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枝川さんが何か考えているようで、無言になった。そして、俺の方を見た。
「そうか。分かった。お兄さんが教えてくれた店へ行こう。お気楽亭なら、反対方向だ」
そう言って、そばの信号へと歩き始めた。いきなり方向を変えたから、足元がヨロケけた。ポケットに右手が入ったままだからだ。おまけに握られているから、自然と離れなかった。
「あの!手を離してください!」
「なんで?」
「いきなり歩くから転びそうでした」
「そうなる前に支える。転んでいないじゃないか」
「転びそうだって言いました!離してください。歩きづらいんです!」
「もうすぐ店に着く。手は離さない」
「こんなことをしなくても逃げませんから」
「本当に?」
「はい!食事に行くのは約束だから。筋を通します」
「帰りたそうにしていたからだ。さっきから人波に流されていただろう。信号を渡り切れないから危ない。もう少しで、中央で立って待つしかなかったぞ。車がビュンビュン走ってくるぞ」
今度は苛立ったような言い方をされた。嫌味たらしい顔までされた。
「車の方が停まるから!さっさと渡ればいい」
「甘いなあー。だから危なっかしい」
「はあ?これは話が別です」
(やっぱり帰りたい。何を言っても返される。このまま続くのか……)
「全く同じ話だ」
「……っ」
枝川さんが楽しそうに笑った。こっちは笑えないのに。その態度を見ると、俺のことをからかっているのが丸わかりだ。
(ストレスが溜まっているのかな?だからだ……)
「あのなあ。車は停まらない。さすがに避けては行くけどな。何でも君の思い通りにはならないぞ。向こうがやってくれるって。甘いぞーー」
「たとえ話です。実際に渡ったから!」
「俺が肩を抱いたからだ。実際に自力で渡っていないのに言い切るな」
「……っ」
返す言葉が見つからない。短く答えるつもりが出来なくなった。まるで思考を読まれているようだ。簡単にボールを打ち返してくる。それを受け止めても、次々に打ち込まれる。まるでバッティングセンターへ来たみたいだ。
(どうして……。こんな思いをしなくちゃならないんだよ!)
さっきまで苛立ちを抑え込んでいたのに。どうしてもイライラしてきた。枝川さんの思うつぼだろうに。思いきり睨み返しても平然としている。
「君、面倒くさい子だな」
「はあ?だったら誘うな!」
「約束だからだ。俺も筋を通す」
「こんな状態で?一緒に食べて楽しいわけ?こっちは楽しくないから」
(面倒くさいなら帰れよ……)
頭に血がのぼっているのに、血液が冷たくなる感覚が起きた。
「また帰りたいと思っただろう。約束したから、君に構っている」
「あんたなあ……。構うのが面倒くさいなら、サッサと言えよ!俺はそんなに暇じゃない!」
「暇じゃない、か。受け身は ”暇” な証拠だ」
「インターンシップの前は受け身でした。もうそれはやめるから!」
「言い切ったな。それは宣言か?」
「はい、そうです」
「君は停まっている車みたいだぞ。そこの信号待ち、見てみろ」
(なんの関係があるんだよ……。停まっているだけだ……)
枝川さんが指した方向を見た。信号待ちの車が、ズラっと並んでいる。それだけのことだ。
「君はね。アクセルを踏んでいない。タイヤはあっても進んでいない」
「はああ?これから進むってば」
「矛盾しているぞ?」
「なにが?」
「そうやって帰りたがっているからだ」
「分かりました。帰りませんから!」
「本当に?発言を取り消さないだろうな?」
「はい!約束は守ります」
「そうか……」
枝川さんが笑った。それは人懐っこいものだ。ホッとした自分に苛立った。やっぱりこの人のことが怖い。それでも逃げるのは嫌だ。
「行きましょう。寒くて堪らないから」
「お気楽亭へ行こう。案内するよ」
「……」
「はははは」
今度はこっちがグイっと引っ張った。楽しそうに笑われたが、気づないふりをした。そして、青に変わった横断歩道を渡り始めた。
「そうか。分かった。お兄さんが教えてくれた店へ行こう。お気楽亭なら、反対方向だ」
そう言って、そばの信号へと歩き始めた。いきなり方向を変えたから、足元がヨロケけた。ポケットに右手が入ったままだからだ。おまけに握られているから、自然と離れなかった。
「あの!手を離してください!」
「なんで?」
「いきなり歩くから転びそうでした」
「そうなる前に支える。転んでいないじゃないか」
「転びそうだって言いました!離してください。歩きづらいんです!」
「もうすぐ店に着く。手は離さない」
「こんなことをしなくても逃げませんから」
「本当に?」
「はい!食事に行くのは約束だから。筋を通します」
「帰りたそうにしていたからだ。さっきから人波に流されていただろう。信号を渡り切れないから危ない。もう少しで、中央で立って待つしかなかったぞ。車がビュンビュン走ってくるぞ」
今度は苛立ったような言い方をされた。嫌味たらしい顔までされた。
「車の方が停まるから!さっさと渡ればいい」
「甘いなあー。だから危なっかしい」
「はあ?これは話が別です」
(やっぱり帰りたい。何を言っても返される。このまま続くのか……)
「全く同じ話だ」
「……っ」
枝川さんが楽しそうに笑った。こっちは笑えないのに。その態度を見ると、俺のことをからかっているのが丸わかりだ。
(ストレスが溜まっているのかな?だからだ……)
「あのなあ。車は停まらない。さすがに避けては行くけどな。何でも君の思い通りにはならないぞ。向こうがやってくれるって。甘いぞーー」
「たとえ話です。実際に渡ったから!」
「俺が肩を抱いたからだ。実際に自力で渡っていないのに言い切るな」
「……っ」
返す言葉が見つからない。短く答えるつもりが出来なくなった。まるで思考を読まれているようだ。簡単にボールを打ち返してくる。それを受け止めても、次々に打ち込まれる。まるでバッティングセンターへ来たみたいだ。
(どうして……。こんな思いをしなくちゃならないんだよ!)
さっきまで苛立ちを抑え込んでいたのに。どうしてもイライラしてきた。枝川さんの思うつぼだろうに。思いきり睨み返しても平然としている。
「君、面倒くさい子だな」
「はあ?だったら誘うな!」
「約束だからだ。俺も筋を通す」
「こんな状態で?一緒に食べて楽しいわけ?こっちは楽しくないから」
(面倒くさいなら帰れよ……)
頭に血がのぼっているのに、血液が冷たくなる感覚が起きた。
「また帰りたいと思っただろう。約束したから、君に構っている」
「あんたなあ……。構うのが面倒くさいなら、サッサと言えよ!俺はそんなに暇じゃない!」
「暇じゃない、か。受け身は ”暇” な証拠だ」
「インターンシップの前は受け身でした。もうそれはやめるから!」
「言い切ったな。それは宣言か?」
「はい、そうです」
「君は停まっている車みたいだぞ。そこの信号待ち、見てみろ」
(なんの関係があるんだよ……。停まっているだけだ……)
枝川さんが指した方向を見た。信号待ちの車が、ズラっと並んでいる。それだけのことだ。
「君はね。アクセルを踏んでいない。タイヤはあっても進んでいない」
「はああ?これから進むってば」
「矛盾しているぞ?」
「なにが?」
「そうやって帰りたがっているからだ」
「分かりました。帰りませんから!」
「本当に?発言を取り消さないだろうな?」
「はい!約束は守ります」
「そうか……」
枝川さんが笑った。それは人懐っこいものだ。ホッとした自分に苛立った。やっぱりこの人のことが怖い。それでも逃げるのは嫌だ。
「行きましょう。寒くて堪らないから」
「お気楽亭へ行こう。案内するよ」
「……」
「はははは」
今度はこっちがグイっと引っ張った。楽しそうに笑われたが、気づないふりをした。そして、青に変わった横断歩道を渡り始めた。
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