夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

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 何となくテレビを観ていると、冬向け料理の紹介へ移った。色んな商品が並んでいる。レトルトパックや、すき焼きの具材などだ。

「……『サエキ酒造の純米吟醸を使ったものが、こちらです』」
「この会社、理久君のところだよ」
「そうだったな。老舗ブランドだ」

 理久の家は、酒造メーカーの創業者一族だ。明治前から蔵元を始めて、お祖父さんの代で会社にしたと、黒崎から聞いた。黒崎ホールディングスとは取引があり、レストランでは、ここのお酒を使っていたそうだ。

「黒崎さん。インターンの初日のことだけど。グループの入れ替えをしたのは、参加者が帰ったからなの?あんなに騒ぎになって、変な空気になったからだよね?」
「……半分は当てはまる。ある程度の性格を読んでグループ分けをしてあったが、実際は上手くいかないこともある。臨機応変に対応している」
「理久君が気にしていたんだ。早瀬さんから引き止めてもらったのは、自分だけかもって。そうなの?」
「そのとおりだ。謝るというアクションを起こしたのは、佐伯君だけだった。枝川へ謝りに行っていた。その上で退出すると言い出したから、引き止めた」
「一緒にいたグループから、変なことを言われていたよ。内定が決まっているなら参加するなって……」
「入社面接で大事にしているのは、本人の話に筋が通っていることと、根性があるかどうかだ。転職組は成果重視だがな」
「本人へ話してもいいかな?少しは、モヤモヤが晴れると思う」
「構わないぞ。……いい子だろう?人の悪口を言わない。空気を読んでないようで、誰よりも読んでいる」
「物怖じしないし、嫌味もないんだよね。真っ直ぐな子だよ」
「よく見たじゃないか。試作品のアイデアを売り込んで来ている。インターンシップに参加してもらって良かった」
「そうだったんだね?どんな試作品なの?」
「本人に聞くといい。語ってもらえるだろう」
「先に教えてよー。会話の糸口にしたいからさ。これでも人付き合いを努力しているんだ」
「分かった。彼が作っているのは甘酒を作る保温容器だ。甘酒の完成に深く関わっていると言っていた」
「へえー、面白いね。さすがは酒造メーカーの子だよ」
「話してみろ。熱意がある」

 黒崎が肩を揺らして笑った。ふと、自分のことが気になった。勉強になるからという理由で参加した。それだけでいいのだろうか?お義父さんからの気持ちは有難いのに、肝心の自分自身に根っこがないように思う。

「俺には根っこが無いよ……」
「今は勉強だと思うだけで構わない。歌を続けるだろう?大丈夫だ」
「うんっ。ありがとう」

 ポンポンと頭を叩かれた。黒崎製菓の新しいCMが流れたことで、自然に話題が移った。チョコレートのジュリエットシリーズに、95%と85%カカオの新しい商品が出たそうだ。興味があると話すと、黒崎から苦笑いをされた。その意気だと言いながら。
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