夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

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 午前6時半。

 黒崎の出勤の支度時間まで、お互いにリビングで日課をやっているところだ。黒崎は仕事のメールチェックや資料を読むことだ。その間、俺は大学の勉強時間に当てている。こうして少しでも、2人で過ごす時間を増やす工夫をしている。

 リビングのテーブルにパソコンを並べて置き、黒崎の隣に腰かけた。そして、法学のレポート課題のまとめを終えて、経済の授業のノートを開いた。

「今日は経済か。宇宙科学はどうだった?」
「うん、おかげさまで高評価だったよ。お義父さんの図書室の本が役立ったよ」

 2年生までは、大学では全員が教養学部に属している。いろんな分野を学び、3年生に上がる前に学部の選択をする仕組みだ。自分はどこへ進もうかと考えているところだ。

「理学部を選択したらどうだ?法学は向いていないだろう」
「色んな人に言われているよ~。そうかな?」
「法学のレポートの評価が高いのは知っている。だが、俺は理学部が向いていると思う」
「うん。……あれ?」

 その時、テレビでニュースが流れた。アナウンサーの口から、黒崎製菓という単語が出てきたから顔を上げた。

「……3月期までの新中期経営計画……、営業利益率を3月期比……増の9.3%に……、ワタベ電機との提携により……」

 映像が切り替わり、見慣れた人物が映し出された。自分の隣にいる人だった。深川さんと黒崎が、ワタベ電機の社長さんと握手をしている様子が流れている。先月の映像だと、テロップに出ていた。

「これって、先月のやつだね?業務提携をした時の」
「そうだ。その後の展開を発表したニュースだ。裕理が出てくるはずだ」
「ああ、出て来たよー」

 黒崎が言った通り、早瀬さんの姿も映し出された。会議室でインタビューを受けていた。すると、テロップに出ている肩書が変わっていた。

「……営業企画部部長代理。推進本部統括。早瀬裕理氏って出ているよ?室長さんじゃないの?」
「本日付けで昇任した」
「それならお祝いしないと……。悠人は知っているんだよね?」
「おそらく。一週間前に内示してあったからな」
「それなら、早瀬さんのプレゼントも選んでくるよ」

 ちょうどいいタイミングだ。いつもお世話になっているから、何かしたいと思い続けていた。すると、黒崎が意地悪そうに笑ながら首を振った。

「下見にしておけ。嬉しくないものを選ぶだろう?」
「ええ?そんなことないよ」
「……精力剤は嬉しくない」
「う……っ、人の古傷に……」

 去年の黒崎の誕生日に選んだ精力剤のことでイジられた。ドラッグストアの店長さんのお勧めだったのに、全く飲んでくれなかった。疲れているだろうと思って選んだのに。結局、早瀨さんの家に持って行って、飲んで貰った。
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