青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 19時半。

 黒崎家の大広間にて芋煮会の最中だ。大きな鍋からは出汁の良い匂いがしている。大食いの悠人には彼専用の鍋を用意してあり、たった30分で食べきったから驚いているところだ。

「ゆうとーー。すごい食欲だねえ。大学の学食に行かなくなったら、君、たくさんのお弁当を持ち歩いて仕事に来ないといけないんだよ」
「うん。今からどうしたらいいか考えているところだよーー。4年間、学食のビュッフェにはお世話になったから、おかげで食べ物を持ち歩かなくても良かったんだ。小さなおやつぐらいだよ。持って行ったのって……」
「うんうん。この後は何を食べるの?あ、お寿司にする?取ってあげるよ。マグロが美味しいよ~」
「ありがとう」

 悠人にはこれから大変な任務が待っている。新しいバンドのリーダーという役割だ。楽曲提供者でもあり、アレンジ担当でもある。彼の作品で楽曲の人気度が変わり、注目されるかどうかが掛かっている。そんなことを言わないでくれと聡太郎から頼まれてあるが、現実問題としてそうなる。

 それを彼に言うと、楽しんでやっていることなのに稼ぐためになるから、楽しくなくなるよと言われた。たしかにそれはそうだ。それは俺だって分かっている。しかし、俺は稼いでいかないといけない。もしも黒崎が倒れたときに大黒柱にならないといけないからだ。

 どうしてこんなことを思うようになったかというと、紫乙さんの話の影響だ。元夫は彼女の稼ぎを当てにして、自分の給料をほとんど全てギャンブルに使う人だったから離婚したそうだ。黒崎の場合はそうではないことは分かっている。しかし、持病の喘息があることから、俺としては心配になっている。

 それに大学でも学んだことがある。親が病気で入院続きだという生徒や、好きになった人が居て、その人はヒモ気質で、自分が稼がないといけないという生徒もいた。ヒモの場合は周りの子達が別れろと言っていたし、俺も悠人もそう言ったが、彼女がうんと言わないから、ヒモと結婚しそうだと恐れている。

 そのヒモ男はバンドマンだという。美容師をやっていて、美容学校に行っているときにはバーテンダーのバイトをしていたそうだ。これを3Bというらしい。浮気男の多いカテゴリーだそうだ。バンドマン、美容師、バーテンダー。たしかに全部にBがつく。俺達もバンドマンだ。

「うっうっ。浮気男のカテゴリーだなんて嫌だよ~。絵理奈ちゃんの友達さ~、カレシがバンドマンで、ライブを開くのにお金が要るからって、彼女から借りようとしているんだろ?別れさせた方がいいよね~」
「俺もそう思うよ。あのライブハウスの規模だったら、この前に開いたときのライブチケットの収益から十分に今回のライブの開催費用が出るはずなんだ。だから、50万借りられないかなんて、怪しい話だよ」
「そうだよねえ。悠人は高校生の時からライブをやっていたから分かるもんね。まるで竹内わかなさんみたいな話だよ。付き合い始めた人が執行猶予の身で、余罪のことで脅されていて、お金を要求されているから貸して言われて、つい貸してしまって、それが嘘で、全部で360万円になるんだってさ。別れたって、配信で話していたけど」
「耳に痛い話だよ。俺達は高校生の時から、周りの大人バンドマンからそんな話を聞いていて、恐ろしい世の中だって知ったんだ」

 話題は配信者の竹内わかなさんのことだ。この間、親子鑑定のキットを郵便ポストに入れたときに会った人だ。俺が声だけ出ていることをSNSで知らせてくれて、ディスレクトサイドゼロのSNSにも紹介された。今日の南波さんの配信にも、声だけの出演だと掲載されている。これは宣伝効果が抜群で、若い人の層に俺達のバンド名が広まったようで、フォロー人数が増えた。

 そして、竹内わかなさんのファンの人がTDDのメンバーが出ているテレビ番組の切り抜き動画を作ってくれて、動画配信サイトにアップされて、そのサイトに載せてあるTDDのミュージックビデオの視聴回数に影響した。増えたということだ。そして、ディスレクトサイドゼロの公式ホームページへのアクセス数が上がり、デビュー曲の発表まで、この勢いを保ってもらいたいと思った。

 ディスレクトサイドゼロの成功は宣伝に掛かっている。そんなことを言い出した俺に悠人が呆れたと言ったことがある。良い曲と演奏がないと宣伝した意味が無くなるから、きちんと曲づくりをしないといけないのだと叱咤された。大学に入ったときはそそっかしい悠人の面倒を見ていた俺だったのに、すっかり立場が逆転している。
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