聖なる雫の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 あれほど大きな企業にプラセルを成長させたなら、子供の頃から期待されていただろう。しかし、黒崎家を嫌がり起業した。一歩以上の距離をおいて付き合っているそうだ。だからこそ、黒崎と気が合うのだろう。

「島川さん。せっかくなので、ゆっくりしましょう」
「ありがとう。この店は雰囲気がいいですね。デートにも良さそうだ。楽しめるでしょう」
「へえ。どうしてそう思われますか?」
「席同士の間隔が絶妙だ。女性が緊張せずに済むでしょう。奥手の男性もだ。僕ならそうします」
「奥手ですか?そうは見えない」

 やっと普通の会話が始まった。垣根が取り払われ、空気がいいものに変わった。ここでプライベートに踏み込むとしよう。男女のどちらが恋愛対象なのかを知りたい。悠人への態度が気になる。弟的な存在としてなら安心だ。悠人は厄介なタイプを引き寄せがちだ。今回のケースを教材にさせよう。さあ、聞き込みの開始だ。

「お付き合いされている方は?」
「多忙で私生活が崩壊しました。何年も相手がいません。仕事を優先にしてはフラれている。早瀬さんもそうでしょう?」
「全く同じでした。相手のために稼いでいたのに」
「帰宅すると荷物が無かったケースがありました」
「それは……」

 お互いに笑い出した。ありそうな話だし、俺にも経験がある。笑うと若く見える。こうして話してみると、魅力的な人物だと知った。まさか緊張していたのか?人に会う回数が多いだろうに。それとなく問うと、直球で答えがきた。

「仕事上では”変身”するからです。プラセルの島川代表取締役として。会食の前には目を閉じて、ゆっくり数を数えていました」
「なるほど。悠人が懐いたわけだ。似ていますよ……」

 しまった。余計なことだ。取っ掛かりを与えたくないのに。そろそろ、こちらも直球で聞こう。友人になりたい理由をだ。見つめ合っていても先に進まない。

「島川さん。僕と友人になりたい理由が知りたい。不自然です」
「憎たらしいからです」
「……え?」
「あなたの名前が、うちの業界でも聞こえています。最近だと渡部社長の件だ。僕は会うことすら叶わない。お近づきの意味で会食へ誘いましたが……」
「具体的な話ではないからでしょう」
「いいえ。僕が目標にしたものをクリアしている姿が、腹が立って仕方がない。出世欲がないと聞きましたが、そのようですね」

 そうです。余計なことは答えないでおく。褒め言葉だが、下手に謙遜はしない。返事をすることなく、ポテトをつまんで口に入れた。

 彼からは見つめられたままだ。反応を返さないからだ。こちらの様子を伺っているのか?とても友人にはなれない。やや残念だ。周りにいないタイプで面白そうだったのだが。
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