眠れる森の星空少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 20時30分。

 湾岸線沿いをドライブした後、レストランで食事をしている。さっき車の中で、早瀬と恋人同士になったばかりだ。友達から聞いたことがあるデートの話を思い出した。参考になる話はあるだろうか。デートで何を話せば良いのか分からない。俺は女の子とのデートを想像して話を聞いていたから、現実は勝手が違う。 

(男とのデートは分からないんだよ。どうしよう……)

 今夜はフレンチだ。今、肉のローストを口に運んでいる。早瀬の唇が開くたびに、視線が釘付けになってしまう。 

(あの唇とキスをしたんだ。この先、もっとされるんだよね。唇以外にも。わわわっ。何を想像してるんだよ……)
 
 恋人同士だから、そういう展開が訪れる。覚悟を決めているし、男同士の場合の知識について、多少は持っている。さっき車の中で、ネットで調べておいた。しかし、デートでの振舞い方は載っていなかった。女の子が彼氏にもたれ掛かる等、そういうものなら載っていて読んだ。しかし、俺達には当てはまらない。年の差カップルについてのページもあったが、まだ読んでいない。

「どうしたんだ?食欲がない?」
「たまにはゆっくり味わって食べようと思って……」 

 和牛のグリルにフォークを刺した。口に運んでも金属の感触しかない。まさかと思い視線を下げると、何も刺さっていなかった。必死に誤魔化してフォークに刺そうとすると、付け合わせのアスパラに当たって、テーブルの下に転がりそうになった。まるで、デートの失敗談の見本のようだ。

「悠人君。落ち着かないね」 
「恋人ができるのは初めてなんだよ。どうしていいのか分からないよ」
「いつもと同じでいい」
「裕理さんは変わらないよね。恋人になったのに。どうして?」
「一緒に過ごすことには、変わりがないからだよ」
「どうして?俺は受け入れたのに。嬉しくないわけ?」 
「嬉しかったよ」 
「どうして、アッサリしているんだよ?」 
「どうしてだろうね~?」 

 早瀬が肩を揺らして笑い始めた。なんだかイラついてきた。せっかく前に進んだのに苛められるのは変わりないからだ。イチャつくものだと思っていたのに。俺は苛立ちを隠すために、食べることに集中することにした。このままだと、カッコ悪いところを見せるだけだ。

「大人しいね。その野菜は嫌いだったのか?」
「ううん。美味しいよ。嫌いなのは、ラディッシュだけだよ」
「それなら元気を出そう」
「元気だってば」
「しかたないな」

 早瀬の腕が伸びて来て、俺の左手を取った。また噛みつかれると思って、咄嗟に手を引っ込めようとしても無駄だった。早瀬の口元に手を添えられたからだ。 

「噛みつくなよっ」 
「そんな意地悪はしない」 

 俺の指が早瀬の唇に触れた。そして、痛みを覚悟していると、背中と手がゾクっと震えた。 

「舐めているの!?」
「そうだよ」 
「ひいいいっ」
「個室だから気にならないだろう?悠人君が望んでいる『恋人同士』のことをやっている」
「もう……っ」
「だめだよ。大人同士だ」

 さらに早瀬の舌が動いた。伏せていた目を開くと、早瀬が視線を向けてきた。そして、逸らせる間もなく捕らえられて、視線が絡み合った。俺には刺激が強すぎる。恋人同士になれば平気だと思っていたのに違うと思った。関節まで舌先で舐められて、感触が変わるたびに背中がゾクっとした。

「ふえっ」 
「もっと?」 
「やめてよ」 
「これは?」 
「んん、はあっ。ええ?」

 今の自分から出た声に驚き、一気に顔が熱くなった。こんな感じの声を聞いたことがあるからだ。友達に見せてもらったエロい動画だ。実際に自分がああなっているのか。 

「ひいいいっ」
「ほらね。まだ大人同士は難しいだろう?」
「そうだけど……、でも……」
「恋人と家族の間ぐらいに思えばいい。ゆっくり進める。当分はキスしかしない」
「ええ?」
「悠人君が期待している展開は、お預けだ。もっと時間をかける。お互いのことを知りたいと言っていただろう?」 
「恋人同士になったのに……」 
「君のことを大事にしたい」 
「分かったよ……」 
「返事は『はい』だ」 
「はい……」

 しぶしぶ返事をした。触られるだけで胸がドキドキするが、もっと近づきたいと思った。否定していた気持ちを認めて受け入れたのに。覚悟を決めたのにと思った。

「そのローストを食べないのか。俺が食べるぞ」 
「まだ食べているから。あああ……」 
「いつも通りに振舞っている理由は、まだ君には早いからだよ。悠人君はお子様だからね~?まだ大人のことは早いですよ~?よしよし、撫でてあげようか?」
「子供扱いするなよっ」 
「はいはい。検討しておくよ」 

 早瀬が笑った。そして、いつものような雰囲気に戻り、他愛のない話をしながら食事をした。
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