Radiate Crow~あの日の誘惑

夏目奈緖

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(そういうことか。自由にされてるのが嫌なのか。こんなこと言えない……。ううん……)

 こういう自分から脱却したい。幸也君の顔を睨み付けて、はっきり言った。

「NOだよ!NONONONONONO!」
「ああ、桂川弁護士のフレーズか……」
「ここで他の人の名前を出すな!バカーー!」
「理久……。ごめん」

 優しい力で抱きしめられた。ごめん。ひどくしない。今夜は何もしないから。外に出るか?なにか食べたいものは?まるで俺の方がイジメているみたいだ。

(これがケンカだ。初めてした……)

 久弥とかしたことがなかった。争いごとを避けてきたからだ。嬉しさが込み上げてきて、また涙が出てきた。ごめん、どうしたらいい?と、幸也君の謝る声が面白くて、嬉しくて、笑い声が出てしまった。

「ケンカしたんだよね?初めてなんだ。お兄ちゃんとだけしかしてなくて。ありがとう!」
「そうだったんだ……」
「”そうだったんだ”。これで仲直りしようね」

 幸也君の唇へキスをした。やっと笑ってもらえた後、優しいキスが返って来た。向かい合って笑い、仲直りが出来た。

 そのまま向かい合っていると、幸也君が吹き出して笑い出した。安心したと言いながら、俺の頭を撫でてきた。

「どうしてそんなに笑うんだよ?」
「子供みたいだからだ。君の長所だぞ。天真爛漫なふりをしなくても、今のままでいいぞ?」
「そうのはやめたんだ。疲れたから」
「俺も人のことは言えないけどな」
「そうだったんだ……。なんで?」

 ざっくりと教えてもらった。人目を気にして、言いたいことが言えなかったそうだ。常務からのアドバイスで、素のままでいるようにした。人間関係が楽になったが、嫌われるようにもなったそうだ。

(だからオフィスで変なグループが居たのか……)

「それはそれでいいけどな。ん?着信が鳴ったぞ?」
「お兄ちゃんからだ。報道されたのかー」

 TAKAが大麻所持を認めたことで、ニュースで報道されたそうだ。しばらく家に帰らないことと、お母さんにもそう伝えてあると書かれている。

 久弥には、幸也君のことを報告した。よかったなと、シンプルな返事があった。すると、写真も送られて来た。この間、悠人君の大学へ遊びに行った時のものだそうだ。久弥、悠人君、桜木さんとの3人で写っている。久弥が素のままで笑っているのが印象的だ。

「この人が桜木さんだよね?お兄ちゃんに似ているよー」
「確かに似ているな。桜木君はな、明日のコンテストを最後に、ギターをやめる。趣味で弾く程度で、コンテストには出ないってことだ」
「そっか……。このサポーター、腱鞘炎かな?お兄ちゃんは経験があるんだ。その頃、もう弾けなくなるかも知れなくて、泣いていたんだ」
「そうか。桜木君もそうだった……」
「え?」
「IKUエンタテイメントから所属のオファーがあったけど、腱鞘炎を理由に断ったそうだ」
「どれだけプロとして、ステージに上がることを望んでいただろうね」

(あれ?幸也君、泣いてる……)

 画面へ視線を向けたまま、幸也君の目から涙が零れ落ちていた。それを拭こうともしないから、泣いていることに気づいていないのかもしれない。
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