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午前8時。
黒崎製菓に到着した。この時間は出社する社員の姿が少なく、随分と静かだ。20階でエレベーターを降り、役員室と営業企画部のオフィスへと入った。カフェスペースでは、3人が過ごしていた。その中にいた南波が出てきた。彼は新しい提案書を作成しては持ち込んでくれる社員だ。
「常務、おはようございます」
「おはよう」
「先週のレストラン事業の件ですが……」
「今日の15時から時間が空く。デスクに来てくれ」
「はいっ」
南波が嬉しそうな笑顔を見せた。デスクに向かうまでに、同様の声が掛けられた。新しいアイデアの持ち込みをする社員も増えて、オフィス内には活気が生まれた。
役員室の自分のデスクに着き、最初にデジタルフォトフレームをセットした。夏樹の写真を眺める為だ。
「午前中はどれにするか。夏樹と友達・学食。バンドヴォーカル。アンと夏樹……、家庭菜園。家族樹、夏樹の高校時代。着ぐるみパジャマ……」
本当は夏樹のことを家の中に閉じ込めてしまいたい。誰も目にも触れさせたくない。そう願っていたが、あの子を精神的に追い詰めたことがあった。大学進学を期に、なるべく自由にと考えてきた。こういう考え方をしている俺のことを、夏樹は許してくれている。大きな子供だと言われている始末だ。現在では尻に敷かれている。
『夏樹と友達・学食』を選んで、表示させた。すると、イベリコ豚丼のソースを口につけた夏樹が映し出された。悠人、森本、山崎、真羽と並んで座っている。いい笑顔だ。
夏樹と悠人は2人とも人形のような顔立ちをしている。しかし、イメージは反対だ。大人びた夏樹と童顔の悠人。ゆったりしている夏樹と、しっかり者で動き回る悠人。ただし、行動パターンには共通点がある。そそっかしさだ。
最近ではバンドマンとして知名度が上がり、大学内にバンド活動のことが広まった。来年1月には、ミッシュアップコンテストという大会へ出場する。ディアドロップやベテルギウスが、この大会の出身だと聞いた。
「さてと……」
早瀬の姿が視界に入った。午前の会議2本は彼も出席する。課長と同格である室長以上の役職を集めた会議だ。第2四半期決算発表後、第3四半期決算に向けてのものだ。
「……早瀬、おはよう」
「……おはようございます」
「午前の予定だが、時間調整はどうなった?」
「10時半に変更です。8階のA1会議室にて、25分間の予定です。マーケティング推進室からは、僕と枝川が出席します」
「そうか。午後のコンラッドの代表との会議は?」
「それは秘書にお聞きください」
「もう一度、俺の秘書になってくれ」
「もう嫌です。5年間は苦行でしたから」
「そう言うな。デキている仲だろう?」
「……お断りします」
お互いに笑い声を立てた。こういうやり取りをするのは日常茶飯事だ。ここに入社した直後は、俺達がデキているという噂が立った。しかし、すぐに治まったのは、夏樹の存在が黒崎製菓グループ内で広まったからだ。このデジタルフォトフレームも効果があった。
黒崎製菓に到着した。この時間は出社する社員の姿が少なく、随分と静かだ。20階でエレベーターを降り、役員室と営業企画部のオフィスへと入った。カフェスペースでは、3人が過ごしていた。その中にいた南波が出てきた。彼は新しい提案書を作成しては持ち込んでくれる社員だ。
「常務、おはようございます」
「おはよう」
「先週のレストラン事業の件ですが……」
「今日の15時から時間が空く。デスクに来てくれ」
「はいっ」
南波が嬉しそうな笑顔を見せた。デスクに向かうまでに、同様の声が掛けられた。新しいアイデアの持ち込みをする社員も増えて、オフィス内には活気が生まれた。
役員室の自分のデスクに着き、最初にデジタルフォトフレームをセットした。夏樹の写真を眺める為だ。
「午前中はどれにするか。夏樹と友達・学食。バンドヴォーカル。アンと夏樹……、家庭菜園。家族樹、夏樹の高校時代。着ぐるみパジャマ……」
本当は夏樹のことを家の中に閉じ込めてしまいたい。誰も目にも触れさせたくない。そう願っていたが、あの子を精神的に追い詰めたことがあった。大学進学を期に、なるべく自由にと考えてきた。こういう考え方をしている俺のことを、夏樹は許してくれている。大きな子供だと言われている始末だ。現在では尻に敷かれている。
『夏樹と友達・学食』を選んで、表示させた。すると、イベリコ豚丼のソースを口につけた夏樹が映し出された。悠人、森本、山崎、真羽と並んで座っている。いい笑顔だ。
夏樹と悠人は2人とも人形のような顔立ちをしている。しかし、イメージは反対だ。大人びた夏樹と童顔の悠人。ゆったりしている夏樹と、しっかり者で動き回る悠人。ただし、行動パターンには共通点がある。そそっかしさだ。
最近ではバンドマンとして知名度が上がり、大学内にバンド活動のことが広まった。来年1月には、ミッシュアップコンテストという大会へ出場する。ディアドロップやベテルギウスが、この大会の出身だと聞いた。
「さてと……」
早瀬の姿が視界に入った。午前の会議2本は彼も出席する。課長と同格である室長以上の役職を集めた会議だ。第2四半期決算発表後、第3四半期決算に向けてのものだ。
「……早瀬、おはよう」
「……おはようございます」
「午前の予定だが、時間調整はどうなった?」
「10時半に変更です。8階のA1会議室にて、25分間の予定です。マーケティング推進室からは、僕と枝川が出席します」
「そうか。午後のコンラッドの代表との会議は?」
「それは秘書にお聞きください」
「もう一度、俺の秘書になってくれ」
「もう嫌です。5年間は苦行でしたから」
「そう言うな。デキている仲だろう?」
「……お断りします」
お互いに笑い声を立てた。こういうやり取りをするのは日常茶飯事だ。ここに入社した直後は、俺達がデキているという噂が立った。しかし、すぐに治まったのは、夏樹の存在が黒崎製菓グループ内で広まったからだ。このデジタルフォトフレームも効果があった。
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