことだって、周りは言っているけど、努力した結果だもん。家事も勉強も真面目じゃん。夏樹がそういうなら、俺なんかどうしたらいいんだよ……」
「子供の頃からの性格なんだよ。黒崎さんからは、手を抜けって叱られているぐらいだし。長いゴムを引っ張っているところを想像してみてよ。100%まで伸ばすと、新しい力が加わると切れるよね?いつも80%にして余力を残しておくんだ。そうすれば追加が来ても、残りの20%で受け止められるっていう理屈だよ。分かっていても出来ないから、こういうところも宙ぶらりんだよ」
「それに似た話を裕理さんから教えてもらった。新しい事を知るから面白いよ。12歳も離れているせいかな。いいように扱われている気がしてる……」
早瀬は大人だ。俺は18歳という年齢の大学生だ。大人になっているはずなのに、まだ子供だと感じている。大人扱いもされずに子供でもない。何をやってもフォローされている。結局は都合のいいようにされているという被害妄想もある。
「悠人。俺から見た早瀬さんのことを話すよ。聞いてもらえる?」
「もちろんだよ」
「誠実な人なんだ。新しい会社へ移った後も、黒崎さんのサポートをしてくれている。自分だって新しい仕事と部下がいるのに。忘れ物を届けに黒崎製菓へ行って、よく分かったよ。口だけなら何とでも言える。早瀬さんは行動に出している。そういう人だよ」
「そっか……。夏樹も年齢差があるよね?付き合い始める時は、どうだった?」
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夏樹が照れくさそうに笑って話してくれた。黒崎さんと今の安定した関係になるまでは、散々、ぶつかり合ったという。何度も泣いて喧嘩をしたそうだ。お互いの社会的立場の違い、経験の違い、価値観の違い。友達関係でいれば知ることがなかったものが、恋人同士になってから見えるようになり、そのズレのせいで言い合いが絶えなかったそうだ。
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