聖なる雫の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 さらにポテトへ指先を伸ばすと、いきなり島川が立ち上った。帰るのか?いや、顔を近づけてきた。意外な行動に驚き、隙を与えてしまった。伸びてきた手にも驚くと、優しく頬に触れられた。目を見せてほしいと呟いている。勝手にさせた。背中が冷たくなりながら。

「綺麗な瞳をしていますね。淡いグリーンだ。濃い色じゃないのが珍しい。よく言われませんか?」
「色味の強弱には頓着していませんので」
「悪い意味に取らないでくれ。全体的な雰囲気に合っている。白めの肌、まつ毛の色、怜悧な容貌に映えている。ひと目で好きになった」
「さっき、憎たらしいとおっしゃいましたよ。矛盾していますよ?」
「どちらも本音だ。実際にお会いして恋をした。悠人君とのことは邪魔をしない。たまに食事に付き合ってもらえないか?圭一が同席して構わない。いつまでも見つめていたい」
「迷惑です」

 即座に拒否の言葉が出た。答えに間があると、その時間に比例して相手に期待を持たせる。間髪入れないことが身に着いている。男性の自分がまさかとは思っていたが、誘惑されるケースは少なくない。女性的に見えないし、筋肉自慢のタイプでもないのだが。

「嫌がらせですか?僕には効果なしです」
「本気だ。裕理という名前も素敵だ。ユーリ。響きも素晴らしく……君に似合っている。名付けた方のセンスを称えたい」
「故人です。墓前で伝えます」

 時間の都合はつくが、立ち去ってしまいたい。目を逸らすと負けだ。そう理解しているが、目を逸らせた。ポテトの塩を拭き取る仕草と同時にだ。

「その横顔も素敵だ。理想だよ」
「迷惑です。時間がきましたので、失礼させていただきます」
「友達同士にならないのか?僕のことが気に入らなかった?」
「……え?」

 聞き返したいのは俺の方だ。思わず向き直ると、島川が沈んだ顔をしていた。まるで子供のようだ。ここに座っているのは、プラセルの代表取締役なのか?そう疑うぐらいだ。さらに島川が言った。

「友達になりたい。君に憧れていた。嫉妬したし恋もした。叶わないことは分かっている。面白い男として見てもらえないか?」
「あの……」
「悠人君のことも好きになったが、昔の自分を見ているような気分だ。モデルに起用したい。助けてあげたくなる。友達のパートナーとして。ああ、しまった……」
「もう……」

 俺の方を見ているからだ。手元のグラスを倒してしまった。2回目の失敗に慌てている姿を見て、放っておけなくなった。悠人が”厄介なタイプ”を引き寄せるのなら、俺は、”手のかかる人”を引き付けるタイプ”だ。

「仕方ないなあ。週一回のランチから始めようか?」
「ありがとう!」

 立ち上った島川が屈託のない笑顔を浮かべた。おかしな人だ。プラセルの社長に変身しようとも、子供のような部分は隠しきれない。

 このギャップに魅力を感じる人がいるはずだ。俺もそう感じた。当初の予定通りの時間まで、2人でポテトをつまんで親交を深めた。
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