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12時半。
本社ビル一階のシャルロットキッチンにて昼食中だ。早瀬、枝川、桜木との4人だ。深川副社長も合流する予定だ。気の多い枝川が、お気に入り子の話題を出している。夏樹と悠人のことが中心だ。悠人がマーケティング推進部の募集したバイトに参加し、枝川と多く関わった。好きになったと言っている。
「早瀬代理~、悠人君を連れ来てくださいよ」
「もうバイトは募集していない。インターンシップの予定もない」
「ええ?インターンに誘ってくださいよ~」
「音楽活動に重点を置いている。ここにも連れて来ない」
「ああー、こうなれば夏樹君ですね!……今度の短期コースへ、エントリーするんですよね?」
「まだ決めていない。悠人君と同じだ。コンテストが今月末にあるから、そっちを優先している」
「えええ~」
本当に気が多い奴だ。ただし本人は常識があり、これが冗談だと通用する相手にのみ話している。インターンシップでは夏樹のことを守っていたし、悠人のことも同じだ。
「そろそろ夏樹に連絡する。いいか?ここでも」
「もちろんです」
「はい、静かにしておきます」
「ああ、俺も悠人に……」
早瀬が笑っている。何か含みがある様子だ。夏樹へ電話をかけた。父の家で昼食中だろう。さっそくビデオ通話で電話をかけると、すぐにつながった。ダイニングで食事中だった。
「黒崎さん。お疲れさまー」
「ああ。今日は何を食べている?」
「これだよ。五目あんかけ焼きそば。お義父さんも同じメニューだよ。山崎さんが作ってくれたんだよ」
「……美味そうだ。味はどうだ?」
「今から食べるよ。待っててね。美味しい~。アッサリしているよ。野菜が多くて、ごま油の香りもいいよ。さすがだなあ」
夏樹が丼から顔を上げると、口元にあんかけが張り付いていた。細く切ったニンジンだ。その可愛さに、ため息が出た。
「どうしたの?」
「いや、何でもない。お茶が美味かった。口に付いているぞ」
「……うん。どう?取れているかな?」
「ああ、取れているとも」
「この豚肉がね~」
「そうなのか……。作ってほしい」
「うん。いいよ」
毎回思うことだが、夏樹の仕草には心が蕩けそうになる。帰宅すればいつでも見られるが、届かない距離で焦らされているのは悪くない。帰宅後が楽しみだ。
「黒崎さんは何を食べたの?シャルロットキッチンだよね?」
「サンドイッチとローストチキンのセットにした。スープはミネストローネだ。2号店のメニューを計画中で、よく来ている。……親父と電話をかわるのか?……どうした?」
夏樹の横から親父が顔を出した。嬉しそうだ。夏樹と食事をする際には、必ず隣に座っている。今日もそうなのかと呆れた。
「……圭一。その2号店計画のことだが。メニュー開発チームを集めているところだろう?」
「……ああ、メンバー選定はこれからだ」
「だいたいの青写真が出来ているだろう。夏樹ちゃんをメンバーへ入れろ」
「インターンシップ生としてか?」
「そのとおりだ。名目はそれだ。前回のインターンで、いい結果を出した子がいただろう?佐伯君と如月君だったはずだ。二人にも声をかけてくれ」
「夏樹は知っているのか?」
「今の話で知ったよ。さっき話をしていたんだよ。黒崎ホールディングス時代のとき、俺、デザートのアイデアを出していただろ?それが印象に残っているんだってさ。ねえ、隆さん?」
「そうだよ。圭一とも話そうと思っていると電話がかかってきた。……どうだろう?やってもらえないか?コンテストが終わってからだ。学業と音楽もあるが、会社へ出向くのはミーティングぐらいで、ほとんど家の中で仕上げる」
「ふうん……」
「そうか……」
それならやらせてみようと思った。自分の手を離れていくのが寂しくて、次回の業務参加型インターンへの参加をさせたくなかった。しかし、夏樹はやりたがっており、答えを先延ばしにしていた。今回のケースなら丁度いい。2人へ頷くと、夏樹が嬉しそうに笑った。
「……この話は以上だ。……親父、夏樹のことを頼む。あまり長居をさせるなよ」
「分かっている。夏樹ちゃんは人気があるからな。なるべくだ」
「じゃあね。すき焼きを楽しみにしてね~」
「ああ……」
電話を切った後、早瀬も同様に話を切り上げていた。その横顔は満足そうだ。何か約束を取り付けた様子だ。俺達の会話が聞こえていたのだろう。早瀬の方から質問をされた。
「夏樹君をメニュー開発チームに組み込ませるんだね?」
「そうだ。親父からの推薦だ」
「分かった。段取りしておくよ。また面接があるんだけど、コンテストの前後だった気がする……。この日だよ。OK?」
「その日で頼む。お前が担当するのか?橋本はどうした?」
「出張だよ。俺は統括だからやるよ。とうとうだね……」
「ああ。夏樹を黒崎製菓グループへ入れる方向になる。勤務形態は検討中だ」
父が夏樹を黒崎製菓で育てようとしているのは、親心からだ。知人へ紹介して縁を深めていき、黒崎製菓グループ内での居場所も作る。もしも俺達に何かが起きて、俺が夏樹のそばに居られなくなった時に備えてのことだ。本当にそれだけなのか?まだ囲い込みたい気持ちが抑えられなくなりそうだった。
夏樹へラインを送った。メンバー候補としての面接日時と、愛しているという言葉も添えて。
本社ビル一階のシャルロットキッチンにて昼食中だ。早瀬、枝川、桜木との4人だ。深川副社長も合流する予定だ。気の多い枝川が、お気に入り子の話題を出している。夏樹と悠人のことが中心だ。悠人がマーケティング推進部の募集したバイトに参加し、枝川と多く関わった。好きになったと言っている。
「早瀬代理~、悠人君を連れ来てくださいよ」
「もうバイトは募集していない。インターンシップの予定もない」
「ええ?インターンに誘ってくださいよ~」
「音楽活動に重点を置いている。ここにも連れて来ない」
「ああー、こうなれば夏樹君ですね!……今度の短期コースへ、エントリーするんですよね?」
「まだ決めていない。悠人君と同じだ。コンテストが今月末にあるから、そっちを優先している」
「えええ~」
本当に気が多い奴だ。ただし本人は常識があり、これが冗談だと通用する相手にのみ話している。インターンシップでは夏樹のことを守っていたし、悠人のことも同じだ。
「そろそろ夏樹に連絡する。いいか?ここでも」
「もちろんです」
「はい、静かにしておきます」
「ああ、俺も悠人に……」
早瀬が笑っている。何か含みがある様子だ。夏樹へ電話をかけた。父の家で昼食中だろう。さっそくビデオ通話で電話をかけると、すぐにつながった。ダイニングで食事中だった。
「黒崎さん。お疲れさまー」
「ああ。今日は何を食べている?」
「これだよ。五目あんかけ焼きそば。お義父さんも同じメニューだよ。山崎さんが作ってくれたんだよ」
「……美味そうだ。味はどうだ?」
「今から食べるよ。待っててね。美味しい~。アッサリしているよ。野菜が多くて、ごま油の香りもいいよ。さすがだなあ」
夏樹が丼から顔を上げると、口元にあんかけが張り付いていた。細く切ったニンジンだ。その可愛さに、ため息が出た。
「どうしたの?」
「いや、何でもない。お茶が美味かった。口に付いているぞ」
「……うん。どう?取れているかな?」
「ああ、取れているとも」
「この豚肉がね~」
「そうなのか……。作ってほしい」
「うん。いいよ」
毎回思うことだが、夏樹の仕草には心が蕩けそうになる。帰宅すればいつでも見られるが、届かない距離で焦らされているのは悪くない。帰宅後が楽しみだ。
「黒崎さんは何を食べたの?シャルロットキッチンだよね?」
「サンドイッチとローストチキンのセットにした。スープはミネストローネだ。2号店のメニューを計画中で、よく来ている。……親父と電話をかわるのか?……どうした?」
夏樹の横から親父が顔を出した。嬉しそうだ。夏樹と食事をする際には、必ず隣に座っている。今日もそうなのかと呆れた。
「……圭一。その2号店計画のことだが。メニュー開発チームを集めているところだろう?」
「……ああ、メンバー選定はこれからだ」
「だいたいの青写真が出来ているだろう。夏樹ちゃんをメンバーへ入れろ」
「インターンシップ生としてか?」
「そのとおりだ。名目はそれだ。前回のインターンで、いい結果を出した子がいただろう?佐伯君と如月君だったはずだ。二人にも声をかけてくれ」
「夏樹は知っているのか?」
「今の話で知ったよ。さっき話をしていたんだよ。黒崎ホールディングス時代のとき、俺、デザートのアイデアを出していただろ?それが印象に残っているんだってさ。ねえ、隆さん?」
「そうだよ。圭一とも話そうと思っていると電話がかかってきた。……どうだろう?やってもらえないか?コンテストが終わってからだ。学業と音楽もあるが、会社へ出向くのはミーティングぐらいで、ほとんど家の中で仕上げる」
「ふうん……」
「そうか……」
それならやらせてみようと思った。自分の手を離れていくのが寂しくて、次回の業務参加型インターンへの参加をさせたくなかった。しかし、夏樹はやりたがっており、答えを先延ばしにしていた。今回のケースなら丁度いい。2人へ頷くと、夏樹が嬉しそうに笑った。
「……この話は以上だ。……親父、夏樹のことを頼む。あまり長居をさせるなよ」
「分かっている。夏樹ちゃんは人気があるからな。なるべくだ」
「じゃあね。すき焼きを楽しみにしてね~」
「ああ……」
電話を切った後、早瀬も同様に話を切り上げていた。その横顔は満足そうだ。何か約束を取り付けた様子だ。俺達の会話が聞こえていたのだろう。早瀬の方から質問をされた。
「夏樹君をメニュー開発チームに組み込ませるんだね?」
「そうだ。親父からの推薦だ」
「分かった。段取りしておくよ。また面接があるんだけど、コンテストの前後だった気がする……。この日だよ。OK?」
「その日で頼む。お前が担当するのか?橋本はどうした?」
「出張だよ。俺は統括だからやるよ。とうとうだね……」
「ああ。夏樹を黒崎製菓グループへ入れる方向になる。勤務形態は検討中だ」
父が夏樹を黒崎製菓で育てようとしているのは、親心からだ。知人へ紹介して縁を深めていき、黒崎製菓グループ内での居場所も作る。もしも俺達に何かが起きて、俺が夏樹のそばに居られなくなった時に備えてのことだ。本当にそれだけなのか?まだ囲い込みたい気持ちが抑えられなくなりそうだった。
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