聖なる雫の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

文字の大きさ
12 / 144

2-8

しおりを挟む
 一体、どこまで走って行くのか?ホテルの敷地を出ると、木々囲まれた大きな公園が広がった。ぼんやりした灯りの中に浮かんでいる噴水が見えた時、悠人が立ち止まった。

「おおー、デッカイ噴水だなー。裕理さーん!」
「はいはい。さっきまで動けなかった子か?」
「俺の体は大食い仕様だもん。満腹からの復活だよ」
「はあ……。ブラックホールか?」
「どうかな?まだ食べられる気がする」

 悠人が振り返ると、月明かりの下、艶のある黒髪が輝いた。理知的な目元が笑みの形を取った。不思議なことに、20代後半の姿が思い浮かんで重なった。自信に満ち溢れながらも、優しい顔立ちをした青年になるだろう。

(白昼夢か?未来予想か?似ている……)

 悠人が静久の面影に重なった。全く顔立ちが違うのだが。失敗と成功を繰り返し、次第に自信を手に入れた姿がよく似ている。周りのことも笑わせていた。

「裕理さーん。どうしたのー?」
「君が静久に似ていた」
「ほおー。自分もそう思った。アンディープのライブ動画を見せてもらったよ。ばたばた忙しそうにしててさ、佐久弥が落ち着けーーって笑っていたよ。理久の面倒を見させられていたよね?そういうところだよね?」
「そうだよ。トイレの場所が分からなくて連れて行ったときだ。理久は10歳ぐらいになっていたけど」
「だから、佐久弥が俺のことを構ってきたのかな?」
「それは違うはずだ。考え方と優しさだ。全く違う子だぞ。悠人は悠人だ。 ”ゆうゆうコンビー” 」
「ひいいいっ。佐久弥の真似をするなよー。裕理さんのものまねは似ているんだってば」
「そうか? ”ぎゃはははははー” 」
「げえええええっ」

 リアクションの後で、本気で逃げて行った。その後ろから追いついて抱きしめた。離してよ、離してやらないぞ。笑いながらじゃれ合ったあと、視線が合わさった。どちらともなく近づいていき、そっと唇が重なった。

 何度か触れ合い見つめ合った時、タイミングよく、悠人がクシャミをした。その3連発の後で、ティッシュがないと騒ぎだした。もちろん俺が持っている。

「向こう……むいてよ……」

 きまり悪そうな顔をして、そっぽを向いたから笑った。しつこかっただろうか?ブルーキックを受けたてしまった。とっさに避けては繰り返されてきりがない。

 ふと、いたずら心が芽生えた。鼻をかんでいる後ろから抱きついて、悠人の頭の上に顎を置いた。即座に身じろいで腕の中から抜け出そうとするから、足を絡めて阻んでやった。すると、急に動かなくなった。

「抵抗しないのか?やめた?」
「寒いからだよ。このままタクシー乗り場に行こうよ」
「さすがに歩きづらい。ごめんなさい」
「へへへ。競争しようねーー。フライングする!」
「こらーー、そっちは反対だ」
「げえええええっ。わわわっ、嘘つくなよーー」
「嘘かも知れないぞーー」
「もうーー。メエーー。ひいいいいっ」

 悠人のことを強引に背負うと、首筋に顔を埋めてきた。そして、空に浮かぶ月を眺めては、明後日食べに行くパンケーキの話をした。

 まだ店は決まっていない。3つの店が候補になっているからだ。いっそのことハシゴするか?そう持ち掛けると、YESと答えが返ってきたから驚いた。そのリアクションが大げさだったのか?悠人の真似になってしまい、ブーブー怒られながら、足早にタクシー乗り場に向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

僕の目があなたを遠ざけてしまった

紫野楓
BL
 受験に失敗して「一番バカの一高校」に入学した佐藤二葉。  人と目が合わせられず、元来病弱で体調は気持ちに振り回されがち。自分に後ろめたさを感じていて、人付き合いを避けるために前髪で目を覆って過ごしていた。医者になるのが夢で、熱心に勉強しているせいで周囲から「ガリ勉メデューサ」とからかわれ、いじめられている。  しかし、別クラスの同級生の北見耀士に「勉強を教えてほしい」と懇願される。彼は高校球児で、期末考査の成績次第で部活動停止になるという。  二葉は耀士の甲子園に行きたいという熱い夢を知って……? ______ BOOTHにて同人誌を頒布しています。(下記) https://shinokaede.booth.pm/items/7444815 その後の短編を収録しています。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

処理中です...