青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 21時。

 たった今、家に帰ってきたところだ。ただし、俺達の家の方ではなく、父の家に帰ってきた。警察署の帰りに外食をしてきた。黒崎製菓が経営するレストランに予約をしようとしたが、嬉しいことに満席であり、シャルロットキッチンで夕食を済ませることになった。

 今日は平日だが、年末に近くなったことから人の動きが活発になり、どこの店も客でいっぱいだ。シャルロットキッチンは21時までの営業であり、昼間と夕方の利用が多く、夜は空いているとは思っていた。その勘が当たり、そこで食べてきた。

 今夜の鍋は明日に延期になった。俺はリビングのソファーに座り、ため息をついた。俺の隣に座った一貴が、俺に一生懸命に謝っている姿を見つめながらだ。

「圭一、すまない!」
「”お兄ちゃん、僕は良いんだよ”」
「なんだそれ。もっと乱暴な言い方をしてくれないか……」
「お前の趣味なのか?」
「いや、そうじゃない。どうして今日は優しいんだ?誕生日だからなのか?」
「呆れているからだ。どうして警察官の前で暴れるんだ……。怪しいだろうが。ばかやろう……」
「そうだよ~。カズ兄さん、あんなにジタバタするなんて、思い切り怪しんでくれって言っているようなものだったよ~」

 夏樹が俺達に紅茶を煎れてくれた。俺達が警察署に到着した直後、涙を溜めた目で立っている一貴がいて、俺は胸が痛くなった。可哀想にと思ったからだ。しかし、それはほんの一時のことだった。一貴が警察官のことが怖いと言って泣きそうになり、自分は46歳と9歳の人格に分れている人物であり、母から叱られてきたというトラウマがフラッシュバックして息もできないと、警察官に説明を始めた。

 その時の彼は完全に子供になっていたが、時々現われる9歳の島川少年の顔ではなく、駄々をこねる46歳の、いつもの一貴の顔だった。島川社長の顔になってくれれば、そんなに時間が掛からずに警察署から出られただろう。恥を掻くことも無かった。警察官はしっかりした人であり、一貴の息の乱れを心配し、冷静かつ、優しく話を聞いてくれた。父がじっと見つめていたせいもあるかも知れない。

 黒崎家では今のところ、警察の世話になることがなくやってこれている。不審者や、夏樹のデビューによって週刊誌の記者が詰めかけて騒動になり、警察を呼んだことは除く。つまりは、誰も事情を聞かれても痛いところがないのが胸を張れる理由だ。しかし、一貴が怪しまれてしまった。

 その理由は、一貴によるネットへの写真の投稿だ。モデル等、会食の相手と行ったレストランや、二次会のクラブで撮った写真を投稿し、交友関係の広さをアピールしている。それはプラセルが業界から嫌われていないというアピール作戦であり、薬物の疑いを持たれるためではない。しかし、今日の撮影のモデルの、薬物の疑いで事情を聞かれている友人が一貴と交際があるような匂わせ方の投稿をしており、そこには同席したモデルの所属事務所の社長がいて、一貴が事件に関係していると思われたようだ。

 しかし、その友人は自分を大きく見せるために行ったことだと、警察に打ち明けたそうだ。一貴との交際の事実はないし、食事をしたこともないと言った。そして、薬物の使用はしていないという結果になったという。しかし、所持はしているかも知れないし、過去にやっているかも知れない。また事情を聞かれるそうだ。彼にも弁護士がついて、話し合いが進められている。

「圭一、君のおかげで落ち着けた」
「俺とユーリーが、お前のことを床に沈めたからだろう」
「一貴さん。怪我はない?」
「ないよ。圭一だけだと俺のことを抑えられなかったから、ユーリー、君がのしかかってくれたんだろう。ありがとう」
「”僕も良いんだよ”」

 ユーリーが俺の真似をして冗談を言った。一貴が暴れるから押さえ込んだとき、その強い力にため息が出た。呆れてのことだ。どこが子供かと思った。そこで、ユーリーが手伝ってくれたわけだ。そして、一貴は落ち着きを取り戻し、事情を聞かれて、素直に答えていき、お咎めなしになった。沙耶が代わりに警察に話を聞こうとしたが、一貴が泣くから、一緒に話をするしかなかった。
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