聖なる雫の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 午前6時。

 朝ごはんを食べ始めると、隣から手が差し出された。カボチャサラダをフォークに取り、食べさせてくれた。手のひらの傷は治っているし、使えるのに。唇の傷が痛むから、食欲は落ちている。早瀬は真面目な顔だ。

「はい。もうひと口だけ食べろ」
「お腹いっぱいになるよ。オムレツもあるのに」
「普段なら食べ切る量だ。昨日の食事も少なかった。食べ物のオバケが出るぞ?」
「オバケ話は平気だもん……」
「案山子のオバケが出てくるぞー?その窓から覗き込んできて……」
「ひいいいいっ」
「はい。あーーーん」

 詰め込まれはしないが、微笑まれると弱い。あーんと口を開けた。俺が飲み込んだのを待ち、今度はオムレツを放り込んできた。早食いの方だから、こんなにゆっくりと食べたことがない。

 早瀬からは称賛されたことがある。どれだけの量だろうがスピードだろうが、綺麗な食べ方をすると。玲子さんや遠藤さん達からもだ。父まで驚いていたから文句を返した。今頃知ったのかと。あれには呆れ返った。

 早瀬との二人家族だと思っていると、いつの間にか家族のような存在が増えていた。遠藤家の養子として迎えたいという話し合いは出来ていない。

 父としては心中複雑だった。父親がいるのにと。今更だとは言い返さずにおいた。俺のことを守る人が増えるのは、いいことだとも言っていた。
 
 結婚相手の親、つまりは早瀬の両親にも相談する内容だ。どんな意見なのかを聞いていなかった。たしか連絡があったはずだ。

「どうだった?」
「母からは賛成だ。もめ事を持ち込んでくる人は、どの家でもあることだと。相続のことだよ」

 そっか。返事をした後、寂しい気持ちになった。俺としては、早瀬家の養子になりたいと思っている。この話が起きるまでは考えたことがなかった。

 夏樹が養子になった理由は、家族として認められたいからだった。手術の同意や、何か起きた時には、他人では出来ないことがある。それは遠藤さん達にも当てはまる話で、力になりたい。

 俺たちにも当てはまることだ。隠し事は嫌だし、何を言ってもいいとさえ言われている。おずおずと口にした。黒崎家のようにしたいと。

「俺も同じことを考えていた。祖父が問題のある人だから躊躇した。無視をしても、君に重荷がかかる。決して好かれている家じゃない。黒崎家は好かれている」

 黒崎家の代々の当主が、何でも筋を通してきたからだ。早瀬家は反対で、千尋製菓が窮地に陥った時には、協力を申し出てきた相手がいなかったそうだ。少しもプラスに働かないとまで言い切った。早瀬自身はどうなのか?ちゃんと進んでこられたのに。

「俺は周りの人に恵まれたからだ。この家を出たことも理由だ」
「家族として認められたいよ」
「他にも方法がある。出来る限り用意しておく。俺もそうしたいのは本音だ」

 それならそうしたい。じっと見つめていると、頬や額にキスをされた。何て顔をしているのかと言われた。早瀬こそ寂しそうだ。ここは推しておこう。自分の意思をはっきり口にした。

「お父さんと玲子さんにお願いするよ!」
「遠藤さんはどうする?うちとは大違いの温かい家だ。久田氏もしっかりした人だけど、お母さんのことがあるから、守ってもらう存在が必要だ。もちろん俺が守る。両親も約束してくれた」

 有難いことだ。答えは急がなくていいと言われている。何年か先でもといいのだと。今回話し合いをすることになった。遠藤さん達からの意思を聞くためだ。どの道がいいのか選ぶために。早瀬の両親にも養子縁組のことを頼むことにした。すると早瀬が苦笑して、真面目な顔をした。

「俺から話す。そうしたいからだ」
「ありがとう」

 はいはいと頭を撫でられた。急に食欲が出てきて、朝ごはんを食べ切ることが出来た。もちろん食べさせてもらった。
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