夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

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 ガタ……。

 トイレに着いた。誰もいなかった。そこで、説明会でのことを思い出した。ここは、言いがかりを付けられた場所だ。あの3人は参加していないようだ。名簿には名前がなかった。

 お義父さんの話では、あの説明会の間、社員の方で参加者を観察していたそうだ。自由な雰囲気の中での振舞い方を見ていたと教えてくれた。トイレであろうが通路であろうが、どこにでも目はあったという。前向きなタイプが今回の参加者だそうだ。

 黒崎からは、それは普通のことだと教えられた。これからは全てが本番であると言っていた。それでも固くなるなというアドバイスを受けて、バランスを取るのが難しそうだと思った。

 ガタガタ、カツン……。

 顔を洗った。そして、ハンカチで手を拭いていると、黒崎が入って来た。心配そうな顔をしている。

「ああ、黒崎さん。ごめん、心配したよね?」
「もちろんだ」
「顔が火照ったから冷やそうと思って……」
「気をつけろ。顔を拭いてやる。……いたいのいたいのとんでいけをしてやろうか?」
「ここじゃ恥ずかしいからさ~」
「甘ったれを卒業したのか?」
「うんっ。帰った後でしてよ」
「構わないぞ。さあ、戻ろう」

 黒崎から促されてトイレを出た。まもなくインターンシップの開始だ。時間が無い。だから、廊下に出た後は無言だった。

 ここでの自分たちは、常務取締役とインターン生という関係だ。大会議室へ戻る時には、別々に入って行った。俺は参加者側の席に着き、黒崎は社員さん達の方へ向かった。
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