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下へ降りて行くと、ヴァイオリンの音色が聞こえて来た。桜木さんの演奏だ。リビングへ入ると、隣の洋室との間の扉が全開されていた。俺は黒崎さんから手招きされて、グランドピアノの前に座った。そして、桜木さんがヴァイオリンで短いフレーズを弾いた後、早瀬へ渡した。
「早瀬さんの音色を聴かせて下さい」
「ああ、分かった」
早瀬が弾き始めると、華やかな音色が響き渡った。桜木さんと夏樹が顔を見合わせて驚いていた。落ち着いた音を出すかと思っていたからだった。俺は賑やかな本人らしいと思った。すると、夏樹から、俺にもピアノを弾いてくれと言われた。
「黒崎さん。弾いてもいいですか?」
「もちろんだ」
「夏樹はジャズを歌うのが好きだよね?それを弾くよー」
「悠人君はジャズをやるのか……」
「けっこう好きなんです。間違えたらごめんなさい」
何を弾くのかは決めている。いつの間にか覚えていたものだ。そっと鍵盤に指を滑らせ、最初の一音が鳴り響いた後、演奏を始めた。1950年頃の曲で、しっとりとしたものだ。この曲を練習していると、祖母から拍手をもらえた思い出がある。だんだんと記憶が蘇り、当時の会話を思い出した。 すると、夏樹が言った。
「悠人。落ち着いているね。凄く良いよ」
「お店の中で音楽を聴いている人をイメージしているんだ。頭の中で映像が浮かぶんだよ」
「悠人は出てくるの?」
「ううん、俺は出ないよ。外から眺めている感じ」
大人になって働き始めたらグランドピアノを買ってあげたいと言ったら、祖母が嬉しそうに笑ってくれた。あの日、夕方の日差しで庭が赤く染まっていた。晩ご飯の支度をしている時間で、キッチンからは、いい匂いがしていた。珈琲の匂いもあった。あのリビングで弾いているかのようだ。
そろそろ思い出から帰って来よう。最後の一音が鳴り響いた後、指を下した。ぼんやりして懐かしんでいると、皆から見つめられていた。ちゃんと弾いたはずなのにと呆然としていると、遠藤さんから声を掛けられた。
「悠人君。もう一曲聴きたい。得意なものがいい」
「はいっ。得意なものを選べないので、俺が作った曲でもいいですか?」
「もちろんだ」
「はいっ」
まさかここで披露するなんて。とっさに口に出してしまった。ピアノで弾いたことがないのに。失敗したらどうしよう?早瀬の方へ向くと、軽く頷かれた。大丈夫だと勇気づけられている。
(よし、始めよう……)
アレンジは得意だから自信を持とう。ギターで弾いている時の旋律を思い浮かべた。それを鍵盤で表現すればいい。これは明るいバラードだ。楽しそうに話しているイメージだ。悲しいことや、笑い合ったことを語っている光景だ。それを思い描いて弾いて行こう。気持ちが伝わればいい。
(夏樹と黒崎さんのイメージだな。あ……、そうだ)
「なつきー、お願いがあるんだけど……」
「どうしたんだよ?」
「絵本のストーリーを書いてるだろ?この曲に歌詞を付けてほしいんだ」
あの作品を読んだ話をすると、夏樹が照れくさそうに笑った。そして、いい返事がもらえた後、黒崎さんから提案された。
「夏樹。いつもの即興で歌ってみてくれ」
「ええ?難しいよ~」
「やってみろ。悠人君はどうだ?」
「もちろんOKです。夏樹、お願いしてもいい?」
「う、うん……。緊張するけど……」
黒崎さんも俺も真剣だから、余計に緊張したようだ。時間をかけると、ますます緊張してしまうから、早く始めることにした。鍵盤で軽くフレーズを弾いた後、夏樹へ手招きした。これで引き下がれないだろう。
「通して弾くからね。何回か弾くよ」
「うん。分かった……」
夏樹が軽く目を閉じた。黒崎さんを思い浮かべているのだだろう。3回目を弾き終えた後、夏樹が目を開けた。
「悠人、準備が出来たよ」
「じゃあー、いこう!」
お互いにアイコンタクトを取り、弾き始めた。ピアノのそばには、夏樹が立っている。みんなの方を向いているから、俺には背中を向けている。その体が深呼吸をしているのが分かった。そのリズムに合わせて呼吸をしているうちに、心が落ち着いた。
「早瀬さんの音色を聴かせて下さい」
「ああ、分かった」
早瀬が弾き始めると、華やかな音色が響き渡った。桜木さんと夏樹が顔を見合わせて驚いていた。落ち着いた音を出すかと思っていたからだった。俺は賑やかな本人らしいと思った。すると、夏樹から、俺にもピアノを弾いてくれと言われた。
「黒崎さん。弾いてもいいですか?」
「もちろんだ」
「夏樹はジャズを歌うのが好きだよね?それを弾くよー」
「悠人君はジャズをやるのか……」
「けっこう好きなんです。間違えたらごめんなさい」
何を弾くのかは決めている。いつの間にか覚えていたものだ。そっと鍵盤に指を滑らせ、最初の一音が鳴り響いた後、演奏を始めた。1950年頃の曲で、しっとりとしたものだ。この曲を練習していると、祖母から拍手をもらえた思い出がある。だんだんと記憶が蘇り、当時の会話を思い出した。 すると、夏樹が言った。
「悠人。落ち着いているね。凄く良いよ」
「お店の中で音楽を聴いている人をイメージしているんだ。頭の中で映像が浮かぶんだよ」
「悠人は出てくるの?」
「ううん、俺は出ないよ。外から眺めている感じ」
大人になって働き始めたらグランドピアノを買ってあげたいと言ったら、祖母が嬉しそうに笑ってくれた。あの日、夕方の日差しで庭が赤く染まっていた。晩ご飯の支度をしている時間で、キッチンからは、いい匂いがしていた。珈琲の匂いもあった。あのリビングで弾いているかのようだ。
そろそろ思い出から帰って来よう。最後の一音が鳴り響いた後、指を下した。ぼんやりして懐かしんでいると、皆から見つめられていた。ちゃんと弾いたはずなのにと呆然としていると、遠藤さんから声を掛けられた。
「悠人君。もう一曲聴きたい。得意なものがいい」
「はいっ。得意なものを選べないので、俺が作った曲でもいいですか?」
「もちろんだ」
「はいっ」
まさかここで披露するなんて。とっさに口に出してしまった。ピアノで弾いたことがないのに。失敗したらどうしよう?早瀬の方へ向くと、軽く頷かれた。大丈夫だと勇気づけられている。
(よし、始めよう……)
アレンジは得意だから自信を持とう。ギターで弾いている時の旋律を思い浮かべた。それを鍵盤で表現すればいい。これは明るいバラードだ。楽しそうに話しているイメージだ。悲しいことや、笑い合ったことを語っている光景だ。それを思い描いて弾いて行こう。気持ちが伝わればいい。
(夏樹と黒崎さんのイメージだな。あ……、そうだ)
「なつきー、お願いがあるんだけど……」
「どうしたんだよ?」
「絵本のストーリーを書いてるだろ?この曲に歌詞を付けてほしいんだ」
あの作品を読んだ話をすると、夏樹が照れくさそうに笑った。そして、いい返事がもらえた後、黒崎さんから提案された。
「夏樹。いつもの即興で歌ってみてくれ」
「ええ?難しいよ~」
「やってみろ。悠人君はどうだ?」
「もちろんOKです。夏樹、お願いしてもいい?」
「う、うん……。緊張するけど……」
黒崎さんも俺も真剣だから、余計に緊張したようだ。時間をかけると、ますます緊張してしまうから、早く始めることにした。鍵盤で軽くフレーズを弾いた後、夏樹へ手招きした。これで引き下がれないだろう。
「通して弾くからね。何回か弾くよ」
「うん。分かった……」
夏樹が軽く目を閉じた。黒崎さんを思い浮かべているのだだろう。3回目を弾き終えた後、夏樹が目を開けた。
「悠人、準備が出来たよ」
「じゃあー、いこう!」
お互いにアイコンタクトを取り、弾き始めた。ピアノのそばには、夏樹が立っている。みんなの方を向いているから、俺には背中を向けている。その体が深呼吸をしているのが分かった。そのリズムに合わせて呼吸をしているうちに、心が落ち着いた。
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