青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 そこで、買ってきたササミのおやつを食べさせてみると、途端に元気になり、オモチャを咥えて走り回り始めた。黒崎がホッとして力が抜けていた。それを見て笑いそうになったが、笑うのをやめた。黒崎にはアヤノちゃんという思い出があり、心に痛みが残っているからだ。

 本当は犬を飼うのは避けていた黒崎だったが、俺が実家のレモンと離れて暮らすようになり、俺のためにアンを家族に迎えたわけだ。元気でいてもらわないとと思って世話をしている。

「さてと。お姫様のお腹が落ち着いたところだし、俺達も朝ご飯にしようよ。はいはい。二人とも、テレビを観ていてよ。今日は俺だけで良いよ」
「いや、ここにいる」
「そう?」

 黒崎がキッチンカウンターにもたれ掛かり、俺の後ろ姿を見つめ始めた。また背が伸びたと言っている。自分でもそう思う。ズボンの裾が短くなった気がしているからだ。

「俺、また伸びたかもね。でも、スーツじゃないから、ズボンを買い直さなくても良いからね~」
「そのスーツを用意したい。1月の法事に着ていく分だ。それと、仕事で着る機会もあるだろう」
「開発部に行くときのスーツなら、裾を直すだけで良いよ。体重は元に戻す努力をするよ。3キロ増やしてみるからさ。筋肉量をアップさせるんだ~」
「冷蔵庫のプロテイン飲料は身体を冷やさないのか?」
「今のところ、お腹は大丈夫だよ。まあ、1日1個だけしか飲んでいないし。本当はトレーニングしなくちゃいけないんだけど……」

 毎日の家事だけでも、けっこうな運動量だと思う。歌を歌うことでもエネルギーを使う。畑の世話でも足腰が鍛えられている。黒崎が心配するから、トレーニングをしない方に決めている。 

 コポコポ……。カップに卵スープの素を入れて、ポットのお湯を注いだ。黒崎も同じ物を飲む。ロールパンは温め済みだ。冷凍ブロッコリーを電子レンジで解凍し、作り置きの厚焼き卵のお皿に添えて、今朝の朝ご飯の出来上がりだ。

 それらをキッチンカウンターに並べると、黒崎がダイニングテーブルに並べ始めた。そこで、全体的におかずの量が少ないことに気づいた。

「黒崎さーーん。足りるーー?」
「十分だ。厚焼き卵が山盛りじゃないか」
「前はもっと食べていただろ。あ、冷凍のホットケーキがあるよ。甘くないよ」
「それは甘かった。美味かったが……」
「そっかーー。本当は甘い物が食べられるのにねえ……。知っているんだよ。ユーリーから聞いたんだ。ドイツでクッキーとソフトクリームと、ケーキを食べたんだって?それも一日でだよ」
「口止めしたんだが……」
「ユーリーには出来ない相談だよ。ペラペラ喋るって、ノアが言っていたんだ。大成からフラれたことも喋るだろうから、まだ実家に報告していないんだってさ。うひゃひゃひゃ」
「胃が痛いことだ……」
「何でも一家で共有しなきゃいけない掟があるなんてねえ。初恋の相手とか、フラれたことまでって……」

 この間、ノアから聞いたことだ。バーテルス家には36人の家族がいて、ノアの成績だとか、初恋の相手だとか、転んで擦りむいただけでもみんなに回覧板のように回ってしまい、隠しておきたいことまで共有されるそうだ。

 そういうわけで、お嫁さんに来てくれる人がいなくなり、親族間で紹介し合って結婚するのだと、ノアが嘆いていた。決して悪い人達ではないことは分かっている。ユーリーもノアも優しい。エミリアさんもそういう人だと思う。
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