聖なる雫の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 悠人が珈琲を用意していることに気づかなかった。物音を立てないようにしたのか。話している間、不安だったろう。迷惑をかけたと思い、気に病んだ可能性もある。親父に電話をかけ直すと伝えた後、悠人をソファーに座らせた。思った通りの表情をしていた。

「話を聞いていたんだ。ごめんね。実家へ引っ越すんだよね?家が傷むからって……」
「まだ決めていない。広い庭があるし、楽器は弾き放題だ。今より開放感があるはずだ。佐伯家の近所になる」

 実家の状況を話した。落ち着いて聞いている。俺の顔色を見ることなく。安心して続けていると、電話を貸せと言ってきた。そして、止める間もなく親父と話し始めた。

「もしもし。悠人です。……はい、聞きました。ありがとうございます。住まわせて頂きます」
「悠人。勝手にやめなさい」
「いつも優先するだろ、俺のこと。緊張するけど、大丈夫だから、話があったんだろ?だったらOKだよ。……もしもし。途中ですみません。……裕理さんへかわります。はい、遊びに行きます。おやすみなさい」

 スマホを渡された。電話の向こうでは、親父が笑っていた。尻に敷かれているじゃないかと。それは認めるしかない。親父にも聞かれたはずだ。浮気ではないと慌てていたことを。

「もしもし。悠人の返事だけど。家を見てから返事をさせる」
「もちろん構わない。セキュリティー解除方法は変更がない。明日は祭日だ。一緒に観に行こうか?」
「2人で構わない。いや……、明日はどうだろうな。動きがあるかも知れない」
「明日には分かるだろう。情報が漏れた原因の元が」
「そうだね。後はIKUで対応だ。連絡する。おやすみ」

 電話を切ると、悠人が“ふんぞり返って” 座っていた。珈琲を飲みつつ、夜景を見ていた。自分の意見は譲らないぞと言いかのようだ。その姿が似合わなすぎて吹き出した。俺のことが気になるようで、チラチラと視線を向けてきた。わざと答えないでいると、その回数が増えてきた。

(可愛いから、このままにしたいけど……)

 生活リズムを崩させたくない。寝ようと促すと、悠人が心配そうな顔をした。どういうことだろう。

「ゆうとくーん。ふんぞり返るのをやめたのか?」
「怒ったんだろ?怖い顔をしてたもん」
「勝手に話を進めたからだ。はいはい」

 引きずるようにしてベッドへ連れて行った。もう一度、シャワーを浴びてこようとすると、シャツの裾を引っ張られた。どこに行くのかと言いながら。

「シャワーを浴びてくる。一時間後に帰ってくるよ」
「部屋の中だろ。すぐに戻ってきてね……」
「冗談だ。家のことは踏ん切りがついて助かった。俺のことを優先しているのは、悠人の方だぞ?見に行って、嫌だなと思ったら断ろう。母のことは心配ない。親父は母のことが好きだ。引退後に一緒に住むつもりだったけど、出て行かれた。どうしよう?やっと時間が取れたのにと言っていた……」
「よかった……。追い出す感じがしたんだ。そうじゃないって思ったんだけど。裕理さんもそんなことはしないから。今は別々に住んだ方がいいんだね」
「そういうことだ。悠人のおかげもあるんだぞ?良い方に進んだ。寝たのか……」

 安心したのか、悠人が寝息を立て始めた。抱きついてくるかと期待したが、寝相の悪さを披露された。気持ちがクリアになった証拠だ。俺の方も眠気が起き、シャワーを浴びた後、安心してベッドに体を沈めた。
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