青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 大木さんとしては、ママを表に出して、さらに事務所の名前を広めたいという考えだそうだ。ママは反対で、表に出ない方が良いのだという考え方だ。輩出したモデルさん達が活躍し、真琴企画はモデル業界の中でも名前は広まっている。スクールへの入学希望者は増えている。だから、今のままでコツコツと、自分は一切表に出ること無くというのが希望だ。

 しかし、大木さんはママが出た方がいいと言っている。多くの生徒とモデル事務所の移籍者希望者を増やしていきたいからだ。しかし、ママとしては、テレビに出ると、華やかさだけで寄ってくる人が増えるから、事務所運営の方の力が削がれるという心配をしている。人間関係の広がりで増えた飲み会の席、呼ばれるパーティーの数などが増えれば増えるほどに、そういうことになると言っている。

 これは黒崎が言うには、黒崎家で知った親戚づきあいでの疲れを思い出すし、そこで培った経験で、そういう考えをとるようになったのだろうということだった。これは決して間違いでは無くて、表に出ないことで華やかさがないと言えなくも無いが、それだけ事務所運営に力を注いでいるという印象を持って貰えて、有望な人が集まってきたのだろうということだった。経営者が目立っているからと集まる人の中には、悪い考えをしている人が混ざっていなくはない。そこで、ママの取った方針は厄災よけになっていただろうということだ。

 そこに、大木さんが現われた。人間関係の広がりによる調整は引き受けるから、まずはテレビに出てくれということだった。朝陽のモデル広告の話題があるうちに一度だけでいいという。ママはそうしてみようかと思ったそうだ。そこで、大木さんに、今声が掛かっている番組の中でどれがいいか選んで貰ったという。そして、大木さんからは、黒崎に声を掛けて、彼にもどれがいいか見てもらってくれということだった。

 そういうわけで、親子の縁を切ったはずの黒崎がママから連絡が入るようになり、それはネガティブな話では無く、いつまでも元気で良いという感じの話だから、縁起が良いと思う。テレビに呼んでくれるなんて、今のうちだというのが大木さんの意見だ。黒崎もそう言った。二人の考え方が同じなのが、俺は驚いた。

 てっきり黒崎としては、ママの方針の方が良いと言うと思っていた。経営者は目立たずという方針だ。華やかにせずにという形だ。しかし、黒崎は俺の前でもお義父さんの前でも、もちろんママとの電話でも、はっきりとこう言った。真琴企画が潰れようがどうしようが、どうでもいいのだと。今のうちに色々やっておけという。

 それを聞いたママは悲しかったかも知れない。どうでもいいなんて、俺が聞く限りでは本音だと思ったからだ。きっと、ママもそう思ったに違いない。応援してくれるとは思っていないとは言っていたそうだ。それを聞いて俺は悲しくなった。だから、黒崎にはママの事務所運営を応援してもらいたいと思っている。すると、黒崎が俺達の方を見た。あの人から電話が掛かっていると教えてくれた。ママだということだ。

「あんた、正月早々、どうしたって言うんだ。俺は甘い物は食わない。あんたが煮た黒豆の甘煮には興味があるが、今日は行けない。夏樹、黒豆の甘煮は冷蔵庫で何日もつんだ?」
「ん?」
「黒豆の甘煮の保存期間だ。あの人は10日ぐらいだと言っている」
「俺の記憶だと、5日ぐらいだよ。でも、ママがそう言うなら、そうなんじゃないかな?」

 俺は訂正した意見を言い直した。しかし、黒崎はしっかりと聞いてしまったから、そのままツッコミを返し始めた。どうやらママが黒豆の甘煮を作ったらしい。それを食べに来ないかという誘いだ。そして、黒崎が小さい頃、好きだったはずだと言われたことが分かった。そうなのかと驚いた。甘い物はお菓子だけかと思っていた。

 ママはこの家ではキッチンに立っていないそうだが、倉口さんのところではそうでも無かったのかも知れない。二葉が、時々お母さんがご飯を作ってくれたと言っていたからだ。料理全般は倉口さんが担当していたそうだ。黒豆を煮ることができるなら、ママは実は料理上手なんだと思った。
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