眠れる森の星空少年~あの日のキミ

夏目奈緖

文字の大きさ
109 / 126

9-12

しおりを挟む
 14時半。

 昼ご飯を食べた後だ。午後の畑づくりの作業が終わり、黒崎家のリビングで過ごしている。少し休憩したら、桜木さんが黒崎さんのピアノ伴奏で、ヴァイオリンの演奏をする。そのヴァイオリンは、昨日、桜木さんの手元に届いたものだ。もちろん、探していた楽器だ。探す手伝いができて良かったと思った。

 広いソファーの上では、黒崎さんが寝息を立てている。風邪が治ったばかりだそうだ。急に眠気が起きて、30分後に起こしてくれと言い残して、夢の中に入った。

 アンを膝に抱いてテレビを見ていると、早瀬と夏樹の話し声が聞こえてきた。2人がお茶の用意をしている。俺も仲間に入りたいのに、意地を張り続けている。さっき、早瀬と軽い言い合いをしたからだ。

「早瀬さん。ありがとう」
「どういたしまして。これぐらいしか出来ないけど」
「黒崎さんに、爪の垢を煎じて飲ませてよ。お湯も沸かさないんだよ」
「夏樹君がいるからだよ。楽しそうに家に帰っているよ」 
「ホントに?」 
「本当だよ。デスクにはデジタルフォトフレームを置いてあってね、夏樹君のアルバムが再生されている。それを眺めて鼻の下を伸ばしている」 
「書類のファイルに、メッセージカードを入れられていたんだよ~」
「相手にしていないよ。帰ったら恐ろしいそうだ。はい、出来た」
「早瀬さんは器用だね」 

 楽しそうに話している。素直になれば、早瀬のそばに立っていられるのに。ごめんね。その一言が口に出せない。さらに楽しそうな会話が聞こえてきた。 

「どっちが大人か分からないよ。悪くないけど。黒崎さんは俺だけのものだよ」
「食べる前だけど、ご馳走さま」
「早瀬さん、行ってあげなよ……」
「ああ。そうする」 

 早瀬が笑いながら歩いて来たから、慌ててテレビの方を向き、何食わぬ顔をして誤魔化した。すると、綺麗にカットされたリンゴが乗せられた皿が、目の前のテーブルに置かれた。

「はい、美味しそうだよ。食べてごらん」 
「すごいね。裕理さんが切ったんだよね?」 
「そうだよ。さっきの話を聞いていたんだね」
「え?」 
「聞いていなかったら、どっちが切ったのか分からないだろう?夏樹君も料理をするし」
「えーっと……」

 マズい。気になっていたのがバレバレだ。どうにか誤魔化そうと思ってアンに話しかけると笑われて、早瀬の足を軽く蹴飛ばしてやった。 

「アンはリンゴを食べてもいいのかな? 夏樹に聞かないといけないんだね。聞いて来てあげるよ。裕理さん、キッチンへ行ってくるから!」 
「夏樹君も来たよ」
「なつきー、リンゴを食べさせてもいい?」 
「いいよ。こっちに用意しているよ」 

 夏樹が床の上に小さな器を置いた。茹でたサツマイモと、小さく切ったリンゴが入っていた。さっそくアンが膝の上から降りて食べ始めた。 俺は食べさせてあげる口実を無くして、早瀬と向かい合い、気まずくなった。俺の顔は真っ赤になっていると思う。ここへ来る前は素直になれたのに。自分からキスをして、好きだと伝えた。あの時の俺はどこに行ったのか? すると、早瀬が言った。

「苛め過ぎたのか。どうしても口を聞いてもらえないのか?」
「裕理さん次第だよ」
「挽回させてくれ。一人で寝たくない」 
「もう……」 
「軽口を叩くなって?もう遅いよ。みんなが見ている」 

 本当に恥ずかしい。生暖かい視線を浴びている。リンゴを食べて俯いていると、夏樹が立ち上がった。2階を指しているようだ。

「悠人、俺の部屋で待っていない?黒崎さんが起きるまで。絵本のコレクションを見たいって言ってたじゃん」 
「そ、そうなんだよ。見たい!」
「早瀬さんも一緒にどうぞ」 
「お邪魔するよ。圭一さんから聞いて興味があったんだよ」 
「たくさん置いてあるから。自由に読んでね」 
「あああ……」 

 2人きりになるのが気まずいのに。苦笑している早瀬から手を引かれて、2階へ連行された。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】初恋は檸檬の味 ―後輩と臆病な僕の、恋の記録―

夢鴉
BL
写真部の三年・春(はる)は、入学式の帰りに目を瞠るほどのイケメンに呼び止められた。 「好きです、先輩。俺と付き合ってください」 春の目の前に立ちはだかったのは、新入生――甘利檸檬。 一年生にして陸上部エースと騒がれている彼は、見た目良し、運動神経良し。誰もが降り向くモテ男。 「は? ……嫌だけど」 春の言葉に、甘利は茫然とする。 しかし、甘利は諦めた様子はなく、雨の日も、夏休みも、文化祭も、春を追いかけた。 「先輩、可愛いですね」 「俺を置いて修学旅行に行くんですか!?」 「俺、春先輩が好きです」 甘利の真っすぐな想いに、やがて春も惹かれて――。 ドタバタ×青春ラブコメ! 勉強以外はハイスペックな執着系後輩×ツンデレで恋に臆病な先輩の初恋記録。 ※ハートやお気に入り登録、ありがとうございます!本当に!すごく!励みになっています!! 感想等頂けましたら飛び上がって喜びます…!今後ともよろしくお願いいたします! ※すみません…!三十四話の順番がおかしくなっているのに今更気づきまして、9/30付けで修正を行いました…!読んでくださった方々、本当にすみません…!!  以前序話の下にいた三十四話と内容は同じですので、既に読んだよって方はそのままで大丈夫です! 飛んで読んでたよという方、本当に申し訳ございません…! ※お気に入り20超えありがとうございます……! ※お気に入り25超えありがとうございます!嬉しいです! ※完結まで応援、ありがとうございました!

雪解けを待つ森で ―スヴェル森の鎮魂歌(レクイエム)―

なの
BL
百年に一度、森の魔物へ生贄を捧げる村。 その年の供物に選ばれたのは、誰にも必要とされなかった孤児のアシェルだった。 死を覚悟して踏み入れた森の奥で、彼は古の守護者である獣人・ヴァルと出会う。 かつて人に裏切られ、心を閉ざしたヴァル。 そして、孤独だったアシェル。 凍てつく森での暮らしは、二人の運命を少しずつ溶かしていく。 だが、古い呪いは再び動き出し、燃え盛る炎が森と二人を飲み込もうとしていた。 生贄の少年と孤独な獣が紡ぐ、絶望の果てにある再生と愛のファンタジー

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

人気作家は売り専男子を抱き枕として独占したい

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
BL
八架 深都は好奇心から売り専のバイトをしている大学生。 ある日、不眠症の小説家・秋木 晴士から指名が入る。 秋木の家で深都はもこもこの部屋着を着せられて、抱きもせず添い寝させられる。 戸惑った深都だったが、秋木は気に入ったと何度も指名してくるようになって……。 ●八架 深都(はちか みと) 20歳、大学2年生 好奇心旺盛な性格 ●秋木 晴士(あきぎ せいじ) 26歳、小説家 重度の不眠症らしいが……? ※性的描写が含まれます 完結いたしました!

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

処理中です...