青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 すると、9歳の島川少年が僕もハマグリのお吸い物を飲みたいと言いだした。さっきとは口調が違う。どこか大人びていたのに、子供のような感じでキッチンに行った。その様子を見守り、人格が違うと、食べた感じも分かれているのだと分かった。ということは、それぞれがお腹を空かせているということにならないか。しかし、3人前を食べるなんて、お腹が痛くなるだろう。悠人じゃあるまいし、食べるのは無理だろう。

 一貴さんが戻ってくるまでの間に、俺はお茶を飲むことにした。そして、アレクシスさんのことを見つけた。この部屋の中で一番行儀が良いと思う。すっと伸びた姿勢に、お茶碗と手に取って箸を動かしている姿は、ずっと日本に居たのだと分かる感じだ。食べ物の好き嫌いはなくて、何でも食べられるそうだ。

「アレクシスさんって、本当に行儀が良いよねえ。エミリアさんから習ったんだね」
「そうだったかなあ。日本のマナーは隆さんからだった気がする。うちの母さんは箸を使うのが苦手で、この家ではナイフとフォークで食べていたよ。もちろん、箸も使えるんだけどね。自信が無いから恥ずかしいんだって言っていた」
「そうだったんだね。俺の箸の使い方、どう思う?」

 そう言って、俺は今持っている持ち方の手を見せた。すると、アレクシスさんがぷっと吹き出した。悪いという意味だろう。俺もそう思っている。実家では、俺だけがこんな持ち方をしている。正しい持ち方を教えて貰ったはずなのに身につかず、和食の店で会食に出られないと思っている。

「夏樹。その持ち方は悪い方だ。どうやったらそれで食べられるんだ?」
「こうやって食べるんだよ」
「中指をもっとこうしたらかっこよくなるぞ」
「それが出来ないんだよ~。ユーリーの持ち方に似ているだろ?」
「ああ、似ている。さっきそう思った。昨日は洋食だったから、ナイフとフォークの持ち方は綺麗だと思った。箸はそれだもんなあ」

 はははと、アレクシスさんが笑った。ちょっとヤンキー口調っぽく戻った。ところで、二葉とのお見合いはどうなったのだろう。そこで、聞いてみることにした。会ってどうかということを。

「アレクシスさん。二葉とのお見合いするんだろ?もう喋っているけど、印象はどう?」
「本人を前にしては言えないな」
「だったら悪いって事かよ?」
「そうじゃない。親子ほども年が離れているんだぞ。俺は44歳だ。彼は25歳だ。19歳も離れておいて、お見合い相手だなんていけない気がする」
「ふうん。二葉はどうなんだよ?」

 俺はハマグリのお吸い物を飲んでいる二葉に意見を聞くことにした。もう2時間もアレクシスさんと喋っているから、打ち解けられただろう。そう思って感想を聞いてみると、嬉しそうに笑った。

「俺は良い感じだと思っているよ。アレクシスさんは優しそうだよ」
「そうだよね。お見合いってどこでやるの?」

 もう会ったから良いのではないだろうか。そんなことを考えていると、アレクシスさんがそうはいかないんだと言って笑った。わざわざドイツから飛んできて、会って終わりなんてしたくないそうだ。できれば二葉の前ではスーツを着たかったいうことだった。しかし、そのスーツすら持ってきていないから、とてもお見合いなんて言えないと言った。つまりは、アレクシスさんから断られたということなのだと察した。

「ああーー、断られたということかーー」
「気がついたか」
「うん。こうやって断るんだね。覚えたよ」
「だから、俺がここに来た時点で破談だ。でも、あり得ない相手だったということで、俺のことを断ったということにすれば良い。マナー違反だとな」

 そう言って、アレクシスさんがお茶を見始めた。良い温度になっている言いながら。少し冷めたぐらいだろう。お見合い相手から眉をひそめられてしまったという理由で帰るらしい。
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