聖なる雫の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

文字の大きさ
87 / 144

14-2

しおりを挟む
 早瀬は悩み事を抱えている気がする。仕事の内容が変わったし、住んでいる場所も変わった。しかも、いい思い出のない実家へだ。俺のためにと引っ越して来た。この家では楽しいことを考えてほしい。子供時代のことを吹き飛ばすぐらいに。

 ふとした時に、考え事をしているようだ。その時は、あまりいい表情ではない。佐久弥に相談すると、本人が乗り越えるしかないと言っていた。蔵之介さんも同じ意見のはずだと言った。

 一番近くにいるのに、何も出来ないのがもどかしい。早瀬ならどうしているか。俺が悩んでいる時は、目から鱗が落ちる解決策を導きだす。

(仕事で悩んでいるのかな?黒崎さんに聞いてみようかな。やめとこう。こそこそ話している気がするから……)

 今は出来ることはないと返って来そうだ。なぜかというと、早瀬自身が俺には悩みを抱えさせたくないからだ。あえてその答えになるはずだ。

 転んで泥だらけの関係でOK。そう誓い合っても、この人は意地っ張りすぎる。俺の前では、頼れる男でありたいそうだ。十分なのに。まだ足りないのか。

 何も話さないから、こっちも悩んでいる。気にしないようにしろ?そんなのは無理だ。ガラにもないことはしない。しかし、今は気持ちを切り替えよう。

 早瀬の頭をクシャクシャと撫でた。身じろぐ仕草が可愛らしいと思った。そして、微睡んでいる耳元へ話しかけた。

「もう起きるからね。限定のモーニングセットが欲しいから。買ってくるよ」
「一緒に行く。ふう……」
「んん……、苦しいって……」
「もう少し待て。目が覚めるから」

 そう言いつつ、寝息を立てようとしている。昼過ぎまで寝ていればいい。身体を起こして見上げると、気だるそうに俺のことを見ていた。寝起きの早瀬は、妙に色気が漂っているから心臓に悪い。隙だらけというものだ。

 少しだけ開いた唇が動いた。悠人、そう動いた。おいで、また動いた。これ以上、どこへ行くのか?

「寝ててよ。遅かったんだし。歩いてすぐだよ。散歩している人もいるし……。この辺は危ない人が居ないし……」
「だめだ。迷子になる。おいでー」
「あああ……」

 力強く身体を引き寄せられた。早瀬の身体へ倒れ込み、背中がヒヤッとした。文句を言いかけると、包み込むようにして抱きしめられた。首筋から汗の匂いがする。まだ肌寒いぐらいなのに。もしかして、熱が出ているのか?

「熱があるだろ?じっとしてて」
「出ていない……」
「もう……」

 額へ手を当てたが分からない。体温計は近くの棚に置いてある。さっさとケースから引き抜いて、脇に挟んでやった。大人しくしたかと思ったのに、器用に抱きつかれた。

「やめろって。音が鳴ったよ。見るからねー。ああ、平熱だね。ふむふむ」
「出ていない。君と体温が同じだから。ほーら、こうすると分かるぞ」
「メエメエ……」

 モウモウ言ってやらない。変態すぎて、取り合いたくなくなった。やっと目が覚めたのか、肩を揺らして笑い出した。適当に叩いてやると、起き上がった。

 着やせする身体を惜しげもなく披露された。憧れるボディーだ。大きく伸びをしたときの顔はスッキリしていた。大丈夫だろう。さっそく着替えを始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】

まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

【完結】君の穿ったインソムニア

古都まとい
BL
建設会社の事務として働く佐野純平(さの じゅんぺい)は、上司のパワハラによって眠れない日々を過ごしていた。後輩の勧めで病院を受診した純平は不眠症の診断を受け、処方された薬を受け取りに薬局を訪れる。 純平が訪れた薬局には担当薬剤師制度があり、純平の担当薬剤師となったのは水瀬隼人(みなせ はやと)という茶髪の明るい青年だった。 「佐野さんの全部、俺が支えてあげますよ?」 陽キャ薬剤師×不眠症会社員の社会人BL。

処理中です...