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思い起こしてみた。セミナーに出席した時に、親父の知り合いを介して、一人の男性を紹介された。それが島川一貴だ。俺は千尋製菓の専務取締役の息子として紹介された。今になって違和感を覚えた。そういう紹介のされ方は初めてだ。それを口にすると、親父から、紹介した者が誰なのかを聞かれた。
「山内さんだよ。久しぶりに会って、懐かしいねって話していた。そこへ島川さんが来た流れだよ。島川さんがクリスマスに圭一さんの家に立ち寄ったらしいけど、俺は会っていない」
「……それだけか?」
「大晦日にトリンドランドで会った。連絡先を交換した。それ以外は仕事の話をしていない)
「……君が千尋製菓に移ってくるのなら、代表取締役社長になる話を受けたいと打診された。実は最初の話が出た辺りからだった。君が部長代理への昇進が決まった頃だった。黒崎製菓でやりたいはずだと話しておいた」
驚いて言葉が出なかった。まさか、自分の返事が理由で話が流れたのか?その質問の答えは ”グレー” だった。YESでもNOでもない。山内さんからの紹介され方を考えると、パズルのピースが合う。
「仕事の絡みはないよ。そもそも業界が違うし、提携の話もない。役員同士の繋がりはあるだろうけど、どこでも同じだ」
「……社長は乗り気だ。島川さんと付き合いたいからね。はははー」
「笑えないよ。お父さんは船を浮かべた立て役者なのに。お母さんと離婚するからか?」
「……いや、僕が引退する話をしていたからだ。島川さんの希望は、君が副社長のポストに就くことだ。いずれはプラセルに戻り、君に社長をやってもらう。それが青写真だ。……早瀬社長としては渡りに船だ。他の家の者に千尋製菓を渡したくない」
「途方もない話だ。断る口実としか思えない。おじいちゃんが、しつこく声を掛けているのか?」
「……それも正解だ。君とやりたいのは本当だ。黒崎製菓から離れる気がないのは知っているが、今回の話を考えてみるか?」
「どうしてそんなことを?」
「……今すぐに力が欲しいと言ったじゃないか」
そのとおりだ。祖父は知っているのか?親父にそう聞くと、それは分からないと返って来た。
祖父は人を頼る人だ。俺が力を欲しがっていることに気づいたとしても、気にしないだろう。現実として、副社長へ就く話が持ち上がった。返事次第だと言われた。何がどう変わるのかは知っているだろう?そう親父から口にされたが、考えたこともないから分かるわけがない。千尋製菓の内情もだ。
「俺には分からない。専務取締役としては、どう見えているんだ?」
「……僕が報道にかけた、同じ圧力を使える。プラセルの島川氏と手を組んだ副社長として。数年後には千尋製菓のトップだと見られる。君が望んでいるものが手に入る」
「その代価は信頼を失うことだ。この理由じゃ話は受けられない。今の自分があるのは、黒崎製菓グループのおかげだ。いい形で移るならいいけど、そうならない」
「……よく分かった。社長には僕から話しておく。君は連絡を取らないでくれ。妄想をめぐらされて、いい迷惑になる」
「お父さん。カッコいいね」
こういう人だったのか。周りにうるさい者が多すぎたから、本来の力を発揮できなかったのか。今の千尋製菓は空気が変わったようだ。業界でも評判になっている。親父がトップに立つのは自然な流れだ。
「……裕理。人から推挙されるのはいい流れだぞ?人柄も認められた証だ。下の者が付いてこない人間を、パートナーにしようとは思わない」
「自信を喪失しかけていたから、元気が出たよ。今の持ち場で上がって行く」
「……出世欲がないのにか?自然に上げられるのは部長までだ。グループ内の企業を任せられるように、取締役会への話に乗るといい。黒崎社長にいい返事をしたそうじゃないか。深川副社長からそう聞いた。……君のことは情報が垂れ流しだ。嘘は付けないぞ。もう到着する時間か」
「ありがとう。また電話をかける」
親父と話してこう思った。これほどのタヌキ親父だったのかと。今さらになって思い知った。
ガーーーー。
本社ビルの車寄せに到着した。エントランスへ入った直後、ラインの着信が鳴った。悠人からだった。
「この子はタヌキじゃないなあ。”ユウト”。可愛い知的生命体だ。ぷ……っ」
メッセージには画像が添付されていた。今朝の作品だと書いてある。味噌汁のワカメは適量だが、ネギがざく切り状態で器からはみ出している。夏樹の畑で採れた九条ネギだそうだ。
「ゆうとーー。想いは繋がっているんだね」
そう呟いた後で気持ちを切り替えて、エレベーターに乗り込んだ。
「山内さんだよ。久しぶりに会って、懐かしいねって話していた。そこへ島川さんが来た流れだよ。島川さんがクリスマスに圭一さんの家に立ち寄ったらしいけど、俺は会っていない」
「……それだけか?」
「大晦日にトリンドランドで会った。連絡先を交換した。それ以外は仕事の話をしていない)
「……君が千尋製菓に移ってくるのなら、代表取締役社長になる話を受けたいと打診された。実は最初の話が出た辺りからだった。君が部長代理への昇進が決まった頃だった。黒崎製菓でやりたいはずだと話しておいた」
驚いて言葉が出なかった。まさか、自分の返事が理由で話が流れたのか?その質問の答えは ”グレー” だった。YESでもNOでもない。山内さんからの紹介され方を考えると、パズルのピースが合う。
「仕事の絡みはないよ。そもそも業界が違うし、提携の話もない。役員同士の繋がりはあるだろうけど、どこでも同じだ」
「……社長は乗り気だ。島川さんと付き合いたいからね。はははー」
「笑えないよ。お父さんは船を浮かべた立て役者なのに。お母さんと離婚するからか?」
「……いや、僕が引退する話をしていたからだ。島川さんの希望は、君が副社長のポストに就くことだ。いずれはプラセルに戻り、君に社長をやってもらう。それが青写真だ。……早瀬社長としては渡りに船だ。他の家の者に千尋製菓を渡したくない」
「途方もない話だ。断る口実としか思えない。おじいちゃんが、しつこく声を掛けているのか?」
「……それも正解だ。君とやりたいのは本当だ。黒崎製菓から離れる気がないのは知っているが、今回の話を考えてみるか?」
「どうしてそんなことを?」
「……今すぐに力が欲しいと言ったじゃないか」
そのとおりだ。祖父は知っているのか?親父にそう聞くと、それは分からないと返って来た。
祖父は人を頼る人だ。俺が力を欲しがっていることに気づいたとしても、気にしないだろう。現実として、副社長へ就く話が持ち上がった。返事次第だと言われた。何がどう変わるのかは知っているだろう?そう親父から口にされたが、考えたこともないから分かるわけがない。千尋製菓の内情もだ。
「俺には分からない。専務取締役としては、どう見えているんだ?」
「……僕が報道にかけた、同じ圧力を使える。プラセルの島川氏と手を組んだ副社長として。数年後には千尋製菓のトップだと見られる。君が望んでいるものが手に入る」
「その代価は信頼を失うことだ。この理由じゃ話は受けられない。今の自分があるのは、黒崎製菓グループのおかげだ。いい形で移るならいいけど、そうならない」
「……よく分かった。社長には僕から話しておく。君は連絡を取らないでくれ。妄想をめぐらされて、いい迷惑になる」
「お父さん。カッコいいね」
こういう人だったのか。周りにうるさい者が多すぎたから、本来の力を発揮できなかったのか。今の千尋製菓は空気が変わったようだ。業界でも評判になっている。親父がトップに立つのは自然な流れだ。
「……裕理。人から推挙されるのはいい流れだぞ?人柄も認められた証だ。下の者が付いてこない人間を、パートナーにしようとは思わない」
「自信を喪失しかけていたから、元気が出たよ。今の持ち場で上がって行く」
「……出世欲がないのにか?自然に上げられるのは部長までだ。グループ内の企業を任せられるように、取締役会への話に乗るといい。黒崎社長にいい返事をしたそうじゃないか。深川副社長からそう聞いた。……君のことは情報が垂れ流しだ。嘘は付けないぞ。もう到着する時間か」
「ありがとう。また電話をかける」
親父と話してこう思った。これほどのタヌキ親父だったのかと。今さらになって思い知った。
ガーーーー。
本社ビルの車寄せに到着した。エントランスへ入った直後、ラインの着信が鳴った。悠人からだった。
「この子はタヌキじゃないなあ。”ユウト”。可愛い知的生命体だ。ぷ……っ」
メッセージには画像が添付されていた。今朝の作品だと書いてある。味噌汁のワカメは適量だが、ネギがざく切り状態で器からはみ出している。夏樹の畑で採れた九条ネギだそうだ。
「ゆうとーー。想いは繋がっているんだね」
そう呟いた後で気持ちを切り替えて、エレベーターに乗り込んだ。
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