夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

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 早瀬さんは悠人のことが大好きだ。そういう悠人が怪我をしないかと心配になるのだろう。目の届くところに居てもらいたい。昔、黒崎が俺にそう言っていた。今、早瀬さんも同じ気持ちなのかも知れない。

「今日はプレゼントを買うんだろ?元気を出せよ」
「うん。何が良いのかは聞いていないんだ。何でも良いって言うからさ。俺のことを、どうでも良いのかなって思ったんだ」
「ゆうとー。どうしたんだよ?そんなこと、絶対に無いと思うよ。黒崎さんに聞いてあげようか?早瀬さんが冷たいみたいだって」
「なつきーー。それはいいよ。喧嘩になりたくないからさ」
「もしかして、今朝、喧嘩をしたのかよ?」
「ううん。ゆっくりしておいでって言ってもらえたよ」

 ポチャン。悠人が湯船に沈み込むようにして浸かり直した。顔が真っ赤だ。のぼせてしまうかも知れない。俺は一旦、上がることにした。悠人もそうした方が良いだろう。

「そろそろ露天風呂に行ってみない?気持ちよさそうだよ」
「うん。あ、夏樹。あの……」
「どうしたんだよ?」
「キスマークも薄くなったんだ。俺に興味が無くなったのかもって思うんだ」
「大丈夫だってば~。キスマークを付けるなって言っていたじゃん。さあ、縁日にも行こうよ」

 悠人の手を引いた。すると、彼がさらに真っ赤になった。俺に色気があるからだと言われて驚いた。

「ヒャーーー。悠人、今日は変だよ?」
「そうかもしれない。夏樹みたいに大人っぽくなれたらいいなあ」
「悠人も大人っぽいよ。頼りがいがあるじゃん」

 俺達は露天風呂に移動した。外に出たときは寒いと思ったけれど、お湯に浸かっているうちに、ちょうど良くなってきた。悠人の顔も赤みが消えている。あのままだとのぼせるところだったと思う。

「夏樹。黒崎さんのお父さんとはどう?」
「仲が良いよ。ご近所さんから食パンとかお菓子とかもらうから、お義父さんにもお裾分けしているんだ。色んな物を食べているから、顔色が良くなって、ますます元気だよ。アンの散歩に行くようにしているから、健康的だし」
「寂しくないね!」
「うん。でもさ~、親戚の人が来て、お義父さんに嫌みを言って帰っているみたいなんだ」
「なんだよ、それ」
「俺が養子になったのが気に入らない人だよ」

 はあ、とため息をついた。お義父さんには9人の息子がいる。そして、二葉という女の子もいるから、10人兄弟だ。そろそろお兄さん達に会いたいと思っている。晴海さんともだ。

 お義父さんにはたくさんの息子がいるけれど、全員が実子では無いそうだ。お義父さんの恋人だった人達には息子がいて、いずれは養子にと考えていて、その人達を合わせて9人兄弟というそうだ。お義父さんの実子は、拓海さんと晴海さんと二葉と黒崎と他のお兄さんの7人だということだ。お兄さん達は誰一人として、俺が養子になったことで文句を言ってきた人はいないそうだ。島川さんから嫌みを言われただけだ。ということは、黒崎の味方になってもらえる人がいることではないだろうかと思っている。でも、黒崎が嫌がっている。お兄さん達と俺が会うと、親戚の声が大きくなるそうだ。

「はあ。親戚づきあいって大変だねえ。そうだ。悠人のお父さんは元気?」
「元気みたいだよ。恋人の宮田さんの赤ちゃんも順調だよ」
「とうとう悠人にも兄弟ができるんだね。もう男の子か女の子か分かっているの?」
「女の子の可能性が高いみたい。病院の先生には内緒にしてもらうそうだよ」
「へえーーー。楽しみ?」
「うん。俺、ずっと一人っ子だったからさーー。妹って、どんな感じだろう」

 悠人にはもうすぐで生まれてくる弟か妹がいる。お父さんとの仲が良くなってきて、寂しくないようになっていると言っている。後は早瀬さんの新しい仕事が落ち着くといい。大丈夫だよ。もう一度悠人にそう言い、頭を抱き寄せた。
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