聖なる雫の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 島川さんから褒められる度に、早瀬が笑い飛ばしている。蔵之介さんが話していた通り、感覚がぶっ飛んでいる気がする。そういえば島川さんからラインが入っていない。忙しいのだろうか。

「島川さんから連絡がないよね?忙しいのかな?」
「そういえば……。海外出張に出ていたからなあ」
「こっちから誘おうよ。来月も、ショップへ誘われているし」
「いや、俺の方からしておく……」

 近くの広場で停車した。早瀬がさっとスマホを取り出して、島川さんの連絡先をタップしている。電話をかけているようだ。急にどうしたのだろう?しかし、出なかったようだ。

「忙しいみたいだ。次のスポットへ行こう。ああ、掛かってきた。……もしもし。島川さん。急にすみません。この間のお礼を言いたくて。……え?入院したのか。怪我を?骨折か……。良かったら、今から見舞いに……」
「怪我をしたの?どこの病院?あああ……」

 とっさに声が出た。静かに終わるのを待った。聖加世病院へ入院しているそうだ。ここから近くの場所だ。車がUターンした。お見舞いの品を用意した後、病室へ訪ねて行くために。

「オフィスの階段から落ちて、くるぶしを骨折したそうだ。一週間前だ。落ち着いた頃だから、お見舞い行こう。食事制限はないから和菓子がいい」
「夏樹たちは知っているかな?電話をかけるよー」

 兄弟だから連絡は入っているだろう。いや、大人はそうでもないのか?念のために夏樹へ電話をすると、すでに知っていた。退院後は、黒崎家のお父さんの家で過ごすそうだ。一人暮らしでは大変だからだ。電話の向こうの夏樹もホッとしている。俺達が見舞いに行けば元気になりそうだと言ってくれた。

「よかった。島川さんが寂しいって話してたんだよー。あああ……」
「……ゆうとー。どうしたんだよ?」

 今、夏樹と電話中だ。早瀬の手が伸びてきて、太ももを指先で刺激され始めた。たまにこんな悪戯を仕掛けてくる。

「……もしもし。お義父さんが家においでって言っていたよ。黒崎さんの3番目のお兄ちゃんを紹介するよ。晴海さんっていうんだ。遊びに来た時に会えると思う。優しい人だよ。一貴さんとも仲がいいんだ」
「ほお……。賑やかになるね。お父さんも寂しくないね。夏樹たちもいるけど」
「俺も良かったよ。家に誰かいるのと居ないとじゃ、大違いだもん。お見舞い、助かるよ。ありがとう。けっこう寂しがり屋みたいだし。仲良くなったんだね~」
「俺はそんなに会っていないけど、裕理さんがランチに行っているよ。気が合うみたい」
「そっか。さっぱりした人だからね。今、どこか遊びに出てるんじゃないの?いいの?」
「ドライブ中だよ。近くに居るんだ。なつきー。鼻声になっているよ?寝ておけよー」
「うん。じゃあね!」

 プツ。電話を切ったところで、和菓子店の前に到着した。俺は車に残り、早瀬が戻るのを待った。てきぱきしているから、すぐに買って戻ってきた。瞬時の技だ。さすがは元秘書だと思った。

 カーナビを見ると、あちこちが渋滞している様子だ。車が進路を変えた。方向音痴の俺としては、どこへ進んでいるのか分からない。ルートからは外れている。

 ガーーーー。

 渋滞など存在しないかのように、順調に車が進んで行った。そして、スムーズに病院の駐車場に到着したから驚いた。マーケティングで培ったというが、本当なのか?

「浮気はしてないぞ」
「まだ気にしてるのー?あああ……」
 
 地下駐車場だから薄暗いことを幸いに、濃厚なキスをされてしまった。なかなか終わらなくて、服の中へ手が潜り込んできた。あちこち触られて息が上がった後、耳へ軽く噛みつかれた。

「君の方こそ仲良くするな。島川さんと」
「ヤキモチ?なんで?」
「前にも言っただろう。面白くない」
「だめだだめだ、あああ……」

 太ももに触れられた。分かったよと返事をすると、やっと手が引っ込められた。至近距離にはドSの笑顔がある。なぜか背中に冷たい汗が流れてしまった。
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