6 / 348
2-3
しおりを挟む
午前8時。
黒崎製菓に到着した。この時間は出社する社員の姿が少なく、随分と静かだ。20階でエレベーターを降り、役員室と営業企画部のオフィスへと入った。カフェスペースでは、3人が過ごしていた。その中にいた南波が出てきた。彼は新しい提案書を作成しては持ち込んでくれる社員だ。
「常務、おはようございます」
「おはよう」
「先週のレストラン事業の件ですが……」
「今日の15時から時間が空く。デスクに来てくれ」
「はいっ」
南波が嬉しそうな笑顔を見せた。デスクに向かうまでに、同様の声が掛けられた。新しいアイデアの持ち込みをする社員も増えて、オフィス内には活気が生まれた。
役員室の自分のデスクに着き、最初にデジタルフォトフレームをセットした。夏樹の写真を眺める為だ。
「午前中はどれにするか。夏樹と友達・学食。バンドヴォーカル。アンと夏樹……、家庭菜園。家族樹、夏樹の高校時代。着ぐるみパジャマ……」
本当は夏樹のことを家の中に閉じ込めてしまいたい。誰も目にも触れさせたくない。そう願っていたが、あの子を精神的に追い詰めたことがあった。大学進学を期に、なるべく自由にと考えてきた。こういう考え方をしている俺のことを、夏樹は許してくれている。大きな子供だと言われている始末だ。現在では尻に敷かれている。
『夏樹と友達・学食』を選んで、表示させた。すると、イベリコ豚丼のソースを口につけた夏樹が映し出された。悠人、森本、山崎、真羽と並んで座っている。いい笑顔だ。
夏樹と悠人は2人とも人形のような顔立ちをしている。しかし、イメージは反対だ。大人びた夏樹と童顔の悠人。ゆったりしている夏樹と、しっかり者で動き回る悠人。ただし、行動パターンには共通点がある。そそっかしさだ。
最近ではバンドマンとして知名度が上がり、大学内にバンド活動のことが広まった。来年1月には、ミッシュアップコンテストという大会へ出場する。ディアドロップやベテルギウスが、この大会の出身だと聞いた。
「さてと……」
早瀬の姿が視界に入った。午前の会議2本は彼も出席する。課長と同格である室長以上の役職を集めた会議だ。第2四半期決算発表後、第3四半期決算に向けてのものだ。
「……早瀬、おはよう」
「……おはようございます」
「午前の予定だが、時間調整はどうなった?」
「10時半に変更です。8階のA1会議室にて、25分間の予定です。マーケティング推進室からは、僕と枝川が出席します」
「そうか。午後のコンラッドの代表との会議は?」
「それは秘書にお聞きください」
「もう一度、俺の秘書になってくれ」
「もう嫌です。5年間は苦行でしたから」
「そう言うな。デキている仲だろう?」
「……お断りします」
お互いに笑い声を立てた。こういうやり取りをするのは日常茶飯事だ。ここに入社した直後は、俺達がデキているという噂が立った。しかし、すぐに治まったのは、夏樹の存在が黒崎製菓グループ内で広まったからだ。このデジタルフォトフレームも効果があった。
黒崎製菓に到着した。この時間は出社する社員の姿が少なく、随分と静かだ。20階でエレベーターを降り、役員室と営業企画部のオフィスへと入った。カフェスペースでは、3人が過ごしていた。その中にいた南波が出てきた。彼は新しい提案書を作成しては持ち込んでくれる社員だ。
「常務、おはようございます」
「おはよう」
「先週のレストラン事業の件ですが……」
「今日の15時から時間が空く。デスクに来てくれ」
「はいっ」
南波が嬉しそうな笑顔を見せた。デスクに向かうまでに、同様の声が掛けられた。新しいアイデアの持ち込みをする社員も増えて、オフィス内には活気が生まれた。
役員室の自分のデスクに着き、最初にデジタルフォトフレームをセットした。夏樹の写真を眺める為だ。
「午前中はどれにするか。夏樹と友達・学食。バンドヴォーカル。アンと夏樹……、家庭菜園。家族樹、夏樹の高校時代。着ぐるみパジャマ……」
本当は夏樹のことを家の中に閉じ込めてしまいたい。誰も目にも触れさせたくない。そう願っていたが、あの子を精神的に追い詰めたことがあった。大学進学を期に、なるべく自由にと考えてきた。こういう考え方をしている俺のことを、夏樹は許してくれている。大きな子供だと言われている始末だ。現在では尻に敷かれている。
『夏樹と友達・学食』を選んで、表示させた。すると、イベリコ豚丼のソースを口につけた夏樹が映し出された。悠人、森本、山崎、真羽と並んで座っている。いい笑顔だ。
夏樹と悠人は2人とも人形のような顔立ちをしている。しかし、イメージは反対だ。大人びた夏樹と童顔の悠人。ゆったりしている夏樹と、しっかり者で動き回る悠人。ただし、行動パターンには共通点がある。そそっかしさだ。
最近ではバンドマンとして知名度が上がり、大学内にバンド活動のことが広まった。来年1月には、ミッシュアップコンテストという大会へ出場する。ディアドロップやベテルギウスが、この大会の出身だと聞いた。
「さてと……」
早瀬の姿が視界に入った。午前の会議2本は彼も出席する。課長と同格である室長以上の役職を集めた会議だ。第2四半期決算発表後、第3四半期決算に向けてのものだ。
「……早瀬、おはよう」
「……おはようございます」
「午前の予定だが、時間調整はどうなった?」
「10時半に変更です。8階のA1会議室にて、25分間の予定です。マーケティング推進室からは、僕と枝川が出席します」
「そうか。午後のコンラッドの代表との会議は?」
「それは秘書にお聞きください」
「もう一度、俺の秘書になってくれ」
「もう嫌です。5年間は苦行でしたから」
「そう言うな。デキている仲だろう?」
「……お断りします」
お互いに笑い声を立てた。こういうやり取りをするのは日常茶飯事だ。ここに入社した直後は、俺達がデキているという噂が立った。しかし、すぐに治まったのは、夏樹の存在が黒崎製菓グループ内で広まったからだ。このデジタルフォトフレームも効果があった。
0
あなたにおすすめの小説
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
孤毒の解毒薬
紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。
中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。
不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。
【登場人物】
西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。
白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!
タッター
BL
ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。
自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。
――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。
そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように――
「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」
「無理。邪魔」
「ガーン!」
とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。
「……その子、生きてるっすか?」
「……ああ」
◆◆◆
溺愛攻め
×
明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け
完結しました。
たまに番外編更新予定です。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる