Radiate Crow~あの日の誘惑

夏目奈緖

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 裕理君が黒崎君の方を見た。如月君が心配そうな顔をしている。

「心配そうな顔をしているだろう?如月君もだ。ああやって心配してくれる子と付き合え。今回のことは君にとっては収穫があったんだぞ。自分も同じことをしたくせに、スケープゴートを選んで逃げ出した。そんな子だと分かっただろう。……いいか?天秤にかけろ。うちの仲間は君に残ってほしいと希望している。反対の天秤には ”その程度のつきあい” だ。どっちが重い?もう分かるだろう?」
「うん!」
 
 あの子たちと友達になりたい。変われるかもしれない。それには許してもらうことが先だ。しっかりと頷くと、裕理君の顔が優しいものから厳しさのあるものに変わった。ここからはインターンシップでお世話になる社員だ。そういうことだろう。

「よし、いい顔になったね。戻ろう」
「うん!黒崎君、許してくれるかな……」
「それは分からない。真剣に謝れ」
「うん!」

 背中を押されて会議室へ入った。待っていた枝川さんが笑っていた。会釈を返すと、会議室の中を見ろと言われた。如月君から手を振られていた。笑顔で。

「さえきーー、こっちに来いよーー!」
「如月君……」

 大きな声で呼ばれたことで、参加者から一斉に視線を向けられた。ためらっていると、向こうの方からやって来て、俺の肩を抱いた。こっちだぞー、と。

 如月君の席はCグループだ。真ん中あたりだから余計に目立つ。失敗した俺に構っていいのだろうか?その前にやることがある。

「如月君。昼休憩のときはごめんなさい!迷惑をかけたよね」
「あのことか。空気を読んでもらえて助かったぞ。夏樹……、黒崎も同じだ。そう言ってた。佐伯って情報学科だろ?俺は物理学科だ。授業で一緒になったぞ」
「ホントに?同じ学部?」
「俺は嘘をつかないぞ。お前はちゃんとした奴だ。身代わりヤローーなんかよーー!最低だーー!」
「え?」

(こんな大きな声で?あれ?みんなが目を逸らした。すごい……。みんな、入口の方を見てる……。黒崎君だ。すごい怖い顔してる……)

 出入口から入って来た黒崎君からは、冷え凍ったような空気が漂っていた。真っ直ぐに俺たちの方を見た。そして、ふにゃっと笑った。

「夏樹!こいつが謝るって」
「ああ~。さっきの?」

 黒崎君が歩いてきた。その途中で机の脚に当たり、いたた……と、照れくさそうに笑った。それがキッカケで、O大メンバーの意識高い系が声をかけた。

「黒崎君!さっきは……」
「なんのこと?」
「盛り上がってごめん」
「謝るぐらいなら最初からやるな。筋を通さない子とは仲良くしない」
「……」

(俺に怒っているんじゃないのか……)

 裕理君の話が理解できた。黒崎君は、こんな空気の中で堂々としている。如月君も平然としている。そして俺の肩を抱いて笑った。黒崎君もだ。俺は彼らと友達になりたい。 

「黒崎君。ごめんね」
「いいのに。大したことないじゃん」
「ううん。ごめんね!変に目立たせて」
「こっちこそだよ。もう帰らないでよ」
「うん。ありがとう」

 俺たちが話していると、ざわめきが大きくなったのは気のせいではないはずだ。きっと変な目で見ている子がいるだろう。

「夏樹。こいつは佐伯理久。俺たちと同じ一年だ」
「よろしく」
「よろしく!」

(メンバーが舌打ちしてる。あ……、山本さんが笑ってる。すごい……。こんなことがあるんだ……)

 俺は間違っていたし、そうではなかったのか。俺達の周りが和やかな空気に変わっていた。席へ戻った後、吉川さんがそばにやって来た。よかったーと言って、ホッとしていた。俺は、ありがとうと、お礼を言った。
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