青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 親戚のコネを使っての就職という仕組みは黒崎製菓にも存在する。コネのある入社希望者の面接では、なるべく優しい質問と話しかけをするというものだ。そして、コネのない者には辛口で話しかけて、ああ、落ちたと納得させる。風林もそうだったのだろう。

 しかし、俺が黒崎製菓に戻ってくる際に、コネを利用しての入社は除外すると意見を出してある。今ではなくなったとは思うが、あくまでも、“思う”の段階だ。今田課長の首ねっこを押さて聞き出せば、コネのある社員が存在しそうだ。そういうコネを使ってでも入社希望される企業であるのはありがたい話だと思うが、黒崎製菓が沈む船になってしまうという恐れがある。

 ところで、風林のことを拒否するかのような発言をしたのは誰だろう。今田課長だろうか。採用面接を担当して長い彼だ。会社の顔にもなっていると言える。その彼は犯した罪ならば、この先は真っ暗だ。こうして風林のことを面接で落とした。見る目がなさ過ぎる。そして、コネ採用ということで金銭の授受があれば問題だ。

「風林君。君にその発言をしたのは誰だ?」
「言えません。その人を悪く言うことになります」
「いいから言ってくれ。俺の立場が危うい。そんな奴を俺が雇っていることになる」
「分かりました。今田さんという方でした」
「そうか……」

 頭が痛くなるような感覚が起きた。入社試験において面接に進む者の中には場違いな者も来る。筆記試験を合格し、面接に呼んだら呼んだで、酒に酔ってくる奴がいた。その際には丁重にお帰り頂く。圧迫面接などしない。風林はそうではなかったはずだ。こうして優秀な人材がこぼれ落ちていっているのかと思うと、なんとかして船を建て直さなければならないと思った。

「それで君はしどろもどろか。考えを否定する言い方は禁止してある。君のようになるからだ。面接に必要なのはどんな人柄なのかを聞くことに重点を置いてある。君のことだから、大学時代の成績は優秀だろう。大変真面目な生徒だったはずだ。今田のことは後でシメておく。許してくれ。本題に移りたい。レストラン事業部には人材が不足している。君に入ってもらいたい。もちろん、営業企画部という部署も検討している。幹部候補として育てさせてもらいたい」
「誘いは嬉しいんですけど、俺、今の会社で満足しているんです。営業の楠木とは同じ大学の友人でして、俺が岡田商事をやめるときにこっちに来いって、引っ張ってくれたんです」
「そうか。社長とはどうだ?」
「いい人だと思っています。2回、飲み会で会いました。後は入社面接の時です。俺、現場だから支店で勤務しています。本社でも評判のいい人みたいです」
「楠木君も支社なのか?」
「はい。同じ都内で、本社とは目と鼻の先に会社があります。社長は会社を4つ経営していて、普段はイベント関連の会社にいることが多いです」
「そうか。島崎守社長か。まだ会ったことがない。君をヘッドハンティングして恨まれそうだ」
「話があったことは内緒にします」
「いや、話しておいてくれ。出す金額は昼に話したとおりだ。今よりも年収が上がる。君ならすぐに係長になれる。そうなると、手当が増える」
「でも……」
「今田のことは悔しい。君のような人材を落とすんだからな。レストラン事業部に人がほしい。何度も言う。来てくれ。それで、岡田商事を辞めたのはどうしてなんだ?」
「社長からデートに誘われて断ったら、部署を異動させられました。本社勤務だったんですが、左遷人事と言われました」
「セクハラじゃないか。辞めて正解だ。それで、俺との話はどうだ?」
「考えさせて下さい」
「そうか。考えてくれるのか」

 その答えを聞き、晴れ晴れとした気持ちになった。心の隅では来てもらえないだろうという思いがあった。しかし、これも縁だと思い、繋がりを持ちたかった。数年後、同じ道を歩んでいるかも知れないという思いがあった。

「いつでも連絡してくれ。心配なら、副社長室に電話をくれ」
「いえ、この番号にかけます。では、失礼します。おやすみなさい」
「ああ、ありがとう。おやすみ」

 風林との電話を終えて、心の中でガッツポーズを作った。こうして黒崎ホールディングスではヘッドハンティングを行ってきた。当時の自分は生き生きとしていた。ワンマン社長だと思われていたかも知れないぐらいに自由度があった。今も良い環境にいるが、風を起こしたかった。その一歩を踏み出せたことに満足し、今度は北添からの電話を待った。
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