77 / 91
8-5
しおりを挟む
目の前には黒崎常務がいて、熱心に耳を傾けてくれている。学生の遊びだと受け取られるかと思ったのは、最初の電話のみだ。その後のやり取りで、本気で聞いてくれたのだと分かった。どこへ行ってもお坊ちゃま扱い、子ども扱い、甘やかされた年の離れた佐久弥の弟。そんな自分のことを、一人前に扱ってもらえた。そして、黒崎常務が考えたプランを聞いた。俺が作った甘酒製造機を大きくさせた物だった。
「このプランだと費用が掛かりすぎます。一人分を6時間かけて作るコンセプトなので。コストをかけると買う人がいません」
「贅沢を買う人もいるぞ?」
「せっかちな人もいますから。え?どうされたんですか?」
「いや、続けてくれ。費用対効果も思案しているのか。その考えはいつから浮かんだ?」
「いつの間にかです。学生同士で話していたら……。幸也君……、いえ、枝川さんと話していて、いろんな事が浮かびます。とくに発明のことは話題に出ませんが、あ、裕理君が……」
裕理君がこっちを見て、ニコッと笑った。”幸也君”という単語に反応した気がした。メガネの奥の瞳が光ったからだ。
マズいなと思いながら笑顔を返すと、常務が苦笑しながら、ツッコミを入れた。デスク同士が離れていないから、会話が丸聞こえだった。言葉に詰まったこともお見通しだと分かった。バレたかな?
「お前のせいで怖がっているぞ」
「あなたには言われたくありません。心配で見ていました」
「佐伯君。僕は怖いか?」
「そんなことはありません」
さらに二人の会話が始まり、周りの空気がにぎわった。ピリピリしているのが普通だと思っていたのに、ここには楽しい空気が漂っている。インターンシップの時とは雲泥の差がある。
(ここで働きたいな。幸也君は違うことを言ってたけど。どうしてかな……)
受け身のままだと、この企業では生きていけないと話していた。その時は悲しそうな目をしていた。笑顔の人が多いのに、仲が悪いのだろうか?
甘酒製造機の話を終えた後、常務が幸也君へ声かけた。下まで送っていくようにと。彼が椅子から立ち上った時に、向こうから名前を呼ぶ声がした。「承知しました……、ん?」
「枝川チーフ、販促チームのデータが……」
「どの案件だ?白澤さんの分か。バックアップ時間が……、12時?この時間なら……」
「こちらの……」
何かトラブルが起きたのかな?幸也君の顔が険しい。相手の社員はパニックになっている。それを見ていると、常務から気にするなと声がけされた。
「僕には飽きただろう?」
「すみませんでした」
「冗談だよ。真面目な子だ。荷物が重いから、下まで一緒に行く。枝川は取り込み中だ」
「いえ、お構いなく」
「遠慮しなくていい。外に出る用がある」
「はい。ありがとうございます」
「用意する。待っていてくれ」
常務が奥のフロアへ向かった。座っている位置が違うから、堂々とオフィスを見ることが出来た。ジロジロ見るのは失礼だ。たまに目線を変えた。視界の中には幸也君が入っている。さっきの人と話が終わったようだ。
(変な感じだなあ……)
さっきの男性社員が向こうの方へ戻った。その先には数人のグループがいて、苦笑いをしながら迎えていた。笑えるぐらいのことなのか。そして、背中が寒くなるような感覚が起きた。その人が幸也君の方を向いた。こっちを見ていないことをいいことに、舌打ちを打つ仕草をした。
(助けてもらったんだろう?叱られたんだよね?)
内容は分からないが、ああして報告に来たなら、そういうことだろう。幸也君はパソコンに向かい、他の社員を呼んでいる。マーケティング推進室と、天井の方に表示されている。データと言っていたから、担当なのか。
(陰口だよね。真面目にやっているのに……)
さっきの人がグループで囁きあっている。イラっとして、血がのぼる感覚が起きた。インターンシップや、O大のメンバーと似ている。どこでも同じなのか。
「理久、肩の力を抜け」
「裕理君……。早瀬代理。ジロジロ見てすみません」
「仕事が出来るから、妬まれているんだ。心配ないよ。フォローが入っている」
裕理君がこっそり話した通り、周りに人が集まっている。さっきのグループが、さっとデスクに向かい始めた。都合が悪いのか。
「佐伯君。出よう」
「はい。ありがとうございます」
黒崎常務から声を掛けられた。お土産だという紙袋を持ち、オフィスの外へと促された。入ってきた時と同じく、周りから手を振られた。
「ありがとうございました!」
「さようなら。気をつけてねー」
「はい!」
ここを出る前に、お辞儀をした。あのグループは、周りと同じような笑顔を浮かべている。常務がそばに居るからかな?幸也君は指示を出して、仕事を続けていた。
(カッコいいよ。心配ないよ……)
夜に電話をかけて伝えよう。幸也君へ視線を向けると、軽く手を振ってくれた。会釈だけして、エレベーターへ向かった。
ドレッシングの詰め合わせセットを、お土産をもらった。シャルロットキッチンでも使っているものだ。それを口にすると、黒崎常務が驚いていた。メニューには載せていないのにと。さすがだなと言って笑っていた。
「このプランだと費用が掛かりすぎます。一人分を6時間かけて作るコンセプトなので。コストをかけると買う人がいません」
「贅沢を買う人もいるぞ?」
「せっかちな人もいますから。え?どうされたんですか?」
「いや、続けてくれ。費用対効果も思案しているのか。その考えはいつから浮かんだ?」
「いつの間にかです。学生同士で話していたら……。幸也君……、いえ、枝川さんと話していて、いろんな事が浮かびます。とくに発明のことは話題に出ませんが、あ、裕理君が……」
裕理君がこっちを見て、ニコッと笑った。”幸也君”という単語に反応した気がした。メガネの奥の瞳が光ったからだ。
マズいなと思いながら笑顔を返すと、常務が苦笑しながら、ツッコミを入れた。デスク同士が離れていないから、会話が丸聞こえだった。言葉に詰まったこともお見通しだと分かった。バレたかな?
「お前のせいで怖がっているぞ」
「あなたには言われたくありません。心配で見ていました」
「佐伯君。僕は怖いか?」
「そんなことはありません」
さらに二人の会話が始まり、周りの空気がにぎわった。ピリピリしているのが普通だと思っていたのに、ここには楽しい空気が漂っている。インターンシップの時とは雲泥の差がある。
(ここで働きたいな。幸也君は違うことを言ってたけど。どうしてかな……)
受け身のままだと、この企業では生きていけないと話していた。その時は悲しそうな目をしていた。笑顔の人が多いのに、仲が悪いのだろうか?
甘酒製造機の話を終えた後、常務が幸也君へ声かけた。下まで送っていくようにと。彼が椅子から立ち上った時に、向こうから名前を呼ぶ声がした。「承知しました……、ん?」
「枝川チーフ、販促チームのデータが……」
「どの案件だ?白澤さんの分か。バックアップ時間が……、12時?この時間なら……」
「こちらの……」
何かトラブルが起きたのかな?幸也君の顔が険しい。相手の社員はパニックになっている。それを見ていると、常務から気にするなと声がけされた。
「僕には飽きただろう?」
「すみませんでした」
「冗談だよ。真面目な子だ。荷物が重いから、下まで一緒に行く。枝川は取り込み中だ」
「いえ、お構いなく」
「遠慮しなくていい。外に出る用がある」
「はい。ありがとうございます」
「用意する。待っていてくれ」
常務が奥のフロアへ向かった。座っている位置が違うから、堂々とオフィスを見ることが出来た。ジロジロ見るのは失礼だ。たまに目線を変えた。視界の中には幸也君が入っている。さっきの人と話が終わったようだ。
(変な感じだなあ……)
さっきの男性社員が向こうの方へ戻った。その先には数人のグループがいて、苦笑いをしながら迎えていた。笑えるぐらいのことなのか。そして、背中が寒くなるような感覚が起きた。その人が幸也君の方を向いた。こっちを見ていないことをいいことに、舌打ちを打つ仕草をした。
(助けてもらったんだろう?叱られたんだよね?)
内容は分からないが、ああして報告に来たなら、そういうことだろう。幸也君はパソコンに向かい、他の社員を呼んでいる。マーケティング推進室と、天井の方に表示されている。データと言っていたから、担当なのか。
(陰口だよね。真面目にやっているのに……)
さっきの人がグループで囁きあっている。イラっとして、血がのぼる感覚が起きた。インターンシップや、O大のメンバーと似ている。どこでも同じなのか。
「理久、肩の力を抜け」
「裕理君……。早瀬代理。ジロジロ見てすみません」
「仕事が出来るから、妬まれているんだ。心配ないよ。フォローが入っている」
裕理君がこっそり話した通り、周りに人が集まっている。さっきのグループが、さっとデスクに向かい始めた。都合が悪いのか。
「佐伯君。出よう」
「はい。ありがとうございます」
黒崎常務から声を掛けられた。お土産だという紙袋を持ち、オフィスの外へと促された。入ってきた時と同じく、周りから手を振られた。
「ありがとうございました!」
「さようなら。気をつけてねー」
「はい!」
ここを出る前に、お辞儀をした。あのグループは、周りと同じような笑顔を浮かべている。常務がそばに居るからかな?幸也君は指示を出して、仕事を続けていた。
(カッコいいよ。心配ないよ……)
夜に電話をかけて伝えよう。幸也君へ視線を向けると、軽く手を振ってくれた。会釈だけして、エレベーターへ向かった。
ドレッシングの詰め合わせセットを、お土産をもらった。シャルロットキッチンでも使っているものだ。それを口にすると、黒崎常務が驚いていた。メニューには載せていないのにと。さすがだなと言って笑っていた。
0
あなたにおすすめの小説
俺の推し♂が路頭に迷っていたので
木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです)
どこにでも居る冴えない男
左江内 巨輝(さえない おおき)は
地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。
しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった…
推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???
回転木馬の音楽少年~あの日のキミ
夏目奈緖
BL
包容力ドS×心優しい大学生。甘々な二人。包容力のある攻に優しく包み込まれる。海のそばの音楽少年~あの日のキミの続編です。
久田悠人は大学一年生。そそっかしくてネガティブな性格が前向きになれればと、アマチュアバンドでギタリストをしている。恋人の早瀬裕理(31)とは年の差カップル。指輪を交換して結婚生活を迎えた。悠人がコンテストでの入賞等で注目され、レコード会社からの所属契約オファーを受ける。そして、不安に思う悠人のことを、かつてバンド活動をしていた早瀬に優しく包み込まれる。友人の夏樹とプロとして活躍するギタリスト・佐久弥のサポートを受け、未来に向かって歩き始めた。ネガティブな悠人と、意地っ張りの早瀬の、甘々なカップルのストーリー。
<作品時系列>「眠れる森の星空少年~あの日のキミ」→「海のそばの音楽少年~あの日のキミ」→本作「回転木馬の音楽少年~あの日のキミ」
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編
夏目奈緖
BL
「恋人はメリーゴーランド少年だった」続編です。溺愛ドS社長×高校生。恋人同士になった二人の同棲物語。束縛と独占欲。。夏樹と黒崎は恋人同士。夏樹は友人からストーカー行為を受け、車へ押し込まれようとした際に怪我を負った。夏樹のことを守れずに悔やんだ黒崎は、二度と傷つけさせないと決心し、夏樹と同棲を始める。その結果、束縛と独占欲を向けるようになった。黒崎家という古い体質の家に生まれ、愛情を感じずに育った黒崎。結びつきの強い家庭環境で育った夏樹。お互いの価値観のすれ違いを経験し、お互いのトラウマを解消するストーリー。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
ミルクと砂糖は?
もにもに子
BL
瀬川は大学三年生。学費と生活費を稼ぐために始めたカフェのアルバイトは、思いのほか心地よい日々だった。ある日、スーツ姿の男性が来店する。落ち着いた物腰と柔らかな笑顔を見せるその人は、どうやら常連らしい。「アイスコーヒーを」と注文を受け、「ミルクと砂糖は?」と尋ねると、軽く口元を緩め「いつもと同じで」と返ってきた――それが久我との最初の会話だった。これは、カフェで交わした小さなやりとりから始まる、静かで甘い恋の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる