青い月の天使~あの日の約束の旋律

夏目奈緖

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 夢の中にいるようだ。ここはどこだろう。古い屋敷の中にいる。畳の部屋だ。骨董のような物が置かれた床の間が見えた。そして、俺のそばには黒髪の男性が座っていた。俺も座っている。

「アンリ。どうしても今日は海に行くのか?」
「あの子の命日だからね。両親はまだあの子の死を受け入れられなくて、葬式もしていない。命日だからといって海に行くこともしないと思うんだ。だから、僕が行くよ」
「今日は風が強い。波も高いだろう。もしお前が高波にさらわれたらと思うと、許可できない」
「秀悟。僕は大丈夫だって知っているくせに……」
「それでも心配だ……」

 俺は男性から抱きしめられた。その人の名前が秀悟だと話の流れから分かり、黒崎家のご先祖様だと思い出した。そして、俺はアンリさんになっているようだ。秀悟さんがそう呼ぶからだ。

 俺は身じろいだ。いや、アンリさんが身じろいだのか。俺の意志に反して身体が動いている。アンリさん今思っているのは、海に行くことだ。不思議と、彼の考えていることが頭に入ってきた。同じ町内にいる男の子が海で亡くなり、命日の今日、海に花を供えに行くということだ。しかし、外は風が強く、波が高いかも知れない。

 そこで俺は、秀悟さんも一緒に行ったらどうかと思った。しかし、彼は行こうとしないようだ。そこで、アンリさんの思考が入ってきた。秀悟さんの立場としては海へ行かないということになっているようだ。黒崎家はここの土地の領主のような立場であり、跡取り息子の彼はそう簡単に出歩けないということだった。

「アンリ。明日にしないか。明日ならもっと天気が穏やかだろう」
「今日が命日なんだよ。みんな、明日が命日だって言うけど、僕には分かるんだ。次郎君が亡くなった日をね」
「今日は高波だ。やっぱり許可できない」
「どうして僕の自由を奪おうとするのかな。僕は月から来たんだよ。なんだってできる。波が来たときには仲間が引き上げてくれる。空だって飛べる」
「ブロナイザーというものだったか。空を飛べる装置だ」
「そう。ブロナイザーだよ。それに乗れば波を越えて海を見渡せる。あの子が海で行方不明になったとき、僕は飛行許可が下りなかった。運命に身を任せよという司令官の命令だった。僕はここに住んでいる人の生死を操ることは許されていない。何でも自然に任せないといけないんだ。だから、医師になることもできない。だから、せめて、命日に花を供えることだけはしたい」
「行かせない。もしものことがある。明日なら、俺も一緒に海へ行ける。真琴の迎えの帰りだ」
「真琴?」

 思わず俺は聞き返した。すると、アンリさんの意識が入ってきた。真琴とは秀悟さんの妹だということだった。和裁の学校に通っているらしい。そして、秀悟さんは武家の家の次男だが、機織り工場の経営者の跡取りとし経営に携わっているのだと分かった。明治時代に入っているのか、髪型は今風だ。少し、黒崎に似ていると思った。

 すると、秀悟さんに抱きしめられた。アンリさんは笑っている。どうしてそんなに心配するのかと言いながらだ。

「秀悟。君が16歳の時に僕がここに来たね。僕は18歳ということにしてあった。今は28歳だ。君の成長と同じように年を取った。でもね、僕は外見の年齢を変えることが出来る。だから、なんでもできるんだよ」
「行かないでくれ。月に帰らないでくれ……」

 秀悟さんの腕の力が強まった。しかし、アンリさんは笑うばかりだ。俺としては切なくなった。こんなに心配を掛けているのなら、言うことを聞いてあげたら良いのにと思った。しかし、アンリさんが花を供えることは信念でもあり、変えることが出来ない。

「秀悟。僕なら平気だ。雨が降っていても行く」
「アンリ。どうか俺の言うことを聞いてくれ。海は恐ろしい場所だ」
「仕方が無いな。それなら、波打ち際じゃない場所で供えるよ。それならいいだろう?上官の許可も下りた。僕は海に行くけど、手前までだ……」
「アンリ……」

 秀悟さんの腕の力が弱まった。思いが叶ったという感じだった。そして、俺の身体がアンリさんから離れていった。すると、彼の外見が見えた。そして、驚いた。俺と似ていたからだ。その驚きの声が2人に届いたのか、彼らがこっちを見たような気がした。そして、頭がクラクラしてきて、目を開いた。
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