Radiate Crow~あの日の誘惑

夏目奈緖

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 メンバーから促されたのは、エレベーターとは反対方向だ。トイレと会議室の間で、用がなければ参加者は通らない。誰かに見られても、話しているだけだと言い通せる。この手慣れた連帯感は、自分と同じ恐怖を持っているからだ。仲間からハジかれたくないから一緒に行動しているのだろう。今ならそれが分かる。

(枝川さんだ……。こっちに来ないで!)

 如月君と話し終えたのかな?枝川さんが眉をひそめて、こっちへ来ようとしている。もう守られるのは嫌だ。これ以上の迷惑もかけたくない。

(お兄ちゃんが言ってた。自分のケツは自分で拭くってこと。来なくていい……)

 アイコンタクトが伝わったようだ。枝川さんが参加者を誘導しながらも視線を向けてきている。いざとなれば助けてもらえる。そんな姑息な考えが起きた。だから俺は今、強気なのかな?それでもいいから拒絶する。

 俺のことを取り囲んでいるのは6人だ。O大のメンバーは5人だ。山岡君は帰ったから参加していない。その代わりに、知らない男の子が混ざっている。黒崎君を囲んでいた子だと分かった。嫌な目つきをしている。

(こんなことで友達になったわけ?仲間?どんな?俺、こんな奴らが好きだったのか……)

 枝川さんから言われた通りに、堂々と胸を張った。俺の態度に、さらに空気が悪くなった。

「お前のせいで覚えられたぞ」
「足、引っ張んなってー」
「何か言えよ」
「ちゃんと謝って許してもらえたよ」
「はああ?親の名前があるからだろー?帰らされた奴は違うから!」
「そうだぞ。内定決まってるだろ?佐伯って……」

(山岡君も同じだよ?会社社長の息子だもん。ハジかれたくないからだろ。説得力がない。これしか言えないのか……)

 お前らなんかどうでもいい。そう言おうと口を開いたとき、暗めのスーツ姿が入り込んだ。顔を上げると黒崎君が立っていた。俺の方を見て軽く頷き、肩を抱いてきた。

「佐伯、帰ろう」
「うん……」

 メンバー達から声があがった。もう終わった。そんなつぶやきまで聞こえてきた。

「目的達成かよ。佐伯ってさ……」
「俺も友達になりたいよー」

 今度は如月君が間に立った。ものすごい目で、メンバーのことを睨みつけている。

「夏樹、先に行け」
「一緒に行こう」

 どんどん遠ざかっているからかな?文句の声が聞こえなくなった。枝川さんが微笑んでくれた。アイコンタクトだけで会釈した。

(助けてもらったけど。ちゃんと拒絶できた……)

 ちょうど人が途切れたところだ。エレベーターの前に行くと、エレベーターランプが1階を表示していた。黒崎君が下のボタンを押したつもりが、”上” を押してしまったことで、さっきまでの空気が消え去って大笑いした。

「夏樹、そのボケは狙いか?」
「ナチュラルだよ」
「さっきはありがとう。情けないところを見せたね……」
「そんなことないよ。しっかり立ってたじゃん。言い返しもしてたし」

 エレベーターが到着したから乗り込んだ。その間も、黒崎君からしっかりと肩を抱かれていた。
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